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#ファンタジー
柘榴とAI

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#ファンタジー
成瀬りん
19,622
「海洋都市マーメイドサイドへようこそ!
お手続きはこちらで承ります♪」
俺たちが街門をようやく通り抜けると、可愛らしい女性が明るく話し掛けてきた。
つい先ほどまで……街門の中で受けていた凄まじい気配とは、ずいぶんとギャップを感じてしまう。
俺の震えていた脚も、ここに来てようやく平常を取り戻してくれた。
「あの……、今のが、『魔女の試練』っていうやつ……ですか?」
「ええ、はい。そう呼ばれていますね。
それでは身分証を発行しますので、こちらの石板に手を当ててください♪」
話を聞いてみると、その女性はポエール商会……というところの職員らしい。
何だか聞き覚えのあるような名前ではあったが、どうやら王都ヴェセルブルクの大商人、ピエールの実弟が作った商会とのこと。
さすが大商人の弟、新しい街にこんなにも早く食い込んでいるとは……。
「……この街では、独自の身分証を作るんですね?」
ようやく恐怖から立ち直ったメンヒルが、その女性職員に問い掛けた。
普通の街では、すでに持っている身分証――例えば冒険者ギルドや職人系のギルドのもので確認するからな。
「はい、そうなんです。
ご存知かとは思うのですが、この街は魔女様が新しく作られた街。
今はまだ、各ギルドとは連携できておりませんので、独自のものを採用しているんです」
「なるほど……」
「ちなみに今回作る身分証を使えば、試練の門は通らなくて済みますので。
……ずいぶん冷や汗をかいているようですが、これからはご安心くださいね♪」
「あ、そうなんだ……。
良かったぁ、私もう、あそこは通りたくないよ……」
マリモが泣きそうになりながら、安堵のため息をついた。
実際、さっきまでは彼女にしては珍しく、泣いてしまっていたからな……。
「それにしても、あの試練……。
何の意味があるんだ? この街は新しく作っているんだろう? それなのに、あんな人を追い返すような……」
書類にサインをしながら、そう言ったのはナガラだった。
ナガラもようやく人心地ついて、いつもの図々しさ……というか、ずけずけと話す感じも戻ってきたようだ。
「その辺りは公開されている情報なのですが――
……魔女様の仲間に、リリー様という方がいらっしゃいます。
その方はこの街にとって大切な方。でも、さきほど感じて頂いたものと同じくらいの、とても強い気配を纏っているんです」
「あ、あんな気配を……?」
「嘘だろ……」
「マジ……?」
「ふぇぇ……」
「ふふふ♪
ですので、あれくらいの気配に物怖じしない方のみ、この街への出入りが許されているんですよ♪」
女性職員の言葉に、俺たちは絶句してしまった。
まだまだ冒険者としては経験の浅い俺たちだが、それでも2年は冒険に明け暮れていた。
それを踏まえても、あんな気配は今までに感じたことは無かったのだ。
「……そういえば、あの子と一緒にいた剣士も強そうでしたよね……」
「そ、そうよね。冒険者ギルドで1回見ただけだったけど……。
あの剣士と言い、リリーって人と言い、どれだけ凄い仲間を連れているのよ……」
俺の後ろで、メンヒルとマリモがこそこそと話している。
確かに、あの子から紹介された剣士を見て、俺は『格』というものを感じてしまった。
少なからず俺も剣を使うから――憧れと嫉妬が入り混じるような、複雑な感情を持ってしまったことを覚えている。
そんな俺たちの様子を眺めながら、女性職員は新しく出来た身分証を俺たちに手渡してくれた。
「……この街はルールを犯さない限り、魔女様とそのお仲間たちに敵意を向けない限り、この街に関わるすべての方の幸せを願っております。
あなた方も是非、この街で良い時間を過ごしてくださいね♪」
女性職員の笑顔が眩しい中、俺たちの後ろからは男女の悲鳴が聞こえてきた。
そこは俺たちは通ってきた街門。
……俺たちもきっと、さっきはあんな声を出してしまっていたんだろう……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
受け付けを済ませると、俺たちはようやく、街の中に足を踏み入れることができた。
「――うわぁ、綺麗な街……!」
実際に近くで見ると、さすが新しい街ということだけあって、どの建物も新しかった。
街の随所には植物が植わっており、何となく気分が落ち着いてしまう。
それに建物も、木や白色の壁などの綺麗な感じでまとめられていた。
人通りはあまり多くはないが、それでも時間によっては賑わいそうな、そんな雰囲気を感じることができた。
「そこの方、この街は初めてかい?
