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※Attention
こちらの作品はirxsのnmmn作品となっております
上記単語に見覚えのない方、意味を知らない方は
ブラウザバックをお願いいたします
ご本人様とは全く関係ありません
体調不良のリクになってます!
遅くなりました……🙇🙇
リクエストは1人いくつでも構わないので
いつでもお待ちしてます✨️
基本的に、
この短編集、リクでしか動かないので……
ちなみに今回、本文が
おまけ含めて1万字超えました。……短編集とは
桃さん視点→青さん視点→桃さん視点で
ちょっとややこしくなってます💦
『八方美人』
いわば俺は
それになりたかった
弱点を
周りには見せないように
取り繕って取り繕って
そうすれば
みんな
俺に安心してついてこれるから
だから
俺は笑うんだ
今日も明日も、明後日も
未来永劫
たとえ
俺が壊れたとしても
俺の頼れる人
朝から体がだるかったので、
会社を休みます。
なんて言えたら、どれほど楽だったろう。
いや、普通なら俺だってそうする。
……そうしたい。ほんとは。
起きた瞬間から、体が重くて。
布団の中で寝返りを打つだけで、関節が軋む。
頭の奥がじんわり熱くて、息が浅い。
でも、
今日は休めない。
俺のことを気に入ってる取り引き先が、
来るから。
まぁ、気に入ってるって言っても、
キモい意味でね。うん。
そういう類の人間は、
弱ってるところを見せたら余計につけあがる。
大丈夫?なんて言葉で化けの皮を被って、
遠慮なく距離を詰めてくる。
善意のふりをして、逃げ道を塞いでくる。
だから、余計に休めない。
俺が穴を開けたら、
迷惑がかかるのは俺じゃない。
メンバーだ。
俺自身が壊れるより、
みんなのほうが大事だから。
なんてことを口にしたら、
まろにき……いや、最近は
子供組も怖くなったもんなぁ……。
メンバー全員に、怒られる。
ひとりひとりに、説教される。
……やめやめ、
思い出しただけで寒気がした。
とにかく、
それだけは、避けたいから。
最近は、ハロウィンの日とか、
ソロワンマンの次の日とか、
ちゃんと休んでたし。
だから、
別に今日ぐらい無理しちゃっても大丈夫。
そう言い聞かせて、
いつもみたいにスーツに袖を通した。
鏡の中の俺は、顔色が最悪だった。
目の下はうっすら青くて、
笑っても口角だけが動く。
「……いける。いけるって」
呟いた瞬間、
胃の奥がきゅうっと縮んで、
喉の奥が熱くなる。
吐き気、というより、
体が拒否してるって感覚に近い。
それでも俺は、
何もなかったみたいに玄関の鍵を閉めた。
誰もいないオフィスで、
1人そっとため息をつく。
鬼の居ぬ間に洗濯……とまではいかないけど、
……否、いくかもしれない。
EVEを飲んで、
軽くメイクをして、
誤魔化す。
この程度で済むなら、安いもんだ。
多分、今日いちばんの敵はまろだ。
席だって隣。
それに、
メンバーの体調にいちばん敏感なのもまろ。
逆に言えば
そこさえ突破できれば、
怖いものなんてない。
「おはようございます、社長」
「あ、おはよ。今日もよろしくね」
社員さんと挨拶を交わしても、
今のところは気づかれない。
体調も、
朝よりひどくなってる気はしないし……
……これ、いけるんじゃないか?
なんて、思ってましたよ!!
午前中のないこちゃんは!!
