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stpr 緑赤 様
誤字脱字注意
日本語おかしい
最終話 ゆうさん
待ち合わせの日。
こえは、約束の時間より二十分も早く着いていた。
「……早すぎた」
駅前のベンチに座りながら、スマートフォンを見る。
何度も時間を確認する。
あと十五分。
あと十四分。
あと十三分。
「……落ち着かない」
先日のことを思い出す。
『僕、ゆうさんのことが好きです』
言ってしまった。
今思い返しても恥ずかしい。
けれど。
後悔はしていなかった。
ただ。
今日、ゆうが何を言うのか。
それだけが怖かった。
「……振られたら、どうしよう」
ぽつりと呟く。
胸がぎゅっとなる。
そのとき。
「こえくん」
「……!」
顔を上げる。
ゆうが立っていた。
「早いね」
「……ゆうさんも」
「ゆうさんも早く来ちゃった」
いつもの優しい笑顔。
それだけで、こえは少し安心した。
「……今日は」
「うん」
「話したいことがあるんですよね」
「うん」
ゆうは頷いた。
「少し歩こうか」
「はい」
二人は並んで歩き始めた。
*
静かな公園。
人の少ないベンチに座る。
しばらく。
二人とも何も言わなかった。
風が木の葉を揺らす音だけが聞こえる。
やがて。
「こえくん」
「はい」
ゆうが口を開いた。
「この前、言ってくれたこと」
「……はい」
「ずっと考えてた」
こえの指先が震える。
「ゆうさんはね」
ゆうはゆっくり言葉を選んだ。
「最初は、こえくんのことを昔の教え子だと思ってた」
「……」
「久しぶりに会えて嬉しい。大きくなったなって。元気そうでよかったって」
こえは黙って聞いている。
「だから、自分の中にある気持ちを、ずっとそういうものだと思ってた」
「……はい」
「でも」
ゆうはこえを見る。
「こえくんと会えない日が続くと、会いたいと思うようになった」
こえが顔を上げる。
「連絡が来ると嬉しい」
「……」
「他の人と楽しそうにしていると、少し寂しいと思う」
「……ゆうさん」
「こえくんが笑っていると、もっと笑わせたいと思う」
ゆうは小さく息を吐いた。
「それが何なのか、ずっと考えてた」
そして。
「たぶん」
一度、目を閉じる。
「ゆうさんは、こえくんのことが好きなんだと思う」
「……!」
こえの目が大きくなる。
「本当に……?」
「うん」
「昔の教え子だからじゃなくて?」
「違う」
ゆうは首を横に振った。
「今のこえくんを見て、好きになった」
こえの目から。
涙が落ちた。
「……っ」
「こえくん?」
「ご、ごめんなさい」
慌てて涙を拭う。
「嬉しくて……」
「泣かないで」
「無理です……」
ゆうが困ったように笑った。
「昔から泣き虫だね」
「……また子ども扱いする」
「ごめん」
そう言いながら。
ゆうは少しだけ手を伸ばした。
そして。
こえの頭に、そっと手を置く。
昔と同じように。
優しく撫でる。
「……」
こえは動かなかった。
懐かしい。
あの頃と同じ。
でも。
今は違う。
自分はもう、あの頃の小さな子どもではない。
だから。
「……ゆうさん」
「ん?」
「もう、先生じゃなくていいです」
「……」
「僕のこと、こえくんって呼んでくれていいから」
「それは昔から呼んでるよ」
「そうじゃなくて……」
こえは少し恥ずかしそうに笑った。
「先生としてじゃなくて」
ゆうを見つめる。
「一人の男として、見てほしいです」
ゆうは静かに笑った。
「分かった」
「……本当に?」
「うん」
そして。
「ゆうさんも、もうこえくんのことを『昔の教え子』として見ないようにする」
「……」
「ちゃんと、今のこえくんを見る」
こえの目から、また涙が落ちる。
「……好き」
今度は。
迷わず言えた。
「ゆうさんが好きです」
「うん」
