テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
10,712
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
次の日も 男は来た。
誰に咎められることもなく
当然のように、広間へ通される。
まるで最初からそこに属しているかのように。
薄布の向こう。
少年は、すでに座っていた。
「……また来たんですね」
変わらない声。
驚きも、歓迎もない。
男は短く答える。
「来ると言った覚えはないが」
「では、なぜ」
間を置かずに問う。
男は、少しだけ考えるように視線を逸らし――すぐに戻す。
「来たいからだ」
即答。
理由としては不完全すぎる。
「……それは、理由になっていません」
少年は言う。
正しい指摘。
男は肩をすくめる。
「そうか」
それで終わりだと言わんばかりに。
沈黙が落ちる。
少年は、布越しに男を見る。
昨日と同じ位置。
「あなたは」
ぽつりと、口を開く。
「なぜ、毎日来るのですか」
今度は少しだけ間があった。
男は答える。
「飽きないからだ」
少年はわずかに眉を寄せる。
「他の者たちは、来ません」
「来る理由がないからだろう」
「あなたには、あるのですか」
男は、少しだけ笑う。
「あると思うか」
問いで返す。
少年は、考える。
あるのか、ないのか
必要なのか、不要なのか。
だが、 結論は出ない。
「……分かりません」
正直に言う。
男は頷く。
「それでいい」
それ以上、説明しない。
また、沈黙。
それでも
男は帰らない。
時間だけが、静かに過ぎる。
「……帰らないのですか」
少年が言う。
「なぜ帰る」
「用は済んだはずです」
「済んでいない」
即答。
少年は、ほんの少しだけ言葉を失う。
「……何が」
「見ている」
それだけ。
布の向こう。
少年の指が、わずかに動く。
見られている。
それは、今までも同じだった。
多くの者が、見ていた。
けれど。
「……違う」
小さく、呟く。
何が違うのかは、分からない。
ただ、 あの男の視線は。
「見ている」のに。
“測っていない”。
“比べていない”。
ただ、そこにある。
理解できない。
「……あなたは」
もう一度、問う。
「何を見ているのですか」
男は、少しだけ考える。
「さあな」
答えになっていない。
「だが、お前が分からないものを見ている」
静かな声。
その言葉が、 わずかに引っかかる。
少年は黙る。
理解しようとする。
だが、 やはり分からない。
それでも。
「……明日も、来るのですか」
気づけば、そう聞いていた。
男は、迷わない。
「ああ」
それだけ。
当たり前のように。
少年は、少しだけ目を伏せる。
「……そうですか」
拒まない。
理由がないから。
ただ 「分からないもの」が、そこにある。
それを 手放す理由もまた 分からなかった。