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朝。ムツキは仔猫や仔犬、仔ウサギと仲良く寝ており、いつもの起床時間よりも遅い。しかし、彼はいまだにぐっすりと眠りこけている。久々の快眠といったところである。
「もふもふ……いいよね……。ふわふわだあ……」
ムツキの寝言からして、楽しいおモフの夢を見ているようだった。そんな中、やけに大きな足音が階段からムツキの部屋へと近付いてくる。
「大変ニャ! ご主人、起きてほしいニャ! ケガをしている獣人と半獣人がいるニャ!」
ケットがひどく慌てた様子で扉を開けて叫ぶ。ムツキはその音と声に飛び起きた。
「……っ! なんだって!」
ムツキは着替えずに部屋を出る。ケットがその後を追う。
「ちょっと傷が深いニャ。魔力も足りニャいニャ。ご主人にお願いしたいニャ」
「分かった!」
ムツキとケットが降りると、既にリビングのソファがどかされて、ベッドのマットレスが2つ運び込まれていた。ベッドのシーツには血が滲んでいる。
「ムッちゃん! 急いで!」
「旦那様!」
リゥパとナジュミネが慣れない治癒魔法で必死に対応していた。
「ありがとう、2人とも」
「ぐっ……かはっ……あんたが偏屈魔王か……」
白狐のコイハはそう呟く。彼女も黒狸のメイリも肌着姿で寝転がされていた。コイハは獣人で全身が白銀の体毛に覆われているが、人型らしいプロポーションをしており、身長も高い。メイリは半獣人で体毛が人族に近く肌も見える部分が多いが、手先、足先、耳、尻尾が動物に近い。人型のプロポーションは変わらず、身長は低い。
なお、何がとは言わないが、一番大きいのがメイリで、ナジュミネ、コイハ、リゥパの順で大きい。何がとは言わないが。
「大丈夫か? というか、久々に聞いたな……その単語……。まあ、そうらしい」
ムツキは傷の具合を見る。治癒魔法を使う場合、傷を治すイメージを持つ必要があり、患部をよく見なければならない。
「ぐうっ……頼む。俺よりメイリからやってくれ。こいつ、傷は深いし、魔力もギリギリまで使い切って、本当にヤバいんだ!」
コイハ自身、あまり変わらない大きな傷を負っているが、彼女はメイリを優先してほしいと懇願する。
「まあ、確かにな。だが、安心してくれ。ここでみすみす2人を亡くすことはしない。【ヒーリング】」
ムツキはメイリの傷口に右手を近づけて、治癒魔法を唱える。
「うっ……温かい……」
メイリは意識がはっきりしないものの、【ヒーリング】による温かさを感じて、言葉を小さくこぼす。
「メイリ! 意識が戻ったか……はぁ……はぁ……」
「それじゃ、これも追加だ」
ムツキは右手で【ヒーリング】を掛けつつ、左手をメイリの胸の辺りに近付けて魔力の供給を行う。
「……なにっ! まさか、治癒魔法を掛けながら、別に魔力を直接供給しているのか? 半獣人とはいえ、ほぼ1人分の魔力を供給できるのか?」
「そうだ。緊急なんだから、ごり押しに決まっているだろ。俺の魔力量を舐めてもらっちゃ困る。君の分ももちろんあるから心配するな」
ムツキはコイハに向かって、笑みを浮かべる。
「はぁ……はぁ……魔力溜め込みすぎだろ……いったいぜんたい、どんな身体をしてりゃ、人族なのにそうなれるんだ?」
「俺は特殊なんだ。ただの人族とは考え方も違う。モフモフは必ず守る!」
急にモフモフのワードを使ったので、ムツキ以外の全員が目を点にしている。
「……は?」
コイハは目を見開き、ムツキの言葉の意味を考える。しかし、彼女には訳が分からなかった。
「ご主人、いきニャり、明後日の方向に話を持っていったら、訳が分からニャいニャ……この白狐も困惑しているニャ」
ケットはムツキをそう嗜めるが、ムツキは首を横に振った。
「いや、モフモフは重要だろ」
「ダメニャ……目の前の獣人と半獣人に興奮してるニャ……」
「ムッちゃん……」
「旦那様……」
「ごめん……でも、大事だろ……」
思わずリゥパもナジュミネも呆れた様子でムツキを見やる。今はまだ呑気なことを言っている状況ではないが、彼は至って真面目に答えているようだった。あまりにも真剣な彼のまなざしと言葉に、どこかで皆の度が超えてしまったのか、変な笑いまで起きてしまった。