「ずっと好きだったみたいです」
「……うん」
「昔も、今も」
ゆうは少し笑った。
「そっか」
「……笑わないでください」
「笑ってないよ」
「笑ってます」
「嬉しいんだよ」
ゆうの手が、こえの頬に触れる。
涙を指先で拭う。
「こえくん」
「……はい」
「これからも、ゆうさんと一緒にいてくれる?」
「……!」
こえは何度も頷いた。
「はい」
ゆうも笑った。
「じゃあ」
少しだけ照れたように。
「これからよろしくね」
「……こちらこそ」
*
その帰り道。
二人はゆっくり歩いていた。
付き合うことになった。
それだけなのに。
さっきまでと景色が違って見える。
「……なんか変な感じです」
「何が?」
「ゆうさんと付き合ってるって」
「ゆうさんも」
「……本当に恋人なんですよね?」
「うん」
ゆうが笑う。
「恋人」
その言葉だけで。
こえの顔が真っ赤になる。
「……恥ずかしい」
「こえくん、顔赤いよ」
「ゆうさんだって」
「ゆうさん?」
「ちょっと赤いです」
「……そう?」
二人で笑う。
駅に着いた。
けれど。
こえは足を止めた。
「……ゆうさん」
「ん?」
「もう少し、一緒にいたい」
ゆうは少し驚いたあと。
優しく笑った。
「うん」
「……」
「じゃあ、もう少し歩こうか」
「はい」
二人は駅を通り過ぎた。
*
その夜。
こえは自分の部屋で、昔の記憶を思い出していた。
小さな自分。
ゆうせんせーの後ろに隠れていた。
『せんせー』
『どうしたの?』
『だいすき』
昔の自分は。
ただ、優しい先生が好きだった。
でも。
今の自分は違う。
優しいだけじゃない。
自分のことを大切にしてくれるところ。
穏やかなところ。
笑った顔。
少し困った顔。
全部。
「……好き」
今度は。
昔の自分じゃない。
今の自分が。
自分自身の気持ちとして言えた。
スマートフォンが震える。
『今日はありがとう』
ゆうからだった。
こえは笑う。
『こちらこそ』
少し考えて。
『……ゆうさん』
『ん?』
『大好きです』
送信。
数秒後。
『ゆうさんも大好きだよ』
「……っ」
こえは枕に顔を埋めた。
「恥ずかしい……」
でも。
嬉しかった。
*
それから、二人は少しずつ恋人らしくなっていった。
休みの日には一緒に出かける。
仕事帰りのゆうと待ち合わせて、夜ご飯を食べる。
こえが大学の話をして。
ゆうが保育園であった出来事を話す。
くだらないことで笑う。
時々、手を繋ぐ。
そのたびに。
こえは照れて。
ゆうは嬉しそうに笑った。
ある日の帰り道。
ゆうがふと、こえの手を握る。
「……こえくん」
「はい?」
「昔も、こうやって手を繋いだことあったね」
「……覚えてるんですか?」
「覚えてるよ」
「僕は……」
こえは少し笑った。
「忘れてました」
「そっか」
「でも」
「うん?」
「今は覚えてます」
繋いだ手を握り返す。
「今のことは、絶対忘れないです」
ゆうは目を細めた。
「ゆうさんも」
二人は並んで歩く。
昔。
小さなこえが追いかけていた背中。
その背中は。
今では隣にある。
もう、追いかけなくてもいい。
手を伸ばせば。
ちゃんと繋げる距離にいる。
「……ゆうさん」
「ん?」
「好きです」
「ゆうさんも」
何度言っても。
まだ少し照れる。
けれど。
そのたびに。
胸が暖かくなる。
忘れていた初恋は。
もう一度、恋になった。
今度は。
先生と園児ではなく。
一人の大人同士として。
そして二人は。
これからも、隣で歩いていく。
――おわり。
実は完結後の2人を描いた未来編を一話だけ書いています!
作品全体で3000いいね達成したら公開する予定です…!
本編のその後の甘々な2人を、ぜひお楽しみに♪
#VOISING
@りのまる🐈⬛
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