午前のうちは、まだ誤魔化せてた。
薬も効いてる気がしたし、
動けないほどじゃなかった。
でも午後になれば
あら不思議。
だるさが、
どんどん増してくる。
肩は重いし、
目の奥は痛いし、
頭はぼんやり霞む。
さっきまで普通に打ててたキーボードが、
急に遠く感じる。
……おいおい。
聞いてないんだけど。
それでも俺は、笑ってる。
笑えてる……はずだ。
「ないこ、大丈夫か?」
隣の席から、まろが覗き込んできた。
やばい。
来た。今日いちばんの敵。
さっきまで
立て続けに会議が入っていたから
いなかったけど、
多分この後は何もなかったはず。
何でこんなタイミング悪いかなぁ……
「大丈夫。
ちょっと寝不足なの、今日」
軽く手を振って誤魔化す。
声がいつもより低くて、
掠れてる気がしたけど、
咳払いで押し込めた。
まろは目を細める。
「……その目、赤い」
「気のせいだって。
多分モニター見すぎただけでしょ」
「ないこ、EVE飲んだやろ?」
「飲んでないよ?」
嘘。
さっき、机の引き出しで
箱ごと握りしめてた。
まろは俺の顔をじっと見て、
納得してないような顔をした。
心無しか、眉間にシワが寄っている。
「……無理すんなよ」
「分かってるよ、ありがと」
無理してる顔を見抜かれてる気がして、
俺はわざと明るく返した。
すると見計らったように、
社員さんから声がかかる。
「社長、◯◯社の△△様がお見えです」
……今日色々とタイミング悪すぎないか?
ほんとに。
「通して」
はぁ、と小さくため息をついた後、
短く返事をして、俺は椅子から立ち上がる。
立った瞬間、
視界が一瞬だけ白くなった。
やばい。
足元が、ふわって浮いた。
「……ないこ?」
まろの声が、すぐ横で聞こえる。
「大丈夫。立ちくらみ。
……ほら、座りっぱなしだったし」
笑ってみせる。
笑えてるかどうかは知らない。
まろは一歩だけ近づいて、
俺の背中に手を添えた。
その優しさが、逆に怖い。
頼ったら終わりだ。
今、ここで崩れたら。
「ないこ、俺も同席するな?」
「うん。お願い」
……お願い、って言葉が
喉に引っかかった。
本当は、同席なんかしてほしくない。
気づかれるから。止められるから。
でも今は、逃げ道がない。
会議スペースに向かう廊下が、やけに長い。
足音が、頭に響く。
ドアを開けると、
スーツ姿の男が立ち上がった。
にやっと笑う。
目が、笑ってない。
「いやぁ、社長。お忙しいところすみませんね」
「いえいえ。
こちらこそ、いつもお世話になっております」
名刺を差し出しながら、
俺はいつもの社長の顔を貼り付ける。
笑え。
ちゃんとして見せろ。
今が今日の踏ん張りどころだぞ、ないこ。
「今日は、
少しお顔の色が悪いように見えますが?」
その言葉が、やけに耳に残った。
心配してるフリ。
探ってるだけ。弱みを見つけたいだけ。
「最近ちょっと、睡眠の質が悪くて」
「はは。社長も人間なんですねぇ」
その笑い方が、気持ち悪い。
まろが、
俺の隣で小さく息を吸ったのが分かった。
……今の、引っかかったな。
頼むから、今は黙っててくれ。
俺は資料を開く。
紙の文字が、少し滲んで見える。
焦点が合わない。
「では、今回の件ですが――」
声が震えないように、
言葉を一個ずつ、丁寧に並べる。
「こちらのスケジュールで進行予定です。
ご確認ください」
男は頷きながら、俺の手元じゃなく
俺の顔ばかり見ていた。
「ないこさん、手、冷たいですね」
「……そうですか?」
いつの間にか、
男が距離を詰めてきていた。
机越しなのに、近い。
息がかかりそうで、ぞわっとする。
「ないこさんみたいな人が倒れたら、
困りますよ。
……僕が、支えてあげないと」
冗談みたいに言うくせに、
目だけは本気で気持ち悪い。
その瞬間。
「すみません」
まろの声が、静かに割り込んだ。
「社長は今、喉の調子も良くないので。
必要事項だけ、手短にお願いします」
……まろ。
やめろ。
余計なこと言うな。
気づかれる。面倒になる。
そう思ったのに、
口から出たのは別の言葉だった。
「……ごめん、まろ」
小さく呟いた俺に、
まろが一瞬だけ目を細める。
「無理やと思ったら、すぐ言えよ」
その言い方が優しくて、
でもどこか怒ってて。
俺はまた、笑う。
「大丈夫だって。俺、全然平気」
平気なわけないのに。
俺の言葉を聞いて、
取引先の男は満足そうに口角を上げた。
「いやぁ、ないこさんってほんと、
頑張り屋さんですよねぇ」
そう言いながら
男は椅子をずる、と前に詰めた。
机越しの距離が、さらに近くなる。
「無理して倒れたら、
僕、責任感じちゃいますよ」
「……はは、ありがとうございます」
俺は笑う。
笑って、やり過ごす。
それがいつもの俺のやり方だ。
「ないこさん、ほんとに顔色悪いなぁ」
「……そうですかね」
「ほら、手。見せてくださいよ」
男が、机の上に手を伸ばしてきた。
やめろ。
反射的に引っ込めようとした。
けど、身体が一瞬遅れた。
その遅れに気づいたのは、まろだった。
「申し訳ありません」
まろが、
すっと俺の前に資料を差し込む。
男の手が俺に触れる前に、
紙の束が間に入った。
「社長の体調確認は、
こちらで行いますので」
「え?あぁ、いやいや、
心配してるだけですよ」
男は笑った。
軽い冗談みたいに。
でもその目は、まだ俺を見てる。
獲物を品定めするみたいに。
「ないこさん、最近忙しいでしょう?
