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「お姉ちゃん達、だぁれ?」
聞き慣れない少女の声に驚いて振り返ると、宝石を吊るしている羽を持つ、レミリアと瓜二つな金髪の少女が立っていた。
「私の名前は霧雨魔理沙! 普通の魔法使いだ!」
まじかこいつ。レミリアに似ているとは言え素性が分からないんだぞ……。
堂々とドヤ顔混じりに自己紹介をする魔法使いを放っておいて、もう一度少女の方へ振り返る。
「そんでこっちはここの使用人の氷室零だぜ!」
まじかよコイツ……自分の紹介だけで留まっとけよ。
そうしているとその少女も上品に、それでいて何処か子供っぽさを感じるような自己紹介を始める。
「私の名前は【フラン・ドール・スカーレット】! ここ紅魔館の主、レミリアお姉様の妹よ!」
カリスマもどきの妹……確かに似ている所はある
食事の時、残された空席は恐らくコイツの分だろう。だが疑問が残る。なぜ、食事の時は”全員必ず”会うようにしている奴がコイツだけ省いていたのか。そしてなぜ今まで存在ごと隠していたのか……。
「レミリアの妹か! んでもなんでこんなところに?」
するとその少女は少し顔を伏せ、申し訳なさそうにモジモジしながら話し始める。
その様子は秘密を隠す子供のような仕草にも見えた。
「お姉様がね、私は危険だからここに居てねって……だから私はずっと、ここに居るの」
「……危険だから?」
確かに、レミリアの妹ならこいつも吸血鬼。
普段であれば”危険”に該当するのだろうが、似たようなものが蔓延るこの幻想郷で吸血鬼の少女が”危険”に分類されるようには到底見えないが……。
「ねぇねえお姉ちゃん達、フランと一緒に遊ぼ!」
「良いぜ!」
本来、この魔法使いをすぐにでも追い返したいところだが──”いつか見た光景と重なる”、このやりとりを見ているとそんな気も失せてしまった。
……あぁ、酷いデジャヴだ。
「……仕方ない、好きにしろ」
フラ゙ン゙と名乗った少女は「ヤッター!」と無邪気その場を軽く飛び跳ねる。飛び跳ねるというより羽を揺らし、少し宙に浮いてるのだが。
そうして、彼女はボールを投げる構えをする。半ば反射的に受け取る態勢に入ろうとしたが──。
「じゃあ、行くよー!!」
「氷室避けろッ!!!」
映像をスキップしたように突然視界が飛び、気付けば地面に倒れ込んでいた。
膝から何かが滴り落ちるような感覚がするが、痛みはない。
「あれ? 避けられちゃった」
状況把握の為、周りを見回す。
壁に円形の穴と、先ほどまで俺が居たところに魔法使いが魔法陣を散らしながら立っている。
恐らく俺を守るために突き飛ばしたのだろう。
「大丈夫か!?」
「──あぁ……」
“遊び?”とんでもない、そんな威力じゃない。
改めて理解した、アイツは吸血鬼で俺はただの人間。替えの利く遊びの玩具や餌でしかないことに。
「もう一回行くよー!」
再び投擲の構えを取り、ボール投げなんて生易しいものではない、先ほどまでただのボールだったモノは先の経験で砲弾にしか認識できなくなる。
「……ッぶねぇなっ!!」
「とりあえず逃げようぜ!!」
かろうじて砲弾を回避し、魔理沙に腕を引っ張られ、遠くに見える出口に向けて走り出す。
両サイドは壁に囲まれ、避けれるほどの空間がない。
「アハハ! 次は鬼ごっこ? いいよ、やろっか!!」
魔法使いが後方に青色に発光する魔法陣を空中に展開した。
しかし、薄いガラスを割るような音とその前に風を切るような音が連続して聞こえてくる。
それが何の音かはなんとなく分かる。これが途切れたら次は俺達の番だ。
ただひたすらに走り、来た道を戻る。木製の大扉をタックルして開け、床に転がりながら閉じながら図書館の主に叫ぶ。
「ちょっと、どうしたのよ」
「話してる暇は無い! パジャ魔女は早く防壁魔法を唱えろ!」
「パチュリー頼むぜ!早く──」
白黒魔法使いが急かすその瞬間、図書館の大扉が木片と化して飛び散る。
塵煙の中から現れたのは──虹の宝石を輝かせ、深い赤の瞳でこちらを見下ろす吸血鬼、フラン・ドール。
「フラン……どうして!?」
「アハ、パチェだぁ! 今ね、そこのお姉ちゃん達が遊んでくれてるの、パチェも一緒にやる?」
無邪気な笑顔で遊びに誘う吸血鬼。それとは反対に、冷や汗をかき、徐々に顔が青ざめていくパジャ魔女。
数瞬木片の崩れる音が反響した後、魔女が口を開く。
「フラン、いい子だから早くお部屋に戻りなさい」
「……は?」
まずい、事情を知らない俺でも分かる。今の会話で何かしらの地雷に触れたのだ。
空中に張り付けられたように、ピクリとも動かなくなった吸血鬼。それでもなお辺りを支配するような怒気と恐怖は間違いなく吸血鬼から発せられている。
「……………もういいや、パチェはもう、いらない」
睨みつけるようにこちらを一瞥し、ゆっくりと片腕を上げる。
その様子は先ほどまでの遊びとは違い、こちらに照準を合わせるように掌を見せつけられる。
そうして、一言呟きながら拳を作り出す。
「キュッとして、どかーん」
子供の遊びのように、幼稚な言葉を並べたソレとは思えないほどの爆発が視界を潰す。
間一髪で魔法使い二人が防壁を張ったようで、怪我はない。
「おいおい、流石に聞いてないぜ!? 誰だよあいつ!」
「フラン・ドール・スカーレット……レミィの妹よ。【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】を持ち、余りにも危険すぎるのとあの子の大切なもの含め周りのものを破壊してしまうからあの一室に閉じ込めてたのよ……! どうやって封印を解いたの!?」
そんな説明を受けている間も、爆発とガラスが割れるような音と、防壁を張り直す音とそのたびに隙間を通して焦げ臭い匂いが脳を突く。
──だが、今はそんなことはどうでもいい。
“危険すぎるから閉じ込めた”?
