バルドは船の上で生まれた。
この船は、彼の父である資産家、ヴィンセントが築いた巨大な財産の象徴だった。
ヴィンセントは、バルドに惜しみない愛情を注いだ。
バルドは何不自由ない生活を送り、世界中の名だたる学者、戦士、詩人たちから学ぶ機会を与えられた。
しかし――
バルドの心には、常に退屈がつきまとっていた。
「俺の人生は、こんなにも整いすぎている――。」
何を望んでも、すべてが手に入る。
何を学んでも、すぐに習得してしまう。
誰もが彼を称賛し、決して逆らわない。
刺激がない。退屈すぎる。
そんなある日、バルドは父にこう尋ねた。
「なぜ、こんなにも完璧な船を作ったんだ?」
ヴィンセントは微笑みながら答えた。
「この船は、どこまでも自由に航海できる。バルド、お前もこの船のように自由であれ。」
その言葉を聞いた瞬間――
バルドの中で、何かが弾けた。
自由?
自由とは、どこかに向かうことではない。
自由とは、すべてを支配することだ――
その日から、バルドは殺すことを覚えた。
最初は退屈しのぎだった。
だが、人を支配し、恐怖を植え付けることが、彼にとって唯一の生きがいとなった。
――そして、今。
船上。
バルドは、葵を見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべた。
「お前、俺を楽しませてくれるか?」
葵は冷や汗をかきながら、ナイフを握る。
「ハッ、上等だよ……だけど、遊び相手に選んだのは間違いだったな。」
バルドの拳が宙を切る。
葵は素早く身を翻し、ギリギリでかわした。
だが――
バルドの拳が船の甲板を粉砕した。
「……!!?」
葵の目が一瞬、驚きに見開かれる。
バルドは、自分の拳を見下ろしながら笑った。
「面白ぇ。もっと楽しませろよ。」
コメント
1件
ほほう…バルドさんにもそんな過去があったんだな……(相変わらずかっけぇっす!!✨続き楽しみです!