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名無しのヒーロー

3 - 第3話 天使のイラストを注文する悪魔

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2024年02月26日

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人気作家 朝倉翔也の新刊の表紙絵の依頼だなんて、私は夢を見ているのだろうか。

何故、無名の自分に人気作家である、朝倉翔也の新刊の表紙絵のオファーがきたのか不思議だ。

一瞬、イタズラメールかと疑ったが、なんと、大手出版社、英談社の朝倉先生担当編集から電話が掛ってきた。

「はい、ありがとうございます。ご希望に添うように精一杯頑張ります」

と、電話を切った。まだ、これから仕事が始まるというのに興奮しすぎて語彙力を失う。


「やったー! スゴイ、スゴイ! 私、スゴイ!」


最愛の我が子を抱き上げ、気持ちはガッツポーズだ。

「美優ちゃん、ママやりましたでちゅよ!ファイティングポーズベビー級、美優ママ頑張りまーす!」

両手をギュッと握り腕を縮めた赤ちゃんのポーズをとる娘の美優を見て、テンションMAXではしゃいだ。

しかし、この歓喜が、直ぐに後悔に変わるとはこの時は思わなかった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇

入念な打ち合わせののち、ラフ絵を提出。

下絵の段階で担当さんから連絡が入り、何度もリテイクを出された。その度に、もちろんやり直し、プロの仕事なのだから仕方がない。

ただ、赤ちゃんのお世話に追われ、気持ちに余裕がないのか、今までこんなにリテイクを出された事は無かった。大きな依頼に舞い上がったけれど、自分には荷が重い仕事だったのでは? と、自信まで無くなってしまっている。

たくさんの線の中から一本の線を選んで一番きれいなラインを書き入れ、細部にまで気を使って書いているつもりだけど、「気「これじゃない」の一言で終わり。

それは、何時間掛けて書いたものであろうと気に入らなけばダメなのだ。

やっと、カメの歩みでラフ絵にOKをもらう。

下書きの絵を書き、細部にも気を使い筆入れをしていく。色塗りだって、ベースになる色の他にも暗い影になる部分やハイライトを重ね、立体感を出す。根気の作業だ。

それも、また、リテイクになってしまった。


自分の至らなさで、本の出版に影響が出たらどうしようと不安は募るばかりだった。

そして、とうとう、ご本人様より直で電話が入った。

人気作家、朝倉翔也様。憧れのご本人とお話をするのにこんな憂鬱な気持ちでお話しするなんて……トホホ。

私は、携帯電話を持ちながら平身低頭の平謝り。


しゃべっている事と言えば、「はい」「申し訳ございません」「わかりました」「すぐに」のローテーションで、電話の先の不機嫌な声が ”少しでもよくなりますように” としか、考えられない。

緊張で、手汗をかきながら必死だった。


たとえ、朝倉翔也様のリテイク内容が良く分からないものだとしても!


「イメージと違うんだよね。もう少し天使の羽の部分が、どうにかならないかな」

「はい、すぐに直します。ご希望ございますか?」

「なので、以前にも包み込むようなイメージだと伝えてあるんだが……」

だから、包み込むように描いているのに気に入らないんでしょ!どう直せば、お気に召すのか聞いてんのに!

でも、人気作家先生様に、そんな事は言えない。


「はあ、わかりました」

「表紙の印象は作品を手に取るきっかけ、言わば作品の顔になるんだから、よろしく頼んだよ」


と、電話が切れた。

もう、プレッシャーまで掛けて、どうしろってのよ!くーっ、やなヤツ!やなヤツ!

携帯電話をぶん投げたい衝動に駆られるが、携帯電話に罪はなく、そんな事をしたら自分が困るので思い留まった。その代わりにクッションを思いっきり壁に向かって叩き付けると、ポスっと気の抜けた音を立て、クッションが床に落ちる。

「はぁ、やるかぁ」

せっかく書いても”これじゃない”との理由で何度もリテイクをしてくるから、要望を聞いたのに抽象的な事ばかり言って、それでリテイクを出すんだから、ちっとも任せていないし、チョット気に入らないの一言に何時間も掛けているコッチの苦労も考えて欲しい。

この、天使の羽根だって8時間もかかった。そりゃあ、筆が遅いと言われたらそうかも知れないが、細部までこだわって丁寧に心を込めて描いたつもりだ。

それを気に入らないとか、なんなの? それなら、もっとわかり易く言ってよ。

天使のイラストを依頼してくるアンタは、悪魔だ!

かと言って、この依頼は、私にとってビッグチャンスである事は変わりない。

個人の依頼を受け細々とやっていただけのイラストレーターから一気に人気作家の表紙を飾るチャンス。これが成功すれば、この先の仕事に繋がるだろう。

でも、理不尽とも言える内容でリテイク喰らうのは辛すぎる!

赤ちゃんである娘の横で悪い言葉を吐くのもどうかと思い。

娘の耳をそっと押さえて、朝倉翔也先生の既に発売された本の隅にある小さな作者の写真に毒を吐く。

「くそぉー!お前の母さんでべそ!」

生後半年になったとはいえ、赤ちゃんはちょいちょい泣く。おむつ替え、ミルクも頻繁だ。離乳食も始まる。ハイハイの時期でもあり片時も目が離せない。連続した睡眠が取れないからいつも寝不足だし、その合間を縫っての作画作業はつらい。

もちろん、プロとしてお金を貰う以上、仕事はキッチリ、プライベートと分ける。

でもね、でもね、大変なのもわかって欲しい。ケド、言えない。子供を言い訳に仕事がはかどらないなんて意地でも嫌だ。気合で頑張る。

気合と意地で必死で直した。レイヤーの数は過去最高になるだろう。


そして、提出。

祈るような気持ちで送信ボタンをポチっと押した。

どうせ、また、リテイクが、入るだろうけど自分の出来る所は頑張った。


そして、担当編集から連絡が入った。

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