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冬の頃 / 蘭菊
※短いです、とても。
※だいぶ前に書いたものですので、季節感間違っているかも。
朝方の冷えた空気に目を覚ます。暖かな日差しが、襖越しに部屋へと差し込んでいた。
「おえ、どこ行く気や」
徐に立ち上がろうとしたら、先程まで隣で寝息を立てていたはずの人物に服の裾を掴まれた。その手には力が込められておらず、彼がまだ目覚めていないことを物語っていた。
「気分転換に、少しだけ外へ行こうかと」
途端に裾を掴む手が離れた。彼は眠たげな顔を上げ、翠眼の瞳に私を映す。
「一人で、か」
なんとも不満そうだ。寝起きだからか、はたまた不機嫌だからか。普段より、一段と声が低い。
「一緒に来ますか?」
横になっていた彼が、ゆらりと体を起こした。私の言葉には返事をせず、そのまま外に行く支度をはじめた。
来る、ということだろう。
彼に続いて、私も上着を着て玄関へ向かう。
扉を開けると、そこには一面の雪景色が広がっていた。
「なかなか積もってますねえ」
一歩進むと、サクッという音を立てて、足が沈んだ。一歩、二歩、三歩。ゆっくりと雪を踏む度に、辿った雪道に足跡がつく。人類ではじめて月に行った人もこんな気持ちだったのだろうか⋯⋯なんて。
雪を踏む音が心地良く、何度も地面に足を踏み入れた。
そんな私を見て、彼は腕を組みながら『子供みてえざ』と言った。
その時、彼の口元が少し緩んでいたことに気付いた。
ふいに見せる彼のそうした優しい表情に、どうも胸が熱くなる。⋯⋯こんなこと、口が裂けても言えないけれど。
「ほら、蘭さん。雪うさぎですよ」
近くにあった落ち葉を耳に、小石を目に見立て、雪うさぎをつくってみせた。
そして、雪うさぎを量産しはじめる私を見ながら、彼は『ほうけ』とだけ空返事をした。
それから、数分経った頃。まともな防寒着も着ずにずっと外にいたからか、くしゃみが出た。
「⋯⋯冷えるで中入るざ」
彼なりの気遣いなのだろうか。肌は冷えているのに、胸の内は温かい。
なんだか、無性に嬉しいですねえ。
そう思ったのも束の間、蘭さんはそそくさと家へ上がった。私の引き留める声も聞かずに、玄関で靴を脱ぎはじめる。
もう少し雪を堪能したかったのですが、仕方がないですね。
つくった雪うさぎを地面にそっと置き、蘭さんの後を追うように玄関へ向かった。
「はー、やはり冬はこたつが一番ですね」
先週出したこたつに入り、みかん片手に息をつく。外で冷えた体が、一気に温まっていく。
蘭さんはというと、黙々とみかんを食べ続けている。今食べているのは何個目だろう。籠の中で山になっていたみかんがいつの間にか残り数個になっていた。
「みかんを食べ過ぎると、手が黄色になるんですよ」
彼はみかんから目を離し、怪訝そうに私を見た。そして、どこかにやついたまま『ああ』と、小さく声を溢した。
「ほんなに食べたいならはっきり言いねま」
⋯⋯この人は、どこまで私をからかえば気が済むのだろうか。
「そんな、私が食いしん坊みたいな言い方しないでください!」
声を上げる私に対し、赤子をあやすように宥める彼。それがどうにも苛立たしく、愛おしく。
無意識に口元を緩ませる彼には到底敵わないな、と肩の力が抜ける頃。
寒い冬の、暖かな一室。指先が橙色になり、青い空が顔を覗かせる時。来年も、この人と一緒が良いと。小さく、小さく、心の中で思っていた。
コメント
7件
日本の四季にゆったりと染まる蘭さんて良いな⋯本田サンは知識人であってほしいな⋯とりま冬の雪ではしゃぐ子供らしい本田サンが見たいな⋯というのが本音です。 殺伐としたものもときめくものも好きですが、穏やかで何気ない日々を過ごす蘭菊もまた趣があるのではないかと。
うっひょー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!