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お題:『抱っこ』
⚠️注意⚠️
・誤字脱字
・解釈違い
・捏造
・時系列ぐちゃぐちゃ
・駄文
・腐注意
六千字程度のお話です。凛からする冴との関係は和解はしたけど気まづい、冴からする凛との関係は和解済み、昔と同じくらい仲良しぐらいの気持ちで考えてもらえればいいと思います。
全然関係ない話だけど冴、凛お誕生日おめでとう!
それではどうぞ!
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目を閉じれば兄ちゃんの腕がそこにあるはずだった。
幼い頃当たり前だったそれは今ではもう夏の空の色と同じくらい鮮やかで空ぐらい遠く必死に手を伸ばしても届かない記憶になっていた。
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〜凛視点〜
「行くぞ、凛」
そう言って幼い頃から兄ちゃんは俺を抱き上げてくれて嬉しかった。それに世界一かっこいい兄ちゃんに抱っこされるのは誇らしくて、なにより安心できた。
夜は同じベッドで眠ったし、寒い冬はもちろん、暑苦しい夏も呆れながら抱きしめて寝かしてくれた。
褒めてくれるときは抱っこで頭を撫でてくれたし、疲れたら兄ちゃんが抱っこしてくれた、悲しいときは兄ちゃんの腕の中で泣いた。
幼い頃から刷り込むように続けられてきたそれはいつしか癖になっていて、兄ちゃんに捨てられてからも眠るときは自分を抱え込むように丸まって眠ったし、夏はあの暑苦しさを思い出すかのように布団にくるまった。でも、悲しくても、苦しくても、辛くても少しも泣けなくなった。その代わりにあの腕を求めるかのように手を伸ばしては何かを掠めることすらない指先にもう兄ちゃんは居ないのだと思い知った。
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〜凛視点〜
今日は嫌なことばかりだった。嫌なことだなんて言ったら子供っぽいが、兄ちゃんに捨てられてからに比べたら和解した現在に起こることなんて悲しくも苦しくも辛くもないことは知っているので嫌だというのが適切だと思う。……大したことないとはいえ、嫌なものは嫌で、もともと我慢強くない自覚がある俺はもう限界だった。
まず朝だ。W杯に向けた合宿のために日本に招集されている俺たちは、指定された練習場に集まっていた。監督が来るまで待機していた俺は金髪害虫に絡まれた。
「俺昨日、冴ちゃんとデート♡してきた」
「は?」
「あれ〜!リンリン聞いてないの?」
そう言って耳障りな声で笑う金髪害虫は絶対に悪意があるし真面目に相手するだけ無駄だとわかってはいるけれど、ムカつくし応戦してやろうかなと思ったところで兄ちゃんが来た。
「行くぞ、凛」
昔と同じように同じセリフを言われたが、抱き上げてはくれなくて。この歳なんだから当たり前だと思う気持ちと、昔のようにはなれないのかなという気持ちが合わさってぐちゃぐちゃになったのでとりあえず金髪害虫には舌を出して中指を立てておいた。
「冴ちゃんまたね♡」
「ああ、またな」
……やっぱり殴っておけばよかった。
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〜凛視点〜
それに、練習中はせっかく兄ちゃんと同じグループで練習していたのに、兄ちゃんはパスを全然してくれなくて。兄ちゃんは正常なストライカーには平等だから、ガチガチにマークされていた俺にパスをするべきではないと判断したのだろうけれど、それでも兄ちゃんがパスをしてくれるのなら俺は敵の2、3人くらい余裕でぶっ潰せたのに。恨みがましく思いながらも兄ちゃんの合理性を理解している俺は納得していた。けれどそれは、他人にパスをするしか選択肢がない場合に関してであってそれ以外の選択肢がある場合に他人にパスをすることは許していない、ましてや潔になんて。兄ちゃん一人でも得点できたはずなのに、兄ちゃんは潔の最大限を引き出す正確なパスをした。潔のことを計算し尽くした完璧なパスだった。……それが凄く不快だった。
