テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
とと
#関西弁
1,069
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……新先生。なんで無視するんですか?」
渡り廊下。一人で歩く新先生の背中に向かって、俺は声を張り上げた。
先生の足がわずかに躊躇したように止まり、ゆっくりとこちらを振り返る。
きっと先生は、俺から声をかけてくるのを待っていたんやろう。
「……ダサいなと思ってさ。高校生に告白して、振られて。当たり前の結果やのに」
自嘲気味に笑う先生の表情が、どこか悲しくて胸が疼く。
「全然、ダサくないです。俺、嬉しかった。だから……あと少し、待ってくれませんか? 俺が卒業するのを、この学校で、新先生にちゃんと見ていてほしいんです」
「……そんなに俺が待てると思う?」
パァン、と手に持っていた教科書を壁に叩きつけ、先生が俺を威圧する。
怖い。いつもの優しい新先生じゃないみたいや。
「……俺のことが好きなら、待ってください。お願いします」
俺は逃げずに、先生の目を見つめ返した。
「……二回」
「え?」
「『待ってください』って、二回言われたから。……やめとこかな?」
「……俺のこと、諦めるってことですか?」
「……無理やり襲ってやろうかと思ってたけど、やめとこうかな、って事」
ニッと目尻に皺を寄せて、悪戯っぽく笑う。よかった、いつもの新先生や。
「お、俺の方がデカいんやから、そんなことできると思うなよ」
「……そうやな、返り討ちや」
二人で笑い合い、ようやく元の距離に戻れた気がした。これは、俺のとこに突撃してきたもとちゃんの「あほさ」を真似したおかげかもしれない。明日、あいつにお礼を言おう。
「あ、先生。また美術室に遊びに行っていい? 聞いてほしいことがあるねん」
「ええよ。いつでもおいで」
軽く手を振って先生と別れる。順調、順調や。
一度はどん底に落ちたけれど、また盛り返した。あとはもとちゃんを手懐けて、そのうち本当に好きな人に出会えたら、俺の人生は最高潮や。
♢♢♢
翌朝、午前九時。休みの日の朝早くインターホンが鳴り響いた。
誰やねん。ネットショッピングなんて頼んでへんぞ。
「……朝からなんで唐揚げやねん」
「俺、五時に起きて勉強してきたから、実質もう昼やねんな」
言っていることは支離滅裂やし、朝の九時にしてはその笑顔が爽やかすぎる。特進クラスって、脳の構造がバグってるんじゃないの?
「頭を動かすには、朝からもりもり食べな!あとは生ものと糖分。バナナもいっぱい持ってきたからな!」
お母さんが用意してくれたんだろう、フルーツの盛り合わせにご丁寧に白飯まで。なんでこいつ、俺の母親みたいになってるねん。
「……なあ。これって、同情?」
「え?」
「……家追い出された俺に、同情してんの?」
差し出されたタッパーから、大粒のぶどうを一粒口に放り込む。
最近の品種は皮ごと食べられて、驚くほど甘い。
「……え!? 家追い出されたん!?」
もとちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
今更、何を言ってんねん。金持ちの息子が両親の離婚後、高校生で一人暮らしを始めた理由なんて、そんなもんやろ。それくらい察しろよ。
「……何やと思ってたん?」
思わずふふっと笑いが漏れる。あかん、思ったよりこいつの天然、好きかもしれん。
「空のお父さん金持ちやから、家、一個プレゼントしてもらったんかと思ってた……」
「じゃあ、なんで謝ってたん?」
「……俺だけ、お母さんの美味しいご飯を食べてるの、悪いなぁと思って」
だから、わざわざおかずを持ってきたり、レシピを聞いて一緒に作ろうなんて言ったんか。暗い俺の部屋に眩しすぎるくらいの純粋さやな。
「……チッ。ありがとう」
「え!? 今、舌打ちせんかった!?」
おもろすぎる。こんな些細なボケに大きなリアクション、ほんまにおもろすぎるやろ。
「してない。ありがとうって言ってるんやから、『どういたしまして』やろ?」
「ど、どういたしまして……」
「感謝しろよ」
「え、俺が!?」
「……しゃあない。唐揚げ、食べさせてあげるから」
無理やり唐揚げを口に突っ込んでやると、もとちゃんは「んっ……美味い!」と目を丸くした。
お前、これいつも食べてる味じゃないんか。……ほんま、こいつの母親は、こんなに素直な息子を持って幸せやな。
「……ふぁ…お腹いっぱい」
ソファに座るもとちゃんの隣を陣取る。
朝五時起きやと言ってたし、腹が満たされていい感じに眠気が回ってきたんやろう。
「……ちょっとお昼寝する?」
「うーん、でもせっかく遊びに来たし……」
言いながら、大きなあくび。……これは、いける。
「いつもは? すんの?昼寝」
「うん、一時間くらいだけ。その方が午後から頭が回るから」
「じゃあ、行こか。……ベッド」
「うーん……ここでいい……かも……」
少し目を閉じ、クッションを抱きしめているもとちゃんに顔を寄せる。
あかんよ。ソファで一人で寝たら。俺の隣で寝な、意味がないねん。
「……もとちゃん。ベッド行こ? なぁ」
「うわっ、なに!?」
顔を極限まで近づけて、覗き込むように目を合わせたら。
顔面にクッションを思いきり押し付けられ、「あふっ!」と情けない声が出た。一瞬息ができなくて本気で焦る。
「……何やってんねん!?俺ら男同士で、しかも友達やろ!?」
赤くなった顔で叫ぶもとちゃんを見て、俺はクッション越しに口角を上げた。