だったら僕が、少し癒してあげ」
「お言葉ですが」
まろの声が、すっと温度を失った。
空気が変わる。
肌に触れる感覚で分かるくらい、
冷たくなる。
「癒すとか支えるとか、
そういう話は不要です」
「はは、冗談ですよ、冗談」
「冗談に聞こえませんでした」
まろは笑っていない。
口調だけ丁寧で、目が一切笑ってない。
それが一番怖いタイプのやつだ。
男が少しだけ眉を動かす。
機嫌を損ねたのが見て取れた。
「いやぁ……随分、部下の方が厳しいですね」
「はい。厳しいです。
あなたみたいな人には、特に」
即答。
俺は内心で、
うわ、まろ、完全にキレてる……と思った。
「我々は仕事の話をしに来ているんです」
まろは、淡々と続ける。
「それをあなたの私欲のために
時間をつぶしてもらっちゃ困る」
男が笑みを引っ込める。
「……君さぁ、言い方ってものが」
「ありますよね」
まろは、かぶせた。
「だから、言い方を選んでいます。
これでも、かなり」
にこり。
だけど、目は笑ってない。
俺の胃が、またきゅうっと縮む。
やめてくれ、まろ。
それ以上言ったら、こじれる。
俺が困る。会社が困る。
そう思って口を開こうとした瞬間。
「社長。
今日はこれで終わりでいいですか?」
「……え?」
俺が聞き返すより早く、
まろは男に視線を戻す。
「社長はこのあと予定がありますので、
要件を確認します。
契約内容の確認は、
こちらの資料の範囲でよろしいですね?」
完全に、主導権を奪いにいってる。
男は苛立ったように鼻で笑った。
「俺は、社長と話しに来たんだけど?」
「今、社長と話してましたよね」
まろの声は静かだった。
でも、逃げ道が一切ない。
「それにあなたは、
社長の体調に触れたり、距離を詰めたり、
プライベートな話ばかりです」
一拍置いて、まろは続ける。
「仕事の話が終わったから、
そのような話ばかりしているのでしょう?」
男が、舌打ち寸前みたいな顔をする。
「……随分、守られてるんだねぇ。社長」
「そうですね」
俺が返すより先に、まろが言った。
「守ってます。
社長は、私たちの大事な人なので」
さも当たり前のように答えるまろに、
男は明らかに面白くなさそうに笑った。
「……ふーん。まぁいいや。
今日はこのくらいで。
次回を楽しみにしてるよ」
「ありがとうございます」
まろは最後まで丁寧に頭を下げた。
完璧な対応。
完璧な社会人。
完璧な、怒り方。
男が部屋を出ていく。
ドアが閉まった瞬間。
張り詰めていた空気が、ふっと緩んだ。
「……ないこ」
まろが、俺を見た。
さっきまでの部下の顔じゃない。
俺の隣の席の、メンバーの、相棒の
それだけじゃない。
「お前、体調悪いだろ」
その声は低くて、静かで。
怒ってるみたいで、
でも、どこか心配しているように聞こえた。
俺は返事をしようとした。
大丈夫って、いつもみたいに。
でも、口が動かない。
まろの目が、俺の顔を追う。
心配と怒りが混ざった目。
……恋人の目。
その口の動きだけを確認した瞬間、
俺は限界を迎えた。
ごめん、まろ。
俺、もう無理だ。
そう思った瞬間、
足元から力が抜けて、
身体が傾く。
限界を迎えた俺は、
そのまま、まろの方へ倒れ込んだ。
「っ、ないこ!?」
支えられる感覚。
腕に引っかかる布の感触。
誰かの匂い。
それだけが、やけにあったかくて。
俺は最後に、
自分でも驚くくらい小さな声で呟いた。
「……ごめん」
I.side
ドアが閉まった瞬間、空気が変わった。
さっきまで部屋に漂っていた嫌な匂いが、
やっと薄れる。
……遅い。
動くのが、遅すぎた。
「……ないこ」
呼んだ声が、思ったより低く出た。
怒ってるみたいな声になってしまったのは、
仕方ない。
「お前、体調悪いだろ」
ないこは笑った。
笑った……ように見えた。
でもそれは、いつもの誤魔化しの顔だった。
