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目を開けると陽だまり色の花畑が広がっていた。
太陽が低く降りた谷の花畑。
夕日の暖色が体を照らしている。
花畑の陽だまり色の正体は百合の花だった。
陽だまり色。
言い換えればオレンジ色の百合の花。
僕の大好きな花だ。
そのオレンジ色に凛とした姿が夕日に似合ってとても綺麗だった。
しかしなぜ咲いているのか。
時期でもないのに…
その瞬間思い出した。
「あぁ、夢か。」
寝ぼけているせいか、いつも見ているあの暗い部屋の景色すら忘れていたのだ。
久しぶりに花畑の夢を見た。
「今日はあの悪夢を見ずにすみそうだ。」
足元でふわふわと花が揺らいでいる。
深いオレンジ色のシルエットが目の裏に焼きつき、頭の中の嫌なものを侵食していく。
ずっとここにいたい。と、そう思った。
空のオレンジと花畑一面のオレンジが、心を暖かく癒してくれる。
ふと、脳裏に彼女の姿が浮かんできた。
透き通るようなオレンジの鰭は月明かりの中で一層に輝き、暗く弱った心を癒してくれる。
その点、彼女は百合に似ている。
彼女にもこの景色を見せてあげたい。
それから、なんとなく夕日の方向へ歩いていると、オレンジの中に小さく人の姿があるのが見えた。
オレンジがかった長い髪に、存在を静謐に引き立たせる白色のワンピース。
「えっ、あ、あれって。」
その刹那、時が止まったような感覚を得た。
彼女だ。いつも不器用そうに泳ぐ彼女だ。
姿、形もちがう。
今見えているのは人の姿で、彼女は魚だ。
だが、何故か見た瞬間に彼女だとわかった。
本能的な何かがそう言っている。
彼女の元に。
彼女に会いに行かなくては。
僕は咄嗟に走り出した。
走れる。
夢の中だからだ。
息が切れることもない。
だんだんと大きく見える白い背中。
その時、 彼女がこちらに振り向いた。
夕日に照らされた彼女の姿は透き通って見えて、ありもしない耀いを錯覚させる。
勢いのままに彼女を抱きしめた。
周りで花びらが舞い散る。
温かい。陽だまりの中にいるようだ。
彼女の体は少し小さくて、ほんのり百合の香りが香った。
ふと、我にかえる。
突然に抱きしめてしまった。
彼女はどんな表情をしているだろう。
驚き?恐怖?
前提として、僕のことを知っているだろうか。
恐る恐る顔を覗くと彼女の目元には涙が溜まり始めていて、今にも溢れそうだった。
その涙をみて、僕は途端に困惑した。
「彼女を泣かせてしまった、」
何か落ち着かせる手はないかと、彼女に声をかけようとした時、先に口を開いたのは彼女だった。
「あなたをずっと抱きしめたかった。あなたの話をちゃんと聞きたかった。笑顔のお返しも、優しさのお返しも、お礼も、全部したかった。」
彼女の目からは多くの粒が次々に溢れた。
嗚咽まじりになりながらも、彼女は 必死に訴えてくれた。
その姿はいつも見ていた彼女そのものの、百合の花びらのように儚く、綺麗な姿にみえた。
夢の中という長いようで短い時間で、
彼女のことも沢山をきいた。
ずっと助けになりたいと思ってくれていたこと。
お月様にその手伝いをしてもらったこと。
涙はいつのまにか笑顔へと変わり、 彼女はとても楽しそうに話してくれた。
彼女は夢の中、人間の姿になって僕に会いに来てくれたのだ。
今まで、彼女は僕に生きる勇気を与えてくれていた。
それでも辛い日はあったし、どうしようもない苦しみに耐えることに嫌気がさした時も合った。
それでも、今、こうして彼女は会いに来てくれた。
僕はこれ以上ないほどに幸せだった。
この夢が覚めることなく、一生続けばいいのに。
百合の花のほのかな香りが僕たちを優しく包んでいた。