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放浪者は、煽ったりバカにするけど、 それも照れ隠しだったり、人を守ったりするんだよね それに、笠っちはナヒーダの前では嫌とか言ってるけど、 ナヒーダがいない時、いたって普通の名前だろ、でキュンとした! お疲れ様です!
「これを…僕に?」
ええ、とクラクサナリデビが頷いた。
その手には可憐な花が握られており、ふわりと甘い香りがする。
甘いもの等は嫌いだが、花の匂いは嫌いじゃない。
そんなことよりクラクサナリデビからスラサタンナ聖処に呼び出された理由が、花を渡すだけだと言うのに、驚いたというか、
本当にそれで良いのか知恵の神
「人は、親しい人には花を贈ると聞いたの。受け取ってくれるかしら?」
クラクサナリデビがにこりと笑って、僕の手にその花を握らせた。
微笑んだクラクサナリデビの笑顔がやけに眩く思えた。
にこにこと陽の雰囲気を纏わせている草神とは対照に、人形の脳裏に影が漂う。
(…眩しいな。)
その笑顔が、優しさが
慈悲深い神様は、あんな事されても優しくするんだ?
罪深い罪人は、その温かさでも焼き尽くされてしまいそうだ
気分は下がっていくはずなのに、口角が上がっていく。
そんな様子に気づいたのか、クラクサナリデビが口を開いた。
「笠っちくん?どうしたの?」
「…いや、なにも?というか、その呼び名は辞めろといったよね」
…握らされた手にろくに力を入れることもせず、とりあえず花が折れないよう懐に入れた。
この綺麗な花とて、いつかは枯れるのだから、丁重に摘まれたこの状態まま、できるだけ長く保ちたい。
きれいなものは、きれいなままでいい
「ふふ、良いじゃない。結構良い名前だと思うのだけれど」
「…はぁ、もういいよ、気が済むまで呼べば?君には借りがあるからね…」
まぁ、借りがあるのは本当だから許してあげよう。
笠っちという名前、正直センスが良いとは言えない。だってそのまんまじゃないか?たしかに苛つくときもあるけれども、そう呼ばれるのが嫌というわけでは…
いや、嫌だな。前言撤回
そんなことを考えていると、借りという言い方に引っかかったのか少し声のトーンを落としてクラクサナリデビが言った。
「あら、その言い方は関心しないわね。私は借りを作るためにあなたを生かしたわけでは───」
これは、かなり長いお説教になると理解し、適当な理由を並べここから逃げるように、クラクサナリデビに吐き捨てた。
「そんな湿気ったい話聞きたいわけじゃないんだけど?生憎、僕はこれから用事があるから、用がないならじゃあね」
「貴方って子は…、もう、…いってらっしゃい」
渋々、といった様子で出口に近付く僕を引き止めずにクラクサナリデビは手を振った。
いってらっしゃい。
なんて、まるでここが帰る場所だ。とでも言うような言い方だ。
まぁ、悪い気はしないけど
*
クラクサナリデビの視線を感じながらスラサタンナ聖処から出る。
数歩離れた先で立ち止まり、スラサタンナ聖処の扉が閉まるのを見て、ぼそりと呟いた。
「…行ってきます」
そう言うと心做しか、じんわりと胸の内が温かくなるような感じがした。
そんな弱々しい自分を自覚して違うことを考える。
先程貰った花を懐から取り出し、この花をどうするべきか考えるため、また少し移動して高い位置から飛び降りた。
だけれどもこんなこと相談できる相手も居ないから、とりあえず、スメールシティを歩いていると、学院の制服を着た人間共が「寒い」と言い合っているのが聞こえた。
そういえば、もう、冬の時期だ。
スラサタンナ聖処の中とは全く持って違う肌寒い風が吹いていた。
寒いはずだけど、今は寒くはない。
右手で持った花を見ながら、くるくると回していじる。
「…人形には、寒さを温かさに変換する機能でも備わっているのかな」
ふは、と嘲笑するように笑った。だって僕の顔が緩んでることに気付いたから。
あぁ、なんて甘ったるい。
ずっとあんなひだまりのような優しさに触れていたら、今度こそ縋ってしまいそうだ。
立ち止まっていた足を動かして、人混みから花を守るようにして歩き出した。
また僕は、放浪する。
帰る場所ができても、きっと僕は放浪し続ける。今度こそ自由を満喫するのだ。
いつか、この身体が朽ちるそのときまで。