※須藤北斗視点
「二年――九条良介」
「……………………ふぇ?」
ん? ちょっと待って?
九条良介? くじょうりょうすけ……クジョウリョウスケ。
……kujoryosuke?
…………えぇ⁉
九条良介⁉ 俺の名前九条良介じゃねェんだけど⁉⁉⁉
ちょっと待ってよ教頭先生!
そこ大事なところなんだから間違えないでよ……。
って、え?
なんか俺じゃない奴が舞台に上がったんだけど?
ん? 九条良介……九条良介?
……………………。
ハァアアアアアアアアアアアアアアッ⁉⁉⁉
九条良介ってアイツ⁉
俺じゃなくてアイツが⁉ なんで表彰されてんだ⁉
しかも全国百位以内って、アイツが⁉ 嘘だろ⁉
それに表彰されるのは一人……ってことは俺の負けじゃねェかァッ!!!
ちょっと待ってくれ。
全く理解できない。
どういうことだ?
これは夢? 夢だよな?
頭がバグったように働かない。
マジで何が起きてんだ……?
九条が校長先生の前に立つ。
すると静まり返っていた生徒たちがざわざわと話し始めた。
「嘘でしょ?」
「九条が全国百位以内?」
「やばくね?」
「頭よすぎだろ……」
「須藤くんじゃなかったんだ」
「ってことは勝負って……」
生徒たちの声が、耳から耳へと通り抜けていく。
何も理解できねェ……。
俺は今立ってんのか? 座ってんのか?
一体どんな顔してんだ?
頭がクラクラしてくる。
校長先生は賞状を持ち、声高らかに読み上げ始めた。
「九条良介。あなたはこの度行われた全国統一模試において、“全国一位”の成績を収められたので、これを賞します」
「「「「「………………」」」」」
「「「「「えぇえええええええええええええ!!!!!!!」」」」」
どよめく体育館。
声が頭の中でも反響する。
…………ふぇ?
ぜ、全国一位?
九条が?
全国で一番……賢い?
……………………ふぇえ?
「今全国一位って言ったよな⁉」
「ヤバくね⁉ これヤバくね⁉」
「九条くんすごすぎ……」
「あんなにイケメンで運動もできて、しまいには全国一位の学力とか……」
「さすがに勝ち目ないわ」
「ってことはあの勝負、九条の勝ちってことだよな?」
「当たり前だろ! 全国のどこ探しても九条より上はいないだろ!」
「ってか完全に須藤の上位互換じゃね?」
「確かに。須藤より九条だ!!!」
ま、待て。
待て待て待て!
九条が俺より上? 学力でも上⁉
そんなはずは……で、でもアイツは全国一位で……。
「ってかさ、もしかして九条があの“幻の首席”なんじゃね?」
「確かに! むしろ九条しか考えられない!」
「九条くん、あの首席だったんだ……」
「ヤバい、超カッコいい……」
「もう誰も勝てないだろ」
俺が……負けた?
雫を狙ってたのに横取りされて。
組対抗リレーで九条に負けて、俺のことが好きだった彩花を取られて。
一目惚れした美女は九条が好きで、頼りにしてたボディーガードをボコボコにされて。
しまいにはいつの間にか弥生を奪われて。
そして今は、学校の地位まで逆転し始めた。
なんだよ……これ。
俺様は須藤北斗だ。この世の頂点に立つ男だ!
なのに、なのに……!
絶対こんなのおかしい!
いやけど、実際に負けて……負けてなんかねェ!
でも俺の名前は呼ばれて……。
アァアアアアアアアアアアアアア!!!!
こんなはずじゃなかったのにィッ!!!
俺様はどこまでも自分の思い通りに事が進んで、欲しいものはすべて手に入れて。
俺より上なんかいない、正真正銘の“最強”だったのにィッ……!
なんだよこれはァアアアアアアアアアアア!!!!
九条が舞台から降りる。
すると生徒たちから歓声が上がった。
「「「「「きゃーーーーーー!!! 九条くーーーーーん!!!!」」」」」
ふざけんな!!!
それは俺のモンだ!
なのに、なのに……どうして俺のじゃない⁉
いつから俺の手をすり抜けちまったんだ!!!
こんなの、こんなのォ……!!!
「おめでとう、良介」
「ありがとう、一ノ瀬」
「ま、良介なら取ると思ってたわ。想定内ね」
「あはは……」
「良介くん! めっちゃすごいね!!!」
「九条くんさすが~!」
「花野井、葉月。二人ともありがとう」
「えへへ~!!!」
「どういたしまして~!」
雫、彩花、弥生に囲まれる九条。
そこは俺のポジションだったろうがァ……!!!!
うわぁあああああああああああああッ!!!!
頭が割れるように痛い!
それにクラクラして、視界もぼやけて……。
うぐっ……クッ!!!!!
頭を押さえる。
俺が……俺じゃなくなる!!!
「九条くん完璧すぎだろ」
「ここまで来ると嫉妬すらできないわ」
「これで勝負あったな」
「最近の須藤、微妙だったしなw」
「真の一番決まったかー」
「世代交代的な?w」
「あれはさすがに須藤が可哀そうだわw」
「わかるw同情しちゃうよな」
「これから九条くんおそっと」
「えー私もー!」
「同担拒否なんですけど~」
視界が揺れる。
アァ……俺様は、須藤北斗、で……。
誰にも負けない、一番の男なんだ……。
な、なのにこんなの、こんなのォ……!!!!
――プツン。
意識が途絶える。
ばたん、と音を立てて俺はその場に倒れこんだ。
「きゃーーー!!! 須藤くんが泡拭いて倒れたーーー!!!!」
「うわっ! 大丈夫か?」
「大丈夫じゃねぇだろ、この顔……」
「先生ー!」
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