俺だって兄ちゃんのパスが欲しいのに、兄ちゃん一人でも得点できたのに、潔以外にもフリーな選手はいたのに。それでも兄ちゃんは潔を選んだ、理由は簡単。……それが最適解だったから。でもそれで納得できるほど俺は人間できていないし、そもそも俺はエゴイストだ、自分のゴール以外価値なんてない。
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〜凛視点〜
あとはあれだ。どこから入ってきたのかわからないが、練習場にターコイズブルーの瞳の黒猫が入ってきた。そしてその猫を練習後に兄ちゃんが抱き上げたんだ。それがムカついたから兄ちゃんの手から猫を追い払おうとしたら 兄ちゃんが「可哀想だろ」なんて言うし、猫に威嚇されるし、しかも兄ちゃんに猫が擦り寄ったから見てられなくて顔を背けた。けれど兄ちゃんから「可愛いな」なんて声がして振り返れば猫を撫でているもんだから「なんで」って声が漏れて、兄ちゃんが首を傾げた。猫にムカついていたはずなのに、わかってくれない兄ちゃんにも八つ当たりしそうで、口を閉ざした。猫に本気で嫉妬しているのを知られたくなかったという理由もあった。
兄ちゃんの一番は金髪害虫でも潔でも猫でもなく、俺でいたいのに。それは叶わなくて、でもその事実を知りたくなくて。わかっているのにわかっていないふりをする、その姿はどんなに滑稽なのだろうか。
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〜凛視点〜
いつも練習が終わると電池が切れたかのようになにもできなくなる。サッカー選手糸師凛のレッテルが欠陥品に移り変わるようなそんな感覚が押し寄せてくる。全身から汗が吹き出して、息が苦しくなる、腹に激痛が走り、神経が研ぎ澄まされている割に何も感じられないそんな時間。
その時間が嫌いで嫌いで大っ嫌いで少しでもその時間を減らそうと我武者羅に練習した。それでも二十四時間練習することはできないから練習していないときはひたすらベッドで胎児のように丸くなって時間が過ぎ去るのを待った。眠りはしない、眠ってしまえば兄ちゃんに捨てられたときの夢を見てしまうから。
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〜凛視点〜
練習が終わり合宿所のロビーに俺たちは集められた。なんでも、部屋割りが監督に発表されるらしい。……なんで二人で一部屋なんだよ、クソ。
どうせ二人一部屋なら誰でも変わらない、そう思った俺は監督の話なんてろくに聞かずに自分の部屋のカードキーだけを受け取って早々にその場を去った。
部屋はベッドが二つとシャワー室やトイレ、机と椅子などシンプルに必要最低限の内装であった。ゴロンと倒れ込むようにベッドに寝っ転がり、いつものように丸まった。先程シャワーを浴びて体は綺麗だし、練習は止められているのですることもないためこうするしかなかった。しばらくすると眠気が襲ってきて、抗うように頭を振ったけれど気づいたら目の前は暗くなっていて意識は遠のいていった。
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〜凛視点〜
「サッカーの出来ないお前に価値なんかねぇんだよ」
そうだよね、ごめん、練習しなきゃ。あれボールどこ置いたっけ?あ、そうそう確かカバンの中に……
「消えろ、凛」
あ、そうだった、あるわけない、あるわけないか。だってこれ夢だもんね。
「俺の人生にもうお前はいらない」