見どころを紹介するよーっ!!」
通りに入ったすぐのところで、やたらと愛想の良い男性が俺たちを手招きしていた。
近付いて話を聞いてみれば、この男性もポエール商会の職員らしい。
「それじゃ、案内をお願いします」
「はいよ! この街の成り立ち――は、そのうち知ってもらえれば良いから!
魔女様の深い御心を知れば、この街でさらに楽しめること間違いなし!!」
……何だか少し、宗教っぽいな?
俺はついつい、そう思ってしまった。
「何だか少し、宗教っぽいなぁ……」
「ちょっ、おまっ……!?」
俺が思ったことを、そのままナガラが口に出してしまった。
そう思っていたのが俺だけでないことに少し安心したものの、しかしここで言う話でもないだろう?
「ははは、それはよく言われますね。
でもあなた方だって、魔女様の噂を聞かれたことはあるでしょう?
王都ヴェセルブルクを追われて、生き延びた先で作ったのがこの街なんです。
そんな街が、ただの街であるわけありませんよね?」
男性職員は、にやりと思わせ振りな顔で笑った。
「もー。リーダーもナガラも、静かにしてよ!
ここは素直に、街の案内を聞こう?」
「そうですよ! 魔女様が悪いことを考えるわけじゃないですか!!」
マリモが冷静に俺たちを嗜める中、メンヒルは男性職員の話術に、もう取り込まれてしまっていた。
何と影響のされやすい……。
「失礼しました……。
それでは改めて、案内をお願いできますか?」
「はいよっ!」
男性職員も慣れたもので、俺たちの思いを汲み取りながら、いろいろと話をしてくれた。
話をしてくれたんだが――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……本当に、人魚っているんだな……」
宿屋に向かいながら、俺はぼそっと呟いた。
確かに街の名前は『マーメイドサイド』ではあるんだが……。
「噂は聞いていたけど、私たちは全然信じてなかったもんね……。
商会の人があんなに真顔で言うんだから、もう絶対に本当のことだよね……」
「人魚萌え……」
「ナガラさん、まだ見てもいないのに……」
ナガラのよく分からない言葉に、メンヒルが丁寧にツッコミを入れていた。
メンヒルはあの子の真似をしているみたいだけど、あの子もこんなツッコミを入れるのかなぁ……。
「……あとは俺たちの装備を見られて、新調を勧められたな。
ずっと使い込んでいるから、確かにそろそろ……。いや、でもお金が……」
「それと、『水の迷宮』の近くの施設を紹介されたっけ?
俺にはよく分からなかったけど、リーダーは分かったか?」
「うーん……。行けば分かるって、最後は押し切られたからなぁ……。
まぁ今日はゆっくり休むとして、その施設と『水の迷宮』には明日行ってみるとしようか」
「賛成ーっ。私、早くお風呂に入りたーいっ!」
「それそれ! この街の宿屋、お風呂が完備されているんですって!
潮風で肌がべとつくし、それに冒険から帰ってきたときも良さそうですよね♪」
「風呂かー。俺はそもそも、入ったことが無いんだよな……」
「俺も俺も。風呂が付いている部屋は、値段が高いからな」
「えー!? それ、人生の半分は損してるよ!?」
「「そ、そんなにか!?」」
思わず、俺とナガラの声が被ってしまった。
それをマリモとメンヒルは楽しそうに眺めている。
「あとは食べるものも美味しいって言ってましたよね!」
「ああ、それな! ここに来るまで、途中の街や村のメシも美味かったし……。
これは期待しちゃうよな!!」
「ハードルばっかり上がって、期待外れにならなければ良いんだけどね……」
ノリノリなメンヒルとナガラに対して、少しだけ冷静さを保つマリモ。
でも実際、食糧難が続く王都に比べて、この辺りの街や村には十分な食糧があるんだよな。
……しかしそれも、話によればあの子の錬金術のおかげなのだという。
まったく、あの子はどれだけのことをしてきたのやら……。
「――それじゃ、これから宿屋に行って、風呂に入って……。
そのあとはもう、メシにするか。今日は長旅の疲れを癒そうぜ!!」
「「さんせーっ!」」
「メシーっ!」
……今のところ、最初の試練以外は、特に問題の無い街のように思えた。
しかし、分からないことはまだまだある。まずは腰を落ち着けて、じっくりとこの街を観察していくことにしよう……。
コメント
1件
読み終えました!魔女の試練をくぐり抜けた後の、街の明るい雰囲気とのギャップがすごく好きです。ポエール商会の職員さんの“宗教っぽい”ってナガラがズバリ言っちゃうところ、思わず笑いました。メンヒルがすっかり影響されてるのも微笑ましくて。仲間たちの個性がにじみ出てる会話が絶妙でした。この街でどんな日々が待ってるのか、楽しみで仕方ないです!