返事をする前に、
ないこの視線が一瞬だけ揺れる。
焦点が合ってない。
やっぱり。
次の瞬間、ないこの体がぐらりと傾いた。
「……っ、ないこ!」
反射で腕を伸ばす。
細い肩を引き寄せるように抱き止めた。
軽い。
熱い。
心臓が嫌な音を立てる。
スーツ越しでも分かる。
体温が、異常だ。
「……ごめん」
耳元で、かすれた声が落ちた。
……なんで、ここまで。
仕事中は、俺は部下だ。
社長を支える社員でいなきゃいけない。
でも今この瞬間だけは、
俺はただの彼氏だった。
「ごめんじゃねぇわ、ばか」
そう言ってやりたかったのに、
喉の奥が詰まって声にならない。
ないこの額が、俺の肩に触れる。
呼吸が浅い。
必死に普通を装ってる呼吸。
さっきまで、あの男の前で
笑って、受け流して、耐えて。
耐えて、耐えて、耐えて。
最後の最後で、俺の前で崩れた。
倒れるまで頑張ったことが腹立たしいのに、
こうして俺に預けてくれたことが、
少しだけ嬉しくて。
そんな自分が嫌で、
もっと腹が立つ。
「ないこ、聞こえる?立てる?」
返事はない。
意識はある。けど、まともに動けない。
俺は机の端にないこを座らせようとして、
途中でやめた。
座らせたら、そのまま崩れる。
絶対に。
「……あかん。移動する」
会議室の椅子じゃ、落ち着かない。
ここは寒い。
空気が悪い。
それに
「……ちっ」
あいつの残り香がする。
俺はないこの首元と膝裏にを腕に回して、
抱き上げる。
「ちょっとだけ揺れるけど我慢して」
「……ん」
かすれた返事。
それが、信じられないくらい弱い。
医務室の方へ向かう途中、
社員さんが目を丸くした。
「社長!?」
「すみません、大丈夫です。
……いや、大丈夫ちゃうわ」
言い直してしまって、自分でも腹が立つ。
「すぐ戻ります。ちょっとだけ休ませます」
そう言って、俺は早足で医務室に入った。
ドアを閉める。
やっと、二人きり。
ないこはソファに沈むように座って、
すぐに背中を丸めた。
「ないこ、体調悪いのいつから?」
「……あさから」
「EVEも飲んだけど良くならんかったん?」
「……ん……」
……取り引き前に聞いたの、
全部合っとるやん。
怒りたい。
説教したい。
でも今は違う。
俺は引き出しを開けて、
社内用の体温計を探した。
「ないこ、熱測るで」
「……ゃだ」
「やだちゃう」
ないこは苦しそうに眉を寄せて、
それでもどこか申し訳なさそうに笑った。
……ほんま、そういうとこ
治さなあかんな。
「社長」
俺はわざと、仕事の呼び方で呼ぶ。
逃げられないように。
「今日は帰る。
この後の仕事は、俺がなんとかする」
ないこが目を見開いた。
「……まろ、それは」
「黙って」
初めて、きつい声が出た。
「俺、今日ずっと気づいてたで。
顔色も、目も、声も。
全部おかしかった」
言ってしまってから、
自分の声が震えてるのが分かった。
怒ってるんじゃない。
怖いんだ。
俺の行動でないこを失うのが。
「……でも、俺が動くのが遅かった」
「……まろは悪くないよ、ごめんね」
「謝るなって言うてんねん……!」
最後、声が少し裏返った。
ないこは驚いたみたいに瞬きをして、
それから、視線を落とした。
「……ごめん」
「……ほんまに、もう」
俺は深呼吸して、
できるだけ優しく言い直す。
「ないこ。
倒れるまで頑張るの、もうやめよ」
ないこは何も言わない。
言えない。
だから俺は、
ないこの手をぎゅっと握った。
「いつも言うとるやろ……?」
俺、ないこが無理するのだけは、
嫌やねん……。
それに、こんな関係だから。
なおさら。
「今から帰るで」
そう言うと、
ないこは何も言わず、
俺にそっと腕を回した。
N.side
次に目を開けると、
見慣れた天井が視界いっぱいに広がっていた。
……ここ、俺の家……?
