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季節は巡り、郁斗と詩歌が新居で生活するようになって、半年という時間が過ぎた。
PURE PLACEで働き始めた詩歌はつい最近店ではナンバー2になり、ナンバー1の樹奈と共に店を盛り上げていた。
店としても市来組としても売り上げが伸びる事は喜ばしいものなのだけど、その事に浮かない顔をした人物が二人程いた。
一人は言わなくても察しがつくであろう詩歌の事が大好きな郁斗と、もう一人は市来組若頭で普段は何事もにも動じないと言われている恭輔だった。
何故恭輔が浮かない顔をするのか、それは――樹奈が恭輔の愛する人だからだ。
迅の件で恭輔に助けられた樹奈は、身を呈して助けてくれた彼に惚れ、いつしか二人は周りに内緒で付き合い始めていた。
これまで浮いた話の無かった恭輔の交際話は知られたその日から、郁斗たちは勿論、各方面からの反応もなかなかのものだった。
そんな事もあって、樹奈は詩歌にとって良き相談相手でもあり、姉のように慕う存在となり、今では仕事でもプライベートでも仲が良く暇さえあれば常に一緒に居るので、郁斗や恭輔は少しだけ複雑な感情を抱いていたりする。
けれどつい先日樹奈が妊娠している事が分かり、それを機にPURE PLACEを辞める事になってしまったのもあり、詩歌は少しだけ落ち込んでいた。
「恭輔さんがデキ婚とか、想像もしなかったよなぁ」
「そうなんですか?」
「ああ、だってあの人、女に興味無いって感じだったからさ、結婚はしないのかとみんな思ってたよ。するにしても、組の為の結婚で、愛は無いと思ったね」
「樹奈さんの存在が、恭輔さんを変えたんですね」
「そうだろうね」
仕事終わり、親しい関係者のみで樹奈と恭輔の婚約祝いをPURE PLACEで行い、それを終えて帰宅した郁斗と詩歌はお風呂を済ませ、ソファーに座って話をする。
「樹奈も辞めるし、詩歌ちゃんは、これからどうするの? 今度はナンバー1を目指すつもり?」
「……そうですね、それも良いかも」
郁斗の何気無い問い掛けに頷く詩歌。
それを聞いた郁斗の表情は心底面白く無さそうで、
「へぇ? そういう事言うんだ?」
少しいじけたように不機嫌さを滲ませる。
そんな彼を見た詩歌は郁斗の子供っぽい反応に思わず笑みを浮かべ、
「嘘ですよ。私、別に順位に拘りはありません。皆さんの役に立てれば良いんです。だけど、郁斗さんはやっぱり、私が働き続ける事は、嫌ですか?」
逆に質問を返してみる。