なるほど、コイツラも同じことを言うようだ。危険だから、制御が出来ないから、理解出来ないから閉じ込める。
──心底、キモチワルイ。
「今封印解いたかどうかはどうでもいいだろ!? コイツどうすんだよこのままじゃ魔力が持たないぜ!?」
「……あの子を傷つけてしまうからあんまりやりたくないのだけど……魔理沙、防壁に集中して」
パチュリーは顔をしかめ、一度大きく息を吸ったように身体を揺らしてから、再度目を開ける。
その目は憐れみを帯びながら、何処か覚悟が決まったように鋭くなっていた。
俺はその目の意味をよく知っている、人を傷つける時の目だ。
宙に浮いた魔導書が強風を受けたようにページがものすごい勢いで開かれ、ピタリと止まる。パジャ魔女はゆっくりと目を開き、掌を吸血鬼に向け先から水球が浮かび上がらせた。
『【水符】プリンセスウンディネ』
水球は槍のように伸び、発射される。飛び散った水片は球体となり、辺りを漂いながら、確実に吸血鬼の元へと飛んでいく。
俺でもわかる、コイツは本気でこの吸血鬼を仕留める気だ。
どんな事情があるかは知らない、だが今は──
『アイスボール!』
右手にはめた手袋のお陰で、痺れる程度の痛みで抑えられている。
放たれた氷球はで今にも崩れそうなほど粗雑だが思いのほか真っすぐ、水の槍に向かって飛んでいく。
そして水槍と氷球が触れた瞬間、水槍は歪に凍り粉々に砕け散る。
なんでこうしたのか、俺でも分からない。関係ない、関係ないはず……なのに──何故こうも、ざわつく?
「──お前らの事情は知ったこっちゃねぇけどよ、ここの奴等は家族と言いながら、不都合があれば殺すんだな」
「ちが……! あの子に手加減なんてできるわけないでしょ!?」
「……もう、お前の声は聞きたくない。……さて、フランと言ったな? いい加減落ち着けよ」
ゆっくりとフランの方に振り向く、相変わらず足が震えるような殺気と怒気をシカトし、どうにか目線を合わせようとするが、容赦なく炎の剣を作り出しこっちに投げ付けてくる。
「危ねぇ避けろッ!!」
白黒魔法使いが大声をあげて駆け寄ってくる。パジャ魔性は防壁魔法を唱えようとしているのも見えた。死に際って周りがスローモーションに見えるって本当なのか。
……失敗したな。なんで関係もないヤツらのお節介を焼いて、挙句死にかけてんだオレ……まぁいいか、どうせ無駄に生き長らえた命、むしろ遅すぎるくらいだ。
『【神槍】スピア・ザ・グングニル』
──血雷が走った。目の前まで迫った炎の剣は雷に穿たれ、ピタリと止まる。
炎を貫いた紅血の槍は、泥となり持ち主の元へと戻っていく。
「……妹だからと、甘やかしすぎた結果かしらねフラン。少しおいたが過ぎるわよ」
「私を閉じ込めてたくせに……!」
「……分ってくれとは言わないわ。実際、あなたを閉じ込めたのは私だもの──500年ぶりの姉妹喧嘩と行きましょう!」
宝石を吊るした羽とは違う、正しく蝙蝠の羽が天井を覆う。羽の持ち主はカリスマもどき、レミリア・スカーレットだった。最初の印象とは随分違い、気品溢れる仕草で発言一つ一つが空間を支配し、重みが肌で感じ取れる。
「随分……雰囲気が変わったな?」
「あれが本来のお嬢様よ。貴方怪我はない?」
また唐突に隣に現れたのは土煙の中でも純白漂う華奢なメイド、十六夜咲夜。
飛んでくる破片を片手間にナイフ一本で捌きながら声を掛けてくる。
飛来してくる破片の先では紅血の槍と炎の剣が交差し、互いを叩きつけていた。
「あんなに私を閉じ込めておいて今更家族面するつもり!?」
「貴方の力は、貴方が壊したくないものも壊してしまうと考えた……! だから閉じ込めたのよ」
「閉じ込めて、誰も私を見なかったくせに!!『【禁忌】フォーオブアカインド』!」
フランがそう叫ぶと、彼女の背後から血色の魔法陣が開く。そして魔法陣を破くように3つの腕が伸び、フランと同じような──いや、フランと全く同じ人物が這いずるように出てくる。
「……いいわ全員かかってきなさい、返り討ちにしてあげるわ!」
「お姉さまも、咲夜も、パチェも大嫌い!! 皆今ここで死んで!!」
フラン4人が一斉にレミリアへ飛んでいく。
レミリアがフランを大切に考えてるのは戦い方から見て分かる、自ら攻撃することはなくフランについてる傷も急所とは程遠い。
しかし、レミリアの方はそうはいかない容赦なく振るわれる4つの暴に対して辛うじて受けてはいるものの、どれも致命傷になり得るものばかり
ダメージが蓄積し、痛みを耐えるように止まったその数瞬──隙を逃すまいと炎の剣がレミリアを貫く。
「ごふ……!」
溶け出すように、レミリア口から紅血が流れ出した。