テラーノベル
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「…本当に来たのか。…大きくなったなあ!あの時は、あんなちっさくてクソ生意気なガキだったのに。」
「お前に親ヅラされる筋合いは無い。それ以上俺に近づくな。殺すぞ。」
「めっちゃ口悪くなったな、お前。」
あの時はまだ俺のことを「アナタ」と呼んで、「殺す」じゃなくて「やっつける」とか、柔らかくて可愛い言葉遣いをしていたのに、今は俺のことをお前呼ばわり、そして堂々な殺傷宣言。…随分と、あいつに似てきたな。
「分かってるとは思うが、俺はお前と交友を深めるためにここに来たんじゃない。お前を殺すために来たんだ。」
「ああ勿論分かっているよ!」
「…本当に分かってるのか?」
俺が他国に殺されるなんてことはまずありえない。規格外と言われる先進国の中でも、更に俺は規格外。そんな俺が殺されるなんてことは万に一つもない。例えそれが、卑怯な不意打ちだったとしても。
「…まあいい。覚悟しておけ。そう遠くない未来でお前を殺してやるから。」
「ああ、楽しみにしてるよ。」
「……フン。」
美しい顔立ちを酷く歪ませ、ゴミを見るような蔑んだ目で見上げてくる。こんな強気な態度だといのに、見下ろすではなく見上げるのだから、可愛いものだ。
「おーい、アメリカ!何勝手に会議を抜け出してるんだ!」
「ゲッ…ドイツ。」
「君は先進国としての自覚が…おや、そちらの方は?」
ドイツの長ったらしい説教が来るかと思ったが、彼の意識はすぐに俺の隣にいた日本国へとうつった。
「こいつは日本国。ほら、国連が言ってた…」
「あー!来月から…そうかそうか。歓迎するよ。俺はドイツ連邦共和国。」
「…日本国です。どうぞよろしくお願いします。」
なんだか俺とドイツの対応の差が激しい気がするが、きっと気のせいだろう。
「…はい、ということで、軽い挨拶も済んだとこだし…俺はこのバカを回収する。」
「うぉっ、離せ!」
「それじゃあ日本君、また会おう。」
「はい、またお会いできる日を楽しみに待っております。」
ドイツはご自慢の力で俺の首根っこを掴み、先程の会議室へと連れていこうとする。そんな手荒な方法しなくても、普通に戻るというのに…
「ドイツ、首が痛え。」
「我慢しろ。」
「あ”ーーー…長かった。なんでこんな長ったらしい会議に参加しなきゃなんだ。」
「お前が世界の中でもトップレベルの先進国だから。」
「んなマジレス求めてねえ。俺を慰めろ。」
「なんで俺がお前なんか慰めなきゃいけないんだ。…慰めて欲しいのはこっちだ。」
ドイツは半ギレで俺にそう言い、荷物を持っていち早く部屋を出ていった。真面目なドイツはいつも仕事に追われている。彼が休んでいるところを俺は見た事がない。大変だなあと他人事にとらえながら、俺も自身の荷物を持って部屋を出ていった。…日本国は、もう帰ったのだろうか。
「(ちょっくら探してみるか。)」
「あ、おーい!フランス。」
「ん…?あら、アメリカ。どうしたの?」
「日本国見なかったか?あの、日の丸の…」
「…私は見てないわ。」
「……そうか。」
「おや、珍しい2人組だ。」
「あ、ブリカス。なんかお宅の息子さん、日本国?って国を探してるらしいわよ。」
「…日本国……紅白の?その国なら、ちょうど庭の桜の下にいましたよ。さっきまで。あとだーーれがブリカスだ。おい。」
「ハハ…𝘛𝘩𝘢𝘯𝘬 𝘺𝘰𝘶︎︎!助かったぜ。」
巻き添えで俺まで怒られる前に、さっさとこの場を退散する。フランスが「私を置いていくな」と必死に目で訴えかけてくるが、知ったこっちゃない。勝手に自分から口を滑らせたのだから1人で勝手に怒られて、勝手に死んでくれ。
「(庭の桜か…)」
庭に1本だけある、綺麗なピンク色の花弁を咲かす桜の木。その桜の木の下で告白した者は必ず結ばれて幸せになるだとか、その桜の木の下には死体が埋まっているだとか、様々な噂が飛び交っている桜の木。
「(しっかり見るのは初めてかもな。行ってみるか。)」
「…お、いたいた。おーい、日本国〜!」
後ろからそう声をかけると、彼は瞬時にこちらへ振り向き、思い切り後ずさってきた。
「…何の用だ。」
「そんなビビることないだろ。」
バレないように気配を殺しながら背後へ回ったが、まさか本当に声をかけるまで気づかれないとは。そんなにこの桜に見惚れていたのだろうか。確かに美しい桜ではあるが…
「桜、好きなのか?」
「…どっちかというと嫌いだな。」
「思わぬ回答だな。てっきり好きなのかと。」
「……桜、というより…春が嫌いなんだ。」
「…なぜだ?暖かくて、過ごしやすい季節じゃないか?」
言った後に、自分が失言したことに気が付いた。見るからに、日本国の顔が歪んでいた。必死に脳内で言葉を繋いでゆく。
「ごめん。あんま聞かない方が良かった?」
「別に。ただ、春に良い思い出がないってだけだから。」
「…そうか。あー、そうだな…じゃあ、俺と一緒に良い春の思い出でも作ろうぜ。これから。」
「作るわけないだろ。…俺はお前と交友を深めるためにここに来たんじゃねえってことを忘れんな。」
「はいはい。わーってますよ。」
少し不満げに顔を歪ませる日本国を横目に、俺はずっと聞きたかったことを聞いてみた。
「…今殺さないのか?俺のこと。」
「…逆に問うが、お前は私に正面から攻撃された程度で死ぬのか?」
「死なない。そんなヤワじゃない。」
「だろ?…そんなバカ正直に特攻なんてしない。」
…分かってはいた。分かってはいたが、やはり日本国は大日本帝国ではない。今俺の横にいる人物は、確かに大日本帝国と瓜二つ。だが、馬鹿正直に正面から突撃して、死すら恐れぬ動きでこちらを殺そうと暴れやがった大日本帝国ではないのだ。
「…俺を殺せるその時まで、気長に待つと。」
「そうだ。」
「良いんじゃないか?…その時を、楽しみに待っているとしよう。」
「…お前、変なやつだな。」
「言われ慣れてるよ。俺からしたら、お前の方がよっぽど変なやつだけどな。」
「…そうだろうな。」
「アメリカ合衆国、よく聞け。」
「…なんだ?」
「俺はいつか、必ずお前を殺す。そのためにここまで来たんだ。お前の命日まで、首洗って待っておけ。」
「ああ、首洗って待っててやるよ。お前がどれだけ強くなったのか、確かめてやるから。」
コメント
2件
日本国見下ろすじゃなくて見上げるなの可愛いなぁ…口調があっという間に変わって…(?)続きめちゃ楽しみにしてます!