喉が乾いて、息を吸うだけで胸が重い。
頭の奥がずん、と鈍く痛んだ。
取り引き先が帰ってからの記憶が、
あやふやだ。
いや、正確には、
途中から、まるごと抜け落ちている。
ぼんやりと、
まろに何か聞かれたのは覚えている。
いつから?とか、薬飲んだ?とか。
そんな質問に、
俺は適当に返して、笑って。
そこから先が、ない。
腕を上げようとして、
布団が擦れる音がした。
視線を落とすと、
スーツだったはずの服は、
いつの間にか、
動きやすいパジャマに変わっている。
寝ている場所も、
俺がこだわり抜いて選んだ
クイーンサイズのベットだった。
……誰が着替えさせて、
ここまで運んでくれたのか。
そんなこと、考えるまでもない。
確実に、まろだ。
そう思った瞬間、
胸の奥がじんわり熱くなって、
それ以上に、申し訳なさが押し寄せる。
重たい頭でそんなことを考えていると、
静かに扉が開いた。
「……あ、ないこ。起きた?」
噂をすれば、本人だ。
まろは部屋の明かりを強くしないように、
音を立てないようにドアを閉めてから、
こっちを覗き込んでいた。
「まろ、取り引きどうなった……?」
「1番最初に何言うか思ったら、それ?」
呆れたように言うくせに、声は小さい。
怒ってるのに、優しい。
俺はうまく声が出なかった。
「……だって、迷惑かけたし」
「迷惑かけたんは取引先じゃなくて俺や」
まろがベッドの端に腰を下ろす。
そのまま俺の額に手を当てて、顔をしかめる。
「まだ熱い」
「……ごめん」
「謝るなって言うてるやろ」
ぴしゃり、と言われて、俺は黙る。
まろは小さく息を吐いて、
テーブルに置いてあった
ペットボトルを持ち上げた。
「水飲む?」
「……飲む」
「起きれる?」
「……たぶん」
起き上がろうとした瞬間、
視界がぐらりと揺れる。
身体が思ったより重くて、
頭がふわふわする。
「ほら、無理すんな」
まろが背中に手を回して支えてくれる。
コップの縁が唇に当たる。
少しずつ水を飲むと、
喉の痛みが少しだけ和らいだ。
「……ありがと」
「うん」
まろは、俺が横になるのを確認してから、
今度は体温計を取り出した。
「もう一回測るで」
「……やだ」
「やだちゃう」
言い方が強いのに、動きは丁寧だ。
俺の腕を持ち上げて、脇に体温計を挟ませる。
「……まろ、取引先」
「断った」
「……え?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
断ったって、今、言った……?