何度も何度も夢に出てきては同じことを繰り返す兄ちゃん。もうとっくに聞き慣れたはずなのにその言葉の殺傷力は留まることを知らない。夢だとわかっているのに動けない自分がもどかしい。雪が降る校庭は凍えてしまいそうな程寒くて、手足は霜焼けのように痛い。けれどやっぱり兄ちゃんに捨てられたことの方が余程痛かった。和解以前にこの夢を見たときはこの時泣いて縋っていれば何か変わったのかもしれないと思っていたけれど、今は、きっとこの選択が俺たちにとって正しかったのだと言える。それでも俺は正しくて痛いこの夢を見ない日が一日でも増えるように強く願っている。
独り眠る静かな夜、
──俺は兄ちゃんに未だにあの日の夢を見るのだと伝えられずにいる。
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〜冴視点〜
「あ?」
渡されたカードキーで扉を開ければ荒い呼吸音と呻吟しているようなうめき声が聞こえてきた。監督が話していたとおり、この部屋は二人部屋だ。声が聞こえるとしたら凛しかいないはず。慌てて靴を脱いで普段は揃える靴をそのままに。逸る気持ちを深呼吸で落ち着かせて、声が聞こえるベッドルームに繋がる扉を開ければすぐにその姿は見えた。
「行かないで……」
意識があるのではないかという程にはっきりと聞こえた声はやはり凛からで。凛はまるで自分を守るかのように丸まって寝ている。顔を覗き込んでみれば、苦しげに顔を顰めている。脂汗を滲ませる様子を見ればこの状況が良くないことは一目瞭然だ。……起こした方が良いのだろうか。けれど凛はこの状況を見られたことを知ればきっと嫌がるだろうし、下手に干渉してあの日の二の舞にはなりたくない。凛が俺を見て何かを恐れるかのように視線を逸らすことを知っているから。
こんな無駄な葛藤をしている間にも凛は苦しんでいて、普段の綺麗な肌は青白くサッカーをしているときの健康体は見る影もない。
……なんかもういいか。何かがプツンと切れたかのように吹っ切れる。今後のためとか凛のためとかサッカーのためとか最適解とか合理的とか今この場において重要なのだろうか。エゴイストである俺がエゴを捨てるだなんてありえない。俺は凛が大切だから助けたいし凛はどんなに大きくなっても可愛いという想いは変わらない。それならごちゃごちゃ考えている時間が無駄だ。
幼い頃を思い出す。悪夢を見ることが多かったのか凛はよく魘されていた。その度に抱き上げて声をかけてやった。そうしたらあどけない顔で静かな寝息を立てて安心したように眠る凛が可愛いくて夜中でも関係なく付き合ってやった。凛は覚えていないのだろう、それでもきっと今まで独りで耐えてきた愛しい弟が今だけは寂しくなければいいと思ったから。丸まっている凛の脇に手を入れてそのまま上に持ち上げると以外にもすんなりと抱っこすることができた。
「チッでかくなりやがって」
さすがに重いけれどこれなら大丈夫そうだとしばらく抱っこしていると荒く細い呼吸はゆっくりとしたものになり、苦しげな表情は昔のようなあどけない顔に変わった。
仰向けにベッドに寝かせるとそのまま同じベッドに潜り込んだ。……また魘されていたら可哀想だもんな、なんて建前でしかないのだけれど。凛の体温は高くてすぐに眠気が襲ってくる。頭を少し撫でてやって抱きしめた。これは朝起きたときが面倒だと思ったけれどまぁ、凛はちょろいから丸め込めるだろう。そんなことをぼんやりと考えながら眠気に抗うことなく瞼を閉じた。
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〜凛視点〜
「は?」
朝の光が窓から柔く差し込む部屋に寝起き特有のぼんやりとした意識が生まれる。完全には覚醒しきらないままうっすらと目を開けると小豆色の何かが見えた、それに違和感を持ち始めると今度は嗅ぎなれた匂いがして、段々と思考が巡るようになると懐かしい温度を感じた。その正体を知るために起き上がろうとすれば何かに阻まれた。それに驚いて目を見開けば見慣れた顔が見えてその『何か』の正体を完全に理解した。
──兄ちゃんだ。
