TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

単発まとめ

一覧ページ

「単発まとめ」のメインビジュアル

単発まとめ

6 - 【 いっぱい食べる君がすき! 】

♥

1,003

2025年06月22日

シェアするシェアする
報告する

【 いっぱい食べるきみが好き! 】







「蒼井、ラーメン食べいこーよ。」

「はい?」


秋も終盤へ差し掛かる季節。突拍子もなく輝が口を開く。輝の手に握られているスマホの画面には、もやしやチャーシューが山のように盛られた、所謂二郎系ラーメンの写ったSNSの投稿。そして輝自身は、まるで遊園地にでも行きたいと言い出す子供のように燦々と目を輝かせ、茜を見ていた。


「一体急に何を言い出すんですか。」

「だって見てよ、すごい量だよ。気になるじゃん」

「…アンタ、そんなに食べれないでしょう」

「うん、だね。だから蒼井を誘ってるんだよ。」

「はあ」


茜はそこらの食べ盛りの運動部と比べても見劣りしない程度にはよく食べることを、輝は知っていた。普段はそうは見えないが、朝から丼物2つを苦もなく平然と食べ切っているところを見たことがあったから。その薄く痩せている腹のどこにそんな量が入るのか不思議に思った覚えもある。それに加えて好き嫌いもナシ、食べる時間帯にも左右されず、輝との関係も悪くない。これほどまでに好条件な人間も中々いないだろう。


「ね、いいでしょ。奢るからさ、ね」

「……まあ、そこまで言うならいいですけど。」

「やった。今週の土曜の9時集合ね」

「え、早くないですか」

「混むし行列出来るんだってさ。…楽しみだね、蒼井。」

「……はあ。」


変わらず煌々と輝く目をしている輝を横目に、茜は思う。つくづくこの先輩の考えていることは分からない。第一、この人は特段ラーメンが好きでも無いはずなのに、ただの後輩と好きでもないものを食べに行って、何がそんなに楽しいのだろうか。

一方、輝は楽しみで仕方がなかった。何故なら、自分はこの生意気な後輩が食べている所を見るのが好きだったから。ただそれだけである。茜は特別美味しそうに食べるわけではない。弟や妹の方が余程幸せそうに食べているし。対して茜は特に感動を覚える訳でもなく、精々「おいしいな」と思う程度、大半はただ食べ物を胃に流し込んでいるという表現が良く似合うような様子で淡々と口に運ぶだけである。

それなのに、輝は茜に何かを買い与えてやるのが好きだった。理由なんか、本人にもわからないけれど。




▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫


土曜日、8時45分。冷たい空気の中、二人は待ち合わせ場所から件のラーメン店へと移動していた。


「あそこだよ。……わあ、早く来てよかったね。既に結構並んでるや」

「うげ、あんな人気なんですか…。」

「ねえねえ、ここコールとかするんだって。ほら、よく聞く、カタメとか濃いめとか、ニンニクマシマシ〜みたいなやつ」

「僕そういうの全く知らないんですけど」

「取り敢えず蒼井は全マシね。」

「は?」


そんなくだらない話をして、店に着いてからもまた1時間ほど並んで、やっとの思いで席に着く。輝は控えめの、茜は輝の要望通り味も濃く量も多いラーメンを注文した。大盛りのラーメンを注文した時、店主に一瞬渋い顔……というより、舐められている顔をされて、茜は若干の不快感を覚えたが今回は何も言わないことにした。それからまた20分ほどあと、二人のラーメンが出揃い、食べ始めた。

おいしいね、やっぱり量多いね、やらなんやら喋り続けたり、写真を撮ったりする輝とは対照的に、茜は黙々と麺やらもやしやらを口に運んでいく。あからさまに気に入った様子でもないが、顔を顰めていないあたり、嫌いな味ではなかったのだろう。


「ごちそうさまでした。」


更に20分後、量にかなりの違いがあるため、当たり前に輝の方が先に食べ終わった。が、 既に茜のラーメンも、山のように盛られていたもやしやキャベツがほとんど無くなっていて、それこそあと10分もあれば食べきれてしまいそうだ。