「似たような会社ぐらい他にもあるやろ」
吐き捨てるように言ったその言葉に、
小さく、なんで、という言葉がこぼれる。
まろは俺の顔を見て、眉間の皺を深くした。
「なんでも何もないやろ。
社長に……ないこに
あんな下心見え見えな危険な会社と
取り引きさせて、
こっちになんのメリットがあんねん」
胸の奥が、ずしんと重くなる。
「……怒られた?」
「誰に」
「取引先に……」
「怒られてへん。むしろ黙らせた」
まろの声が、少しだけ冷たくなる。
「二度とああいう距離の詰め方できんように、
言うべきこと言った」
……あの男の顔が浮かんで、胃がきゅっと縮む。
「……ごめん」
「だから謝るなって」
ピピ、と体温計が鳴った。
まろが表示を見て、眉間の皺を深くする。
「……まだ39」
「……下がってるじゃん」
「下がってへんわ。まだ高い」
俺は苦笑して、目を閉じた。
「俺さ、午前中は平気だと思ってたんだよ」
「嘘、平気ちゃうかったやろ」
「……うん」
まろは、俺の髪を指先で梳くみたいに撫でる。
怒ってるくせに、触れ方が優しい。
「ないこ」
「……ん」
「なんで言わんかった」
その声が、さっきよりずっと低い。
責めてるんじゃなくて、怖がってる声。
俺は喉の奥が熱くなって、言葉が詰まる。
「……言ったら、止められるから」
「止めるに決まってるやろ」
「……うん」
「倒れるまで頑張るの、俺が一番嫌い」
まろの目が、真っ直ぐ俺を射抜く。
逃げたくなるくらい、真剣で。
でも、逃げたらまた同じことを繰り返す。
「……取引先が来る日だったから」
「うん」
「俺が穴開けたら、みんな困る」
「うん」
「だから、俺が……」
「社長」
まろが、わざと仕事の呼び方で俺を呼んだ。
その一言で、背筋が伸びる。
「俺、部下として言うわ」
「……なに」
「社長が倒れたら、一番困るのも俺らや」
俺は息を呑む。
「社長がいなくなったら、
仕事も、会社も、全部止まる。
俺らは社長を頼ってる」
それは、正論だ。
耳が痛いくらい正しい。
でも、まろはそこで終わらなかった。
少しだけ間を置いて、声が柔らかくなる。
「……で、彼氏として言う」
まろが、俺の手を握った。
熱で汗ばんだ指を、逃げないように絡め取る。
「俺の前でだけは、
頑張らんでええ」
心臓が、どくんと鳴った。
「俺にだけは、弱いとこ見せて」
「……まろ」
「俺、お前がしんどいのに笑ってるの、
ほんまに嫌やねん」
言葉が震えてる。
怒ってるんじゃない。
怖かったんだ。
俺は、胸の奥がぎゅっと痛くなって、
ようやく視線を合わせた。
「……ごめん」
「謝るな」
「……じゃあ、ありがとう」
「それは言って」
まろが少しだけ笑った。
その笑い方が、あまりにも安心するから、
俺は泣きそうになって、目を逸らした。
「……寝て」
まろが布団を直して、俺の肩まで掛ける。
「俺、ここおるから」
「……うん」
俺は、まろの袖を掴んだ。
「……離れないでね?」
「離れへんわ」
その返事を聞いた瞬間、
身体の力がふっと抜けた。
取引先のことも、会社のことも、
全部どうでもよくなるくらい。
今はただ、
まろの手の温度だけを感じたかった。
翌日、俺の体調は、
まろの看病の甲斐もあって治った。
いや、正確には。
まろが寝ずに見張ってたおかげで、
熱はすっと引いてくれた。
まだ少し身体はだるいけど、
昨日みたいに立てないほどじゃない。
「ありがと、まろ」
そう言うと、まろは少しだけ目を細めて、
いつもの顔で返した。
「……どういたしまして」
『八方美人』
いわば俺は、
それになりたかった。
弱点を周りには見せないように、
取り繕って、取り繕って。
そうすれば、みんな
俺に安心してついてこれるから。
だから、俺は
今日も、明日も、明後日も。
未来永劫、笑って。
たとえ俺が壊れたとしても、
みんなに迷惑はかけさせない。
そのつもりだった。
……でも、今は。
「次は倒れる前に頼ってな?」
まろが、当然みたいに言う。
