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事実とは無関係で全て妄想で幻覚です。
二人の共同生活はまた違うところで話すとして、二年間の休止期間を経てフェーズ2が開幕した。今では、大きく、それこそ自分たちでも驚くほどの成長ができたことが嬉しく、ふと感慨に耽ってしまった。
あの軋轢も、現状に至るまでの必要要素だったんだろう。涼ちゃんと若井の関係も超絶良好、喜ばしい限りだ。もちろん俺と涼ちゃんの関係も、それはそれは深まりました。
まぁそれは本当に嬉しいんだけど、それはそれとして。
「涼ちゃん」
「うん? どうかした?」
ソファで若井と並んで適当な雑誌を読んでいた涼ちゃんに声を掛ける。
少し離れた席から二人を眺めていたけれど、立ち上がって涼ちゃんと若井の前に腕を組んで立つ。
ほわほわと返事をした涼ちゃんにムッとして眉間に皺を寄せて目を細めると、異変を察知した若井がどした元貴、と不安げに声を上げた。
「どうかした? じゃないんですよ藤澤さん。ちょっとそこに正座してください」
「え、急に説教? 何した涼ちゃん」
「へ!? なんも……なんもしてない? え、してないよね!?」
「いや知らんよ!」
わたわたと慌てる涼ちゃんと、そんな涼ちゃんにつられてあたふたする若井。笑いそうになるのをどうにか堪える。
大事な話があるのは本当だから、真面目な表情を取り繕う。
「はーやーくー」
「えぇ……」
俺の催促に戸惑いながらもソファの上でちょこんと正座する涼ちゃん。こうしているとすごく小さく見える。あんなにも俺のことも若井のことも包み込んでくれるのに。
寄り添うように涼ちゃんの腕を掴む若井に視線を向ける。それだけで俺が怒っていないことを察した若井が、少しだけ肩の力を抜いた。幼馴染って便利だァ。
涼ちゃんは何かをやらかした記憶はないだろうから、俺に何を言われるのかが全く予想がつかないせいで不安げに眉が下がっている。日常の些細なことはともかくとして、涼ちゃんは何だかんだしっかりしているからね。
何を言われるのかと怯えているのはちょっと可哀想、だけどそれ以上に可愛い。でも、ちゃんと伝えないと。
すぅ、とひとつ息を吸って、囁くように、言葉を落とす。
「……どうして自分を省くの?」
「……? なんのこと?」
「『BFF』」
「は?」
「全部、若井だと思ったって?」
「あ……」
言葉の意味を理解したのだろう、少しだけ気まずそうに涼ちゃんは目を逸らした。こっち見て、と涼ちゃんの膝に乗り、両手でふにふにの頬を包み込んだ。
俺が離席を頼み二人がなんの疑いも反論もなく部屋を出た、というのは世間様によく知られているようで、映画で共演したアイドルにもイジられた。俺のいない場所で交わされた涼ちゃんと若井の会話も同様に広く知られているようだ。
それを見るより先にこの話を若井から聞いたとき、なんでだよ! と叫んで頭を抱えた。若井が言うように、そんなわけがないのに。若井と藤澤の二人のことだけを考えて作ったと、宣言できるのに、肝心の本人に伝わっていないとは思いもしなかった。
「あーあー、かなしいなぁ、俺の愛はこれっっっっっっっぽちも伝わってなかったわけだ?」
涼ちゃんの人嫌いは、ネタ? ノリ? の部分もあるけれど本質は愛したがりで愛されたがりが故の防衛機制だ。愛したがるのは愛して欲しいから。どこまでもやさしいのは、世界がそうであって欲しいから。
自己卑下の多くは「そんなことない」なんて慰めを求めた上での発言だけれど、涼ちゃんは違う。
本当に、自分には何もないと思っているんだ。あんなにも、たくさんのものを持っているのに。
こればっかりはまじで根が深い。
「も、もひょき」
「確かに若井のことは心配してるよ、こんな見た目してんのに泣き虫だし赤ちゃんだし」
「泣き虫は涼ちゃんだろぉがっ。てかただの悪口じゃんかよ」
「うるさい若井」
「ひどくない?」
「うるさいってだから……ねぇ涼ちゃん、どうしたら信じられる? “愛している僕がいる”こと、どうやったら分かってくれる?」
「……っ」
わざと歌詞をなぞって伝える。息を呑んだ涼ちゃんの目が次第に水分を帯びていく。
――元貴すごいよ! あの音も詩も歌声も、元貴にしか生み出せない世界だよ。……僕を元貴の世界をつくる一部にしてくれてありがとう――
いつだって音源を送ればそう言っておだやかに嬉しそうに笑う。
まるで自分の代わりはいるのだと言うように。何も持っていない自分を選んでくれてありがとうと言うように。無価値なものに価値を与えてくれてありがとうと言うように。
だけどね、涼ちゃん。どうか知っていて欲しい。
俺は、俺の持てる全ての言葉と音楽で伝えるから。何度だって、きみに、愛を囁くから。
「俺の愛、信じられない?」
「そんなことっ!」
「なら知っていて。俺には、若井にも、Mrs.にも、涼ちゃんが必要だって。世間が、世界がなんと言おうと、涼ちゃんを愛してるって」
ぽろ、と涼ちゃんの目から涙がこぼれた。
「愛してるんだよ、ほんとうに……」
涼ちゃんの頭を抱き締める。ひぐ、ときれいとは言えない嗚咽をもらし、涼ちゃんのあったかい涙が服を濡らす。
「ぼ、ぼくも、すきぃ……っ、ごめ、ありが、とぉ……ッ」
子どもみたいに泣きながら、涼ちゃんが俺を抱き締める。縋り付くように、手を震わせながら。
不安になったら思い出してほしい。
“大森元貴”は“藤澤涼架”を構成する、そのすべてを“愛している”ってことを、どうか忘れないでほしい。
「元貴」
「今いいとこだから待ってろ若井」
「いやお前ばっかずるいからな!?」
「はいはいうるさい」
「おっまえな! 涼ちゃん、りょうちゃーん? 俺も大好きだからね!」
仲間外れにしているつもりはないし、涼ちゃんと同じくらい若井のことも愛しているから、仕方ないなと涼ちゃんの膝から下りて隣に腰掛ける。即座に涼ちゃんを抱き締める若井。
そこまで大きくないソファにぎゅむぎゅむで座る。落ち着く。
「僕も、好き」
「ははッ、かーわい」
涙をこぼしながらへにゃと笑った涼ちゃんの頰を舐めるように口付けた若井に、おいこらと声を出す。はんっと笑って自分のものと言わんばかりに抱き寄せやがって……。
「ずっと一緒だからね」
これは決定事項で、覆しようのない誓いだ。
おわり。
ひたすら『BFF』を聴きながら泣きながら書きました。
入れられなかった情動もありますが、それはまた違う話で昇華します。
若井さんを岩井さんって何度書きそうになったか……。