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第7話:「秘密のページ」
えりは再び斗真の部屋に入ることになった。前回、掃除を手伝ったときのことを思い出し、少しだけ不安な気持ちが湧いてきた。ヤバい。あの時、彼の近くにいることで胸が高鳴っていたことを、まだ覚えている。しかし、今回はただの用事だ。きっと問題はないはずだと、自分に言い聞かせながら部屋へ向かった。落ち着け。
「またあんたの部屋?」えりは少し気だるげに、部屋のドアを開ける。斗真が少し困ったように顔をしかめながら、「うるさいな。まあ、来いよ」と言う。
「なんかまた、物を探してんの?」えりは目を細めて、散らかっている部屋を見渡す。
「いや、違うけど…」斗真が少しもじもじしていると、えりは不思議に思いながらも、部屋に入って足元を見て歩き出す。
「それにしても、こんなに散らかっているのに、よくここで過ごせるね。私だったら即死する」えりはため息をつきながら言った。
「うるせーよ。もういいから、ちょっと手伝ってくれ。」斗真が無理やり本棚の近くに座り込んで、また何かを探し始めた。
「はぁー。だっるー!あとで奢ってね?」
「は?」
その時、えりの目にふと入ったものがあった。それは、斗真の机の上に無造作に置かれた古びたノートだった。日記帳のようなものだ。
「これは…?」えりは手を伸ばし、そのノートを引き寄せた。表紙には何も書かれておらず、まるで誰にも見せないように大事に隠されているようだった。
「おい、それは…!」斗真が驚いたように立ち上がり、慌てて走ってきた。
えりは手に取った日記をペラペラとめくり始めた。「まさか、こんなものがあったとはね。」
斗真は焦りながら言う。「見るなって言ったろ、あれは。」
「ふーん、どうせ大したこと書いてないんじゃないの?」えりは興味津々に続けてページをめくる。
ページの中には、斗真が日々感じたことや些細な出来事が書かれていた。内容はとても普通のもので、まるで普段の彼と何も変わらないようなことばかりだった。
けれど、その中でふと目に止まったのが、少し違和感のある一文だった。
「今日、またあの子と会った。なんでだろう、顔を見ただけでドキドキしてしまう。きっと気のせいだろうけど、もう少し近づきたいと思っている自分がいる。」
えりはそのページに目を止めた。彼女の名前は書かれていないが、なぜかその一文には胸がざわつくような感覚が走った。気のせいだろうか。それでも、何かしらの違和感を感じながらも、ページをめくるのをやめなかった。
だが、すぐに彼女はその続きを読むことができなかった。
「それ、返せよ!」斗真が急に強く言いながら、えりの手からノートを引き寄せた。えりは思わず顔を上げ、その表情を見つめた。
「へー?斗真にも好きな人いるんだ?」えりは慌てて手を引っ込めた。
斗真はそのまま日記帳を置いた。「なんでもないなら、放っといてくれ。」彼は顔を赤くしながら、日記をしまった。
「でもさー。好きな人いるならうちと関わらないほうがいいよ?カンチガイするから」
えりはそのまましばらく黙っていた。心の中でその一文が何度も反響している。あの「顔を見ただけでドキドキする」って一体どういう意味だったのだろうか。気になって仕方がない。だが、それが誰に向けて書かれたものか、結局最後まで分からなかった。
「これって…誰のことだ?」心の中でだけ問いかけ、けれどもその答えは出さずに、えりは何気ない顔を作りながら言った。
「はいはい、もう返したんだから、余計なこと言わないでよ。」
斗真は目をそらして、「別に」とだけ答える。その言葉には、どこか照れたような、少し強がったような気持ちが感じられた。
その後も、二人は何事もなかったように部屋を片付け続けたが、えりの胸の中でその日記の内容が、じわじわと気になる存在になり始めていた。
「気のせいだよね…」えりは心の中で呟く。
斗真は、誰のことが好きなの!?
茉奈?里奈?そう考えるうちに私は斗真と関わらないほうがいいかも、という気持ちが強くなっていった