そして上記の『は?』である。今までで一番困惑の乗ったは?であったと思う。眠っている兄ちゃん相手に叫ぶことも暴れて抜け出すことも出来ず。目をぱちくりさせていると目の前の人が小さな唸り声を上げながら身動きする。次いでバチッと合ったターコイズブルーとの距離に懐かしさを覚えた。
「凛」
そうやって俺を呼ぶ寝起きの変わらないかすれ方と変わった声の高さに、同じようで幼い頃とは違うのだと自覚しては、幼い頃と変わらない距離感に未だ夢を見ているのかと不思議な気持ちになる。
起きるかと言った割に俺を離さない兄ちゃんに疑問を覚えていると寝起きの体でひょいっと兄ちゃんは俺を抱き上げたのだ。
「なんだよっ降ろせ!」
「昨日もこうしてやっただろうが」
は?昨日……?記憶を探っても全く身に覚えが無い。
「ふざけんな!そんなわけねぇだろ!」
「……忘れたのか?」
呆れたような表情でため息をつく兄ちゃんを見るとあの日がフラッシュバックする。怖くて、苦しくて、でも悟られないように、弱みは見せないように。
「だって昨日は普通に寝たはずじゃ……?」
「お前が魘されてたんだろ……昔みたいに」
見た訳ではないから本当かどうかなんてわからない、ただ兄ちゃんが昔を思い出したように微笑むものだからもうどっちでもいいかなんて思ってしまう。
「そういうことでいいから降ろせよ!」
「あ?昔は喜んでただろ」
「いつの話してんだよ」
「暴れんな、落ちても知らねぇぞ」
クソが……。兄ちゃんならやりかねない。怪我したらサッカーできねぇし、大人しくするしかねぇか。
「てかどこ向かってんだ?」
「練習場」
「は!?このまま?」
どうせ言っても聞かないしもういいか。兄である兄ちゃんに弟である俺が逆らえるわけないんだから……それに暖かいし。
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〜凛視点〜
「お前らどうしたんだよ!?」
あー予想はしてたけど死ぬほど恥ずかしい。てか騒ぐんじゃねぇ、 他のやつも来るじゃねぇかクソ潔。
「凛ちゃん顔真っ赤だよ?」
「うるせぇ、黙れ死ね」
「可愛いだろ、俺の弟」
「あーそういうこと 」
潔はなにかを察したような顔でこっちを見てくる。潔の分際で同情すんな。
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〜凛視点〜
流石に練習のときは降ろしてくれて今はホテルの部屋。さっさと風呂に入ってベッドに寝っ転がった状態。いつもはこの時間が限り無く感じる一番嫌な時間なのだけれど今日はなんだか感情がぐちゃぐちゃで、落ち込む余裕もない。
「まだ起きてたのか」
風呂から出てきた兄ちゃん。そのままこちらに向かってきたと思ったら布団をめくって俺の隣に寝転んだ。
「なんで来んだよ」
「いいだろ別に、兄弟なんだから」
……兄弟……兄弟だもんな。ならいいよな。
「急に甘えたか?」
「うるせぇ」
人一人分空いていた俺と兄ちゃんの距離を詰めて後ろから抱きついた。顔を見られないように兄ちゃんの背中に顔をくっつけた。毎日怯えながら激痛に耐える日々だったのに抱きついたら兄ちゃんが暖かくて安心してあの痛みが嘘だったみたいに思えた。……独りで耐えた苦しみも、おいてかれた寂しさもそれを悟られないように繕った生活も全てが報われた気がして無性に泣きたくなった。
わからない、証拠もなければ確証もない。けれどきっとこれからは独りで怯えながら魘されることはないはずだ。
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前言撤回。
今日はいい一日だった。
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終わりです!
このお題が出たときはどうしようかと思いましたね。6cm差って抱っこできるかわからなかったんですけどなんかの動画で20cm差が抱っこするみたいなのがあったと思うんで6cm差ぐらい余裕かなと思いました。それに冴は兄の意地で抱っこしてくれると思います。
凛ちゃんお兄ちゃんに抱っこしてもらえてよかったね!