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あの後ずっと考えていたけれど、
僕はふと思いついた。
今の僕は晶を覚えている僕だ。もしかしたら、
母親を覚えている方の僕とはまた存在が
違ったとしたら、話せるかもしれない。
そう考えついてから行動は早かった。
すぐ側にあったノートとペンを持って、
「 僕は晶を覚えている緋翠です。」
そう書き込む。…返事は返ってくるのだろうか
次に入れ替わった時にすぐわかるよう机の上に
開いて置いた。
今日の通院を終えた僕は、先生に薬を貰って
家に戻った。今は晶の事を覚えていない。
今日も疲れたな、なんて思いながらふと机の上を見るとノートが置いてある。
「 ……なにこれ。」
こんな物を ‘ 書いた記憶は無い ’ 。
もしかして、コミュニケーションを取れるかもしれない。
僕はそう思って、ノートにこう書き込んだ。
「 僕は母親を覚えている緋翠。この言葉を書いた記憶はない。」
と。
何かしら、情報を共有する事が出来るかもしれない。
でも僕は違和感に気がついた。
記憶から抜けるのは晶か母親の事だけで、日常の事は全部覚えているのに何故かこのノートの記憶だけは共有されていないのだ。
先生に聞けば、何か分かるだろうか。
そう思って翌日僕は病院に行って先生と話をした。
しかし、先生は分からないと首を振るだけ。
また調べてみるからと言われて僕は帰らされてしまった。
あの日僕は家に帰って数日かけもう一人の僕と話していた。
僕はもう一人の僕の返事と入れ替わる瞬間を
待ち侘びるようになった。
嗚呼、治療が進んだらどちらかの僕は死んで
残された方は一人になるんだろうな。
そう思うと、僕は悲しくなった。
いっそ、今死んでしまえばどちらも取り残されずに済むのだろうか。
でも、浮かぶのは周りの事。
死のうだなんて考えは頭の奥にしまいこんで、
学校の宿題をさっさと片付けた。