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「午前のプログラムが終了しました。生徒の皆さんはお昼休憩を取ってください。なお次の集合時刻は___」
私は、孤爪くんに会えないまま、お昼休憩になってしまった。
ここからは、親御さんも立ち入って場が混み合う。
午前中のうちに孤爪くんと顔を合わせておきたかったけど、私にとっては好都合でもある。
まだ、孤爪くんとダンスを踊るということに実感が湧いていない。
心の準備をする余裕が欲しかった。
だからちょうどいいと思い、私は自分の祖母を探した。
両親は今日忙しいから体育祭は見られないと聞いていた。
代わりに祖母が昼になったら私のお弁当を届けてくれると言っていた。
私は人混みをかき分けて、祖母との待ち合わせに向かった。
「はい、これお弁当ね。暑いから体調崩さないようにね。ちゃんと水飲んで、なるべく日陰にいること。」
「ありがとうおばあちゃん。大丈夫だよ。」
両親よりも過保護な祖母は、私に新しいタオルを首に巻いて「午後も頑張ってね。」と言って祖父の車に戻って行った。
祖父は前方の窓越しに顔をのぞかせ、私に優しく手を振った。
私も手を振り返して、祖父母の車を見送った。
私はお弁当を片手に小春を探していた。
お昼は一緒に食べようと言っていたのだが見つからない。
私が諦めかけたとき、体育館奥の花壇から、か細い泣き声のようなものが聞こえた気がして私は足を止めた。
体育館の奥に行き、キョロキョロと辺りを見渡して、花壇に座る人影を目にする。
近くまで行き、それが誰かわかった時、私は息を飲んだ。
「…小春?」
「××….。」
小春は弾かれたように顔を上げ、私をみて呟いた。
私は小春の横に小走りで向かい、座る。
「××…私ね。」
小春は小さく笑って、「振られちゃった」と冗談のように軽く言った。
でも、その顔をみれば、その声を聞けば、かなりのショックを受けていることはすぐ分かる。
私は何も言わずに、小春の背中を摩った。
「…走った××をね、追いかけて、私も保健室に行ったんだ…。けどその途中の廊下で、孤爪くんとばったり会って、あー、今しかないなって、思った。」
「うん。」
「けどね、孤爪くん、急いでたのか私と少し挨拶して私の横通り過ぎたの。」
「うん。」
「だから…ね、このまま伝えられないのも、絶対後悔すると思ったから、「孤爪くん」って、振り返って呼んだの。」
「うん…。」
「そしたら孤爪くん止まってくれてね、こっち向いてくれたの。私、思いきって好きですって言ったんだ、付き合ってくださいって。」
小春はそこでふーっと息を吐き出した。
「そしたらね、ごめんって。….返事、すっごく早くて、びっくりしちゃった…。」
小春はまたクスクスと笑う。
だけど今にも泣き出しそうな顔だった。
私は、それを聞いて、それを見て、心のどこかで喜びの気持ちがあるのを感じた。
孤爪くんが、小春の告白を断ったという事実に、私の心は喜びでいっぱいになりそうだった。
私は、本当に最低だ。
広瀬くんに言われた。
いくら自分に嘘をつかないって言っても…。
大切な親友が泣くほどショックを受けているというのに、喜んでいるなんて。
私は最低、嫌な人間だ。すっごく汚い。
「ごめんね…こんな話されても、困るよね…。ごめんね××。」
俯いて言った小春は、しばらくしてから顔を上げた。
もう涙は乾いていた。
「さて、私お腹ぺこぺこだよー。××だけそんないいお弁当持ってずるい!私も親に貰ってくるね。あ、私に構わず先に食べてていいからね!戻ってこられるか、分からないから…。」
「…わかった。気をつけてね。」
小春は大きく頷き、じゃ、行ってくる!と手を振った。
私は、しばらく立つことができなかった。
お腹も空いたし、ここでお弁当の包みを開いた。
誰とも会いたくなかった。
私はずっと自己嫌悪と戦っている。
自分に心底嫌気がさした。
親友の泣いている顔を見てもなお、自分のことを優先してしまう自分が本当に嫌だった。
そんな人間にならないように、そう思わないようにずっと気をつけてたのに。
肝心な時に、心は思い通りになってくれない。
会いたくないのに、けど、君だから。
「××…!」
私は大好きな優しい声に呼ばれた。