「失礼します!」
青木が室長室に入ってくる。いつもよりもさらに機嫌が良さそうに見える。
「…なんだ、にやにやして」
薪は気味が悪そうに眉をひそめた。
「はい、これ薪さんに!」
「…これは?」
青木は薪にリボンが巻かれた小さい箱を渡した。薪は誕生日ではないが、と少し困惑していた。
「ホワイトデーなので!」
そう、今日はホワイトデーなのだ。でも僕はあげていないが、と薪は思った。
「なぜ僕に」
「バレンタインの時コーヒーとチョコレート差し入れて下さったので」
薪は思い出した。バレンタインの日薪は青木が捜査でこん詰めていたように見えたのでたまには、と思い小さいチョコレートとコーヒーを差し入れただけなのだ。でもあれはバレンタインだから、といって渡した訳では無い。そもそも男で渡すやつあまりいないし、と薪は思っていた。
「あと、日頃の感謝ということで」
青木は人が良さそうに笑った。薪は予想外の出来事にやや驚いていたが、青木が自分の事を思っていた買ってきてくれたのだと思うと頬が緩んだ。
「ありがとう 青木」
薪は微笑んだ。
「いえ!でも、薪さん甘いものそんなに得意ではないと聞いたので少しにしましたけど…」
と青木が言うので薪は中身が気になり、箱のリボンを解いた。開けてみると、中には綺麗なキャンディがいくつか入っていた。
「…綺麗だな」
「そうなんです!そのキャンディ見た時綺麗で一目惚れして」
そういえばホワイトデーのお返しにも意味があるんだっけ、と薪は思った。キャンディはなんだ?と不思議に思ったが、青木はきっと意味など考えていないだろう、とも思った。
「…」
すると薪は少し考え込んだあと、ん、と青木に綺麗な丸いキャンディーを手渡した。青木は不思議に思っていると、薪はおまえが食べさせろ、というように少し口を開いた。
「えっ」
青木は予想外の薪の行動に少し困惑していた。そしてふと薪の手元を見てみると少し汚れた軍手をはめているのが見えた。さきほど室長室を掃除していたようで、軍手をはめていたらしい。取るのが面倒くさいからからなのか青木に頼んだように見えた。だが薪がこんなことを頼むということは非常に珍しく、明日世界が爆発でもするのか?と青木は思っていた。
「…しょうがないですねー」
と青木は少し照れたように顔をしかめていた。そして青木は先程渡されたキャンディを薪の口に運んだ。その時に少し指が薪の唇に触れ、青木は内心ドキドキしていた。そうしてキャンディが口の中に入り、カラ、と音がした。
「…甘い」
薪らしい感想だった。青木は思わず ふ、と笑った。
「たまにはいいでしょう? 糖分は心を癒してくれますよ」
と青木はにこにこしながら言った。すると薪ははめていた軍手を外した。そして 青木、と呼んだ。
「はい」
と青木が返事をすると、薪は青木の唇にキャンディをあてた。
「口開けろ」
「え?は…」
はい、と言いたかったが は、のところで薪はキャンディを青木の口に入れたので言えなかった。キャンディの味はサイダーで、いつもより甘く感じた。
「…美味しいれす」
青木はキャンディを入れていたので変な言葉になった。薪はそんな青木を見て ふ、と笑った。青木は この人はずるいな、と思っていた。さっきだって軍手を外せば自分で食べれたのに。
そして青木は来年もホワイトデーに何か上げよう、と心に誓った。
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