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玄関先に残った熱が、ゆっくりと引いていく。
しばらく無言のまま向かい合っていた二人だったが、ふと我に返ったひまなつの中で、現実が一気に押し寄せた。
――俺、今、玄関で……何してたんだ……。
頬にぶわっと熱が集まり、耳の先まで一気に赤くなる。視線をどこに置けばいいのか分からず、きょろきょろと落ち着きなく目を泳がせた。
一方のいるまも、『……やっちまった……』と内心で小さく息を吐く。
勢いに任せた自分を反省しつつも、真っ赤になって戸惑うひまなつの姿が目に入った瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
懐かしさと愛おしさと、抑えきれない感情が一気に込み上げる。
「……とりあえず、飯にするか」
少しだけ照れを誤魔化すように、低く声をかける。
ひまなつは一瞬びくっと肩を揺らし、それから小さく、こくりと頷いた。
「……うん」
いるまは静かに立ち上がり、ひまなつの様子を見下ろす。
「立てるか?」
その問いに、ひまなつは足に力を入れようとして――ぐらり、と身体が揺れた。
「え、あ、あれ……?」
腰に力が入らず、思わずその場でもたつく。自分でも予想外だったのか、目を丸くして、あわあわと手を空中で彷徨わせた。
その様子を見たいるまは、ため息混じりに近づき、ひまなつの腰に腕を回す。
「ほら、危ねぇだろ」
そのまま、軽く力を入れて抱き上げた。
「えっ!? ちょ、ちょっと……! 重いからいいって……!」
慌てて抵抗しようとするひまなつだったが…
「うるせぇ。黙って抱えられてろ」
低く、ぶっきらぼうに言われてしまい、それ以上何も言えなくなる。
観念したように、そっといるまの服を掴んだ。
運ばれている間、ひまなつの鼻先には、懐かしい匂いがふわりと広がる。洗剤と、ほんのりとした香水の香り、そして、昔と変わらない、いるま自身の体温。
胸に伝わる温もりが心地よくて、安心がじんわりと染み込んでいく。
――変わってない……。
その事実だけで、また涙が込み上げそうになるのを、必死にこらえた。
リビングに入ると、いるまはソファの前でしゃがみ、ひまなつをそっと下ろす。
「ここでちょっと待ってろ」
そう言って、ひまなつの髪をくしゃっと優しく撫でた。
その仕草に、胸がきゅっと鳴る。
「……うん」
小さく返事をすると、いるまはキッチンへ向かっていった。
背中を見送りながら、ひまなつは改めて思う。
低い声も、体温も、匂いも、何気ない優しさも。
全部、あの頃のままだ。
――やっぱり……優しいままだ。
胸の奥が、じんわりと温かくなっていくのを感じながら、ひまなつはソファの上で、静かにその余韻に包まれていた。