記憶。
 記憶とは、過去の経験や取り入れた情報を脳内に保管して、後になって思い出す機能。
 俺には人の記憶を読み取ることが出来る。否や、正確に言えば人の記憶が見える。
 何せそういう”個性”だから。
 個性が発覚したのは4つになる頃、自信が相手の身体に触れさえすれば、相手の記憶、基過去が相手視点で見ることが出来る。音声は無いものの、映画みたいに、時が進んでいく。
 当時の馬鹿だった俺はその個性を使い父親の記憶を見た。 そのとき、母親以外の女性と仲睦まじく過ごしているような光景が流れた。
俺が見ようとしたのはここ一週間の過去。となれば、当時4歳の俺は不審に思ったのだろう。
 「ねえ、何で女の人と居るの?何でお父さんから手、繋いでるの?」
 そう口にした途端、隣で息子の成長を喜んでいた両親の顔は次第にかわった。
 母親は父親を問いつめた。すると父親の浮気が発覚して、即離婚。幼かった俺は母親に連れていかれた。
 そこで来たのが大阪。母親の生まれ育った町だ。大阪の田舎の方で、母親とふたりで暮らしている。
 ずっとその夢のように平凡な日々が続けばよかった。
 でも、現実はそう甘くない。
 母親は父親に裏切られたという事実から、酒に溺れ、次第にお金に困り夜の街へ。
 生活費のことを考えると、そうするしかなかったんだと思う。
 子供ながらに壊れていく母親を横目で見ているのは辛かった。何も出来ない無力さや、あの時に俺が記憶を見なければ、見たとしても発言しなければ、今もまだ母親には当時の笑顔が残っていたのだろうか。
 そして俺が15になる頃、母親が死んだ。
 首吊り自殺だった。
 母親をここまで追い詰めた父が、父の浮気を発覚させた俺が。この世界の全てが憎かった。
 義務教育が終わり、これからどう暮らしていこうかと悩んでいた所。どうも俺は空腹で動けなくなり、22時、路地裏に座り込んだ。
 そこから意識が朦朧とし、本格的に死を覚悟し始めた辺り。目の前に1枚の赤い羽根が落ちてきた。
 ああ、誰かが俺を迎えに来たのだろうか。天使の羽根は赤かったのか、否や。これは悪魔の羽根なのか。
 翼の音が聞こえ、顔を上げるとそこには彼が居た。
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