テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
mtp
前回の続きです。
「若井……」
僕は毛布の中から、夜 僕が眠っている間に帰ってきた若井の背中を見つめていた。
持ち物準備を終えた彼は、白いシャツに腕を通しながら、鏡の前で前髪を整えている。
まるで何事もなかったように。
──いや、むしろ、何もしてこなかった。
あんなに会ってなかったのに。
何もされず、放置されたまま。
寂しかったのは僕だけだったのだろうか。
「……行くの?」
問いかけると、若井はシャツのボタンを留めながら、ちらりと目を向けてきた。
「うん。練習、詰まってるから」
「……昨日、僕、したって……言ったのに」
わざとらしい声が出る。
若井を引き止めたい、甘えたい、抱かれたい。
けど、わかってる。今は時間がないことも。
わざわざ自分から1人でシた。なんて言って甘えようなんて やり方が ばからしすぎる。
「知ってるよ。……だからさ、今すぐ全部してやりたいけど」
そう言って、ベッドに近づいてきた。
まだ火照りの残る僕の頬に、若井の手がそっと添えられる。
「元貴。ちょっとだけ、我慢して?」
そう囁かれて、次の瞬間。
若井の唇が、僕の唇にふわりと重なる。
「っ……ふ ぁ 、 ゛…♡ わか い 、……」
軽いキスなのに、そこには昨夜の熱も、独占欲も、全部詰まってる気がして──
僕の身体はまた、じんと熱を帯びてしまう。
「……元貴の唇、甘すぎ。出かける前にキスするもんじゃないね笑」
そう言って、若井は僕の髪をくしゃりと撫でた。
そして立ち上がり、玄関に向かう直前。
振り返りもせずに、少しだけ低く、くぐもった声で。
「──夜、覚えといて。」
そう呟いて、若井は出て行った。
扉が閉まったあとも、鼓動はおさまらなかった。
身体の奥の、昨日の余韻を抱えたまま、
今度は“若井に抱かれる夜”のことばかり考えてしまう。
「……ばか、ずるい」
毛布に顔を埋めながら、
若井の帰りを、ただ待つしかない僕だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!