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元貴過去編
sideM
教室のざわざわした音が、やけに遠く感じた。
「元貴、それ違くね?」
後ろから軽く言われた一言。
悪意なんてない。
ただのツッコミ。
――のはずだった。
「ごめん」
反射的に謝る。
周りが少しだけ笑う。
それだけ。
それだけなのに。
胸の奥に、何かが引っかかった。
(今の、変だった?)
(空気読めてなかった?)
(またやった?)
頭の中で、同じ言葉がぐるぐる回る。
授業の内容は入ってこない。
ノートの文字も、いつの間にか止まっている。
⸻
帰り道。
友達のはずの若井が話しかけてくる。
「今日さー」
いつも通りの声。
いつも通りの距離。
なのに。
「……ごめん、ちょっと用事」
嘘をついた。
一人になりたかった。
誰にも見られたくなかった。
⸻
家に帰る。
部屋に入る。
ドアを閉める。
それだけで、少しだけ安心する。
ベッドに座る。
そして。
「……はぁ」
一気に力が抜ける。
その瞬間。
頭の中で、声がした。
「大丈夫だよ」
びくっと体が跳ねる。
周りを見る。
誰もいない。
「きみ、ちゃんとやってたよ」
優しい声だった。
否定しない声。
「ちょっと失敗しただけ」
「そんなの普通だよ」
さっきまで頭の中で回っていた不安が、少しだけ軽くなる。
「ほら、もう忘れよ」
その通りだと思った。
その方が楽だった。
考えなくていい。
傷つかなくていい。
⸻
次の日。
学校に行こうとして、足が止まった。
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玄関で。
理由は分からない。
ただ、行きたくなかった。
「無理しなくていいよ」
また、声がした。
「今日は休もう」
優しい提案。
否定じゃない。
逃げ道。
「一日くらい、平気だよ」
その言葉に、少しだけ安心してしまう。
――いいか。
そう思ってしまった。
⸻
それが、始まりだった。
一日が、二日になって。
三日になって。
気づけば。
ドアの外が、遠い場所になっていた。
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