するすると茜の口に運ばれていく麺たちを、輝は満足そうな顔で見守っていた。


「……あの、会長。そんなにニヤニヤしてどうしたんですか?」

「え、ああ、ごめんね。結構楽しくて。」

「人が食べてるところ見て何が楽しいのか…。」

「あははっ。…ねぇ蒼井、動画撮っていい?」

「……はい??」

「ね、いいでしょ。ダメ?」

「いや、ダメっていうか……会長になんの得があるんですかそれ」

「うーん。私用?」

「はあ?…まあ、いいです。好きにしてください。」

「!!わーいっ」


許可をとる事に成功した輝は、ウキウキとした様子でスマホのカメラを起動して、茜に向ける。最初こそ気まずいのか茜の食べる動作がぎこちなくなっていたが、少しするとそれも無くなり、普段通りの様子でするすると食べ進めていく。満足感と、優越感か背徳感が分からない何かがじんわりと胸に滲み、その熱に浮かされた輝は、無意識の内にさらに口角を上げて茜を眺める。

相変わらず、淡々と食べるなあ。痩せてるのに、こんな量の食べ物どこに入ってるんだろう。ちゃんといっぱい噛んでるの偉いな。箸の持ち方綺麗。あ、耳に髪掛けた。…なんか、いいな。横顔綺麗だな。あ、歯並びも整ってる。こうして見るとやっぱり可愛い顔してるなあ。こっち見てくれないかな。……あ、見た。ちょっと照れてる?かわいい。この後何しようかな。コンビニでアイス買って食べるとかしてみたいけど、流石に入らないかなあ。あ、よく見たら割り箸割るの失敗してる。横じゃなくて縦に割るといいんだよって、後で教えてあげよう。……食べ終わったのかな?スープ飲む派なんだ。


「ごちそうさまでした。待っててくれてありがとうございます 」

「お粗末さまでした。いいえ〜。 」


ぱちん、手を合わせて、茜が「ご馳走様」をしたので、動画を止める。本当はもう少しゆっくりしていたかったけど、店主の視線の圧に押されて渋々店を出た。ひゅう、と冷たい風が吹き抜けて、ああ、もうすっかり冬になったんだなあ、なんて他人事のように思う。


「蒼井、コンビニでアイス買おーよ。」

「今の季節に正気ですか?」


近くのコンビニに入って、これ美味しそうだよ、あれ新作だって、なんて、殆ど輝から一方的に話しながらアイスを選んだ。茜の選んだソーダ味と、輝の選んだチョコ味のシャーベット感の強いあっさりしたアイスを、二人公園で食べる。

晩秋に外で食べるアイスなんてやっぱり寒くなるだけで、二人の身体も手もどんどん冷たくなっていく。輝は寒がりだ。尚更、今の時期のアイスなんて凍えてしまう。でも、まったく、嫌なんかじゃなかった。だって。


「おいしいね、蒼井」

「そうですね。クソ寒いですけど」


君といれば、どんなに寒くても暖かいよ。

君のお願いは全部叶えて上げたいし、危険なものからはできる限り遠ざけてあげたい。でもやっぱり、君のその、僕よりも小柄な背中に縋らせて欲しいし、情けない姿を見せることもある。

僕が君にどんな感情を向けてるのかなんて、知らなくていい。僕はそこには行けないから。

だって君には大事な人が、好きな人がいる。だから、僕は一番大切じゃなくていい。でも、でもね。

君が一番に頼る相手でありたい。

君の記憶に、少しでも残りたい。

こうやって、一緒に何かを食べたい。

美味しいもの、食べさせてあげたい。

普通の友達としてでも、君の近くにいたいよ。


こんなこと絶対、君には言ってやらないけど。










なんか私こんなんばっかりだな。精進します

この作品はいかがでしたか?

1,003

コメント

6

ユーザー

くっそ、なんでもっと早く見れなかったんだッ!!!いやもう、最高です…いっぱい食べる茜くんほんとに可愛すぎて…ッ!!!それをみてウキウキしてる輝兄もかわいい…全部可愛い…好き過ぎふ…🫠茜くんのだけ、勝手に大盛りにすんの最高に源会長してて、好き🙄輝兄の、茜くんがラーメン食べるところの実況大好き、大好きなんやなってことが伝わってくる…(泣)それでも片思いだし、この恋が報われることは無いけど無いなりに

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