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それからしばらく、紗奈は陽葵と同じマンションで暮らしながら、少しずつ外に出られるようになっていった。
最初は、玄関の外に出るだけでも怖かった。
でも、
「大丈夫、俺いるから」
その一言で、なんとか一歩踏み出せた。
近くの道、お店まで
少しずつ、少しずつ。
紗奈の世界は、また、ゆっくりと戻っていった。
あの学校での出来事から、一ヶ月ほど経った頃。
紗奈は久しぶりに学校へ行くことを決めた。
「……大丈夫かな」
小さくつぶやく紗奈に、陽葵は隣で軽く笑う。
「無理そうだったらすぐに言ってね」
その言葉に、紗奈は小さく頷いた。
教室のドアを開ける。
一瞬で、視線が集まる。
少しだけ空気が張りつめた。
「……紗奈」
クラスメイトが声をかけてくる。
「その……あの時は、何も言ってあげられなくてごめん」
優しい言葉のはずだった。
でも、
(……自分でやめてって言えばよかったじゃん)
頭の中で、違う言葉に変わる。
「……あ」
息が少し詰まる。
別の人も言う。
「大丈夫?無理してない?」
(また倒れるんじゃないの?迷惑)
そんなふうに聞こえてしまう。
本当は違うって分かってるのに、
どうしてもそう感じてしまう。
紗奈は少しずつ表情を強ばらせていく。
「……紗奈」
隣から声がした。
陽葵だった。
紗奈の様子を見て、すぐに気づいた。
「ちょっと行こ」
軽く手を引く。
紗奈は何も言えないまま、陽葵についていった。
向かった先は、屋上だった。
扉を開けると、外の空気が流れ込んでくる。
人はいない。
静かな場所。
「……ほら」
陽葵は紗奈をベンチに座らせる。
「ここなら大丈夫でしょ?」
紗奈はゆっくり息を吐いた。
さっきまでの息苦しさが、少しずつ落ち着いていく。
「……ごめん」
小さく言う。
陽葵は首を振った。
「謝んなくていいよ」
その言い方は、軽くて、そして優しかった。
それから、 二人はよく屋上に行くようになった。
お昼はそこで一緒にご飯を食べたり、
たわいない話をしたり。
紗奈にとって、屋上は
「安心できる場所」になっていった。
少しずつ。
本当に少しずつだけど、
紗奈は人と関わることにも慣れていった。
前みたいに自然に笑えることも、増えてきた。
でも
時々。
「あれっ……」
ふらっと、体が揺れることがある。
その瞬間。
「紗奈」
陽葵がすぐに気づく。
「行こ」
何も言わずに、手を引く。
屋上や、保健室
人の少ない場所へ連れていく。
「ほら、座って」
落ち着くまで、そばにいる。
無理に話しかけることはしない。
ただ、側にいてくれる。
それだけで
紗奈は少しずつ呼吸を整えられた。
まだ完全に戻ったわけじゃない。
時々、前みたいに苦しくなる。
それでも、
前とは違う。
「……大丈夫」
小さくそう思える瞬間が、増えていた。
一人じゃないから。