また、熱を出した。
弱い体に保存し切れなかった熱が、おでこに貼られた冷たいものに吸い取られていく感覚。
幾度とも感じた気持ちの良い感覚に随分と、僕の弱った体は甘えん坊になってしまったみたいだ。
考えれば考えるほど、このおでこの冷たさから訪れる不幸は周りの人間達に多く影響しているらしい。
けれど、熱を抑えられないのは、この体を生み出してしまったこの広大な世界が悪いのではないかと、誰に認められることも、誰に救われることもないままにひとりでに恨み続けている。
寝具の上で寝かせることしか出来ない瞳を開き、紙に記された「書物」というものを手に取り、読み物を嗜んだ。
多少の知識は得られたものの、書物には誰かの怨念が籠る物も存在するのだということを知った。
僕が恨むこの世界が悪いのではなく、産んだ親が悪いのだと書物は語った。
僕は自身の意見を尊重しない程馬鹿なわけじゃない。
例えそれが間違った解釈であっても、それが間違った理不尽な答えであったとしても、僕は僕を尊重し、誰かの意見を細かく聞いた上で、理由を聞いた上で考えを改めるかもしれない。
書物はこれを「面倒な人間だ」と、「嫌われる人間なのだ」と語る。
間違ったことで一歩前に進むことが出来る。
そんな前向きな語りを告げる書物の方が、偽善を語っている書物の方が、書物なりの理屈を述べると「好かれる」のだろうなと、ここに個人的な思想を述べておこう。
文字が幾つも踊り狂う書籍用紙から、少し、視線を外して見る斜陽は、僅かに私の熱を下げた。
火照った体に、惹かれるように、視界に収める晩陽から吹いてくる秋の香り。
熱を出す理由は、身体に入り込んだ異物を拒否反応で追い出そうとしているからなのだと書物は語った。
僕は自慢気に語る書物を拝見し、そして僕自身が何かを求めているのではないかと思った。
醜い環境下の中、異物なんてものは身近に存在している。
それでも「生きよう」としている人間の意思を尊重しなければいけないと、悲しげな書物は語る。
「尊い生き物なのだ」と、「賢い生き物なのだ」と語る書物は何時も涙を流していた。
書物を嗜む際に腰掛ける木製の窓枠にはいつも、疲れ、窶れた人間が歩いていく姿が映る。
「ただいま」「おかえり」「ごちそうさま」「お粗末様」
家族の何気ない声が、この窓枠には備えられている。
電気もつけずに何をしているのだと言われたとしても、何度叱られたとしても、それが書物の語る「愛」なのだとしたら、僕の側には「望まぬ」それしかないのだから。
誰かが「寵愛」を望むと語る。
手にしている僕は「望まない」と言う。
「分けて欲しい」と書物は亡く。
分けられる物なのなら、当の前に分け与えている。軟な物では無いからこそ消滅しない面倒な物。
私はこれを「呪い」(あい)だと呼ぶ。
コメント
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[書物は語った]というのはそれらに関する書物を拝見した…ということでしょうか🤔凄く繊細な単語が並んでいて文章が崩れないのがとても凄いと思いました!頑張ってください!!
呪い(あい)?!天才か!?!!?!