それが、怖いくらい優しくて。
ふふ、と笑いがこぼれる。
「当たり前じゃん。
期待してるよ、まろくん」
少しだけ、ふざけた口調にして。
俺は笑ってみせた。
「それはそれは、社長さま。
ありがたいことで」
まろはわざとらしく頭を下げて、
すぐに顔を上げる。
「……その代わり、次はほんまに怒るで」
「えー、優しくしてよ」
「優しくする。看病もする。抱きしめもする」
一拍置いて、まろが目を細めた。
「でも、倒れるまで頑張ったら
俺、泣くからな」
冗談みたいに言うのに、
目だけは本気で。
俺は息を呑んで、
それから、ふっと笑った。
「……泣かせないよ」
「約束な」
「約束」
俺はまろの手を握る。
昨日までの俺なら、
きっとここで大丈夫って言ってたんだろな、
なんて頭の片隅で考える。
……でも、今は。
大丈夫じゃない時は、
大丈夫じゃないって言えるし、
「まろ」
「ん?」
「……これからも、よろしく」
「何、改まって。
こちらこそよろしくな」
『八方美人』じゃなくて、
〝頼れる人がいる俺〟にもなれたしね。
おまけ
(ないこさん看病中のまろさん以外のメンバー)
「あ、初兎ちゃんじゃん。おつかれー」
「おつかれー」
夕方。
会社に顔を出すと、
りうちゃんが先に気づいて手を振った。
本来今日は出勤する予定がなかった。
けど、ないちゃんに聞きたいことがあって。
ディスコードでもえぇんやろうけど、
こういうのは直接聞いたほうが早い。
……ところで。
「……りうちゃんはここで何しとるん?」
「え、見ての通りソファでごろごろ」
何か文句でも?みたいな顔。
たぶん歌撮り終わった後なんやろうな。
まぁ、触れないでおこう。
これでミ◯スとかやったら、
こだわったポイントを
延々語られる未来が見える。
帰るの遅うなったら、
この後の悠くんとのご飯に間に合わへんし。
「……へぇ。あ、ないちゃん見てない?
動画で確認してほしいとこあって」
そう言うと、りうちゃんは、
あー……と小さく呟いて、
なんとも言えん顔で遠い目をした。
「帰ったよ」
横から別の声が入る。
振り向くと、
いむくんがちょうど入ってきたところだった。
「いむくん、喉の調子大丈夫?」
「うん!ソロライブの準備もばっちり!」
元気そうで何より。
いむくんはそのまま、
りうちゃんの横に腰を下ろす。
で、さらっと爆弾を落とした。
「いふくんがないちゃん姫抱きして、
帰ってったよ」
「……は?」
一瞬、言葉が追いつかんかった。
けど、次の瞬間には全部繋がった。
「あー……なるほどな。
ないちゃん、また無理したん?」
俺がそう呟くと、
目の前の2人はこくりと頷く。
「……まろちゃんも大変やなぁ」
思わず苦笑いしてしまう。
何度言っても、
無理してしまうのがないちゃんで。
そこが良いとこでもあり、
悪いとこでもあるんよなぁ……。
「でも、まろなら大丈夫でしょ」
「いふくんぐらいだもんね。
ないちゃんに言う事聞かせられるの」
ね、と2人が顔を見合わせる。
確かに、そうやな。
あにきも怒ったら怖いけど、
いちばん怖いのは、まろちゃん。
しかも、ないちゃんの彼氏でもある。
まろちゃんの言葉なら、
ないちゃんも、ちゃんと聞くやろうな。
……いや、頼むから聞いてほしい。ほんまに。
何はともあれ。
「ないちゃん、はよ治るとえぇな」
そう言うと、二人は同時に頷いた。
「回復した頃には、
メンバーみんなからの説教が
フルコースやろなぁ……」
その言葉に
当たり前でしょ、と真顔で返され、
笑いあったのは言うまでもない。
コメント
2件
こちらこそ見るの遅くなってごめんねぇぇぇ🥲︎🥲︎ 無理しちゃう桃さんと気づきながらも桃さんを見守っとく青さんがらぶ……😖💘 感情に任せない青さんの断り方が大人らしさ全開過ぎてかっこよすぎるよ👉🏻👈🏻💕 おまけの青さんが姫抱きして帰った話で悶えしにそうだったよ…🥹🥹 さーちゃんの書くお話毎回好みに刺さりすぎて好き…🫶🏻︎💕︎︎