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side:涼架
本日はスタジオで忙しく作業をしている。
今月末には6thオリジナルフルアルバムが発売されると同時にファンクラブツアーも始まるから、とにかくやることが目白押しなのだ。夏季休暇中のゆったりとしていた時間が、すでに懐かしいとすら思えてしまう。
自分達はもちろんだけど、マネージャーやスタッフ達も久しぶりにまとまった時間を家族と過ごせたと喜んでいたし、休暇明けはお土産の交換会になっていた。
美味しそうなお菓子もいっぱいもらったし、可愛い置物もぬいぐるみもいっぱいもらった。お返しにと、でっかいボストンバッグに詰め込んでいた海外のお菓子とか置物とかキーホルダーとかを渡して、休暇中の出来事を話したり話されたり。
そんな風にゆっくりと羽根を伸ばせたからこそ、休暇明けの仕事量は半端じゃなくて。
各々が自分の楽器を弾いたり、元貴がスタッフ達と話し合っていたりと、忙しい時間だけが過ぎていた。
ちょっと休憩しようと思い、ブースの外にあるソファーへと座ると、若井がギターを抱えたままに隣へと座り込んできた。広いソファーなのになんで隣に座るんだろうと思いながらも、お疲れと声をかける。
すると若井は、テーブルの上に置いてあったペットボトルの水を飲みながらに聞いてきた。
「なぁ、涼ちゃん。元貴、めちゃくちゃ機嫌いいんだけど、何かいいことあった?」
確かにね。
今日の元貴は朝からずっと上機嫌だし、音合わせが上手く揃わなくてもピリッとした空気を醸し出すこともなかった。いつも以上に甘えたさんで、スタッフの膝の上に座って雑談したりと、あからさまに機嫌がいいのだ。
「…なんでそれを俺に聞くの」
「え、だって元貴があんなに機嫌がいいのって、絶対に涼ちゃん絡みじゃん」
当たり前のようにそう言われちゃうのもどうなんだろう。
そんなことを思っていると、ブースの中から元貴の声が聞こえてきた。
「あ、ねえねえ、明日は何の日でしょうか~?」
サポートメンバーへと話しかけている元貴の声は、まるで子供のように無邪気だった。
元貴のそんな弾んだ声が俺を憂鬱にさせていく。
「あ、元貴、明日誕生日じゃん。この後、みんなで一緒に飯でも行く?」
「あはは~、無理!」
「え、なんか予定でもあんの?」
元貴のスケジュールをサポートメンバーも把握しているし、本日の仕事はこれで終わりだと知っているから声を掛けてくれたのに。自分から明日は誕生日だと振っておいて、独善的だなぁと思ってしまう。
いや、むしろこの後、みんなでご飯に行こうよ。
そのまま朝までみんなで語り明かそうよ、なんて思ってしまう。
「うふふ、予定がないわけがないじゃん。ね~、涼ちゃん!」
ブースの外にいる俺へと確認するかのような、大きな声だった。
語尾にはハートマークすら浮かんでいるように思えてしまう。きっと表情は緩みきっていて、今晩への期待がありありと浮かんでいるのだろう。見なくても分かっちゃうのがイヤになる。
この仕事が終わると一緒に元貴の家に帰って、そのまま誕生日を迎えることは確定なのだ。
俺たちが付き合っていることを知っているサポートメンバーは、『じゃあしょうがないな。お祝いは別日にするか~』なんて言っている。
「ああ、そういうこと?」
「……です」
そして隣で苦笑している若井へと、小さく返事をしながら項垂れた。
昨日、元貴の家で晩ご飯を食べているときに聞かされてしまった、思いがけない自分の声。なぜあんな約束をしてしまったのだろうかと、俺はあの時の自分を恨まずにはいられなくて。
先日元貴の家に泊まって珍しく宅飲みをした時に、酔っぱらった俺はつい了承してしまったのだ。
もちろん酔っ払いの戯言だし、本人が覚えていないのだから無効だと反論したけれど、元貴は頑として聞き入れてくれなかった。スマホを取り出して、『こんなこともあろうかと、ちゃんと録音しといたんだよね~』と、元貴は得意顔で再生させた。
『ねぇ、涼ちゃん。今年の誕生日プレゼント、なにくれんの?』
『え~、もとき何がほしい~?何でもいいよ~!』
『え、うっそ!?マジで!?』
『うんうん、マジで~。もときの欲しいもの、何でもあげちゃう~!』
『じゃ、じゃあ……裸エプロンして……とかでも、いいの…?』
『だはぁ~、そんなのでいいの~?いくらでもしてあげるぅ~!』
『ほんと!?だ、だったら、どんな言うことも聞いてくれるっていうのも、付け足していい…?』
『ひゃはははは!いいよいいよ!エロいお願いでも何でもきいてあげちゃうから~!』
最っ悪だ。
録音されていた俺の声は、見事に呂律が回っていなかった。ついでに思考も回っていなかったのだろう。何が楽しいのか、キャッキャと騒いでいる。
そうやって物的証拠を持ち出されてしまうと、もう反論する術は残されていなかった。
俺が絶望に打ちひしがれていると、元貴が俺の手を握って言う。
「涼ちゃんは、約束を破るような人じゃないもんね~?前日の仕事終わりは一緒にここに帰ってこようね!」
うう、まるで悪魔のような笑顔だ。
きっと日付が変わったと同時に、服を引っ剥がされてしまうのだろう。誕生日にいつもより濃厚なエッチをするとかなら、恥ずかしいながらも騎乗位でもして、元貴に思いっきり気持ちよくなってもらおうと思えたのに。
それなのに俺を待ち受けているのは、屈辱の裸エプロンなのだ。
ていうか、俺の裸エプロン姿なんか見て、記念すべき30歳の誕生日プレゼントになるのかな。
俺の誕生日に元貴が裸エプロンになってくれるって言っても、俺は絶対に遠慮しちゃうし。
ほんと、元貴ってよくわかんない。
「……やればいいんでしょ、やれば!」
もう観念するしかない。
深いため息と共に、悔しさを滲ませて返事をしたのが昨日の晩のことだった。
コメント
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うわあ、涼架がすごく可愛くて切ないですね…(笑) 酔っ払って録音までされるなんて反論できないし、元貴さんの「こんなこともあろうかと」って用意周到さが彼の涼架への執着というか愛情を感じさせてじわじわ来ました。メンバーとの何気ないやりとりにもバンドの空気感が滲んでいて、裸エプロンどうなるんだろうって続きがすごく気になります!
いつき@ちか様とペア画中
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