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ようつべから来ました。 最高です
「こんちわっす!先輩」
耳にさらりと通っていく声
彼女が私の家に来たのは
放課後、一緒に買い物に行かないかと、誘ってくれたからだろう
「うん」
こちらからの挨拶を待っているのだろう
少しの沈黙が流れる
「えっ。それだけっすか?
今日はもう少しマシな返事を貰えると期待して挨拶したんすけど…
もしかして…さっきまで寝てたんすか?」
まだ寝起きでしたか と少しブスッとした顔で、そう呟く。
「ごめん」
「先輩は無愛想ですね。それだから恋人居ないんですよ」
その言葉に思わず眉毛を寄せてしまう
否定出来ない事なんて、私が一番分かっているから…
「あっ、図星っすか?すみません!
私もそうなんですけどね…」
意地悪そうなその表情に、少しだけ殴りたいと思ってしまった
寂しそうな顔に変わらなかったら、勢い余って殴ってしまう所だったかもしれない
今度こそ友達が居なくなってしまう所だった。
商店街の方に向かって彼女と平行に歩いていく
先程より長い沈黙
自分たちの足音だけが聞こえる
「先輩って、話続けるの…苦手なんすか?」
「え…。まぁ…人と話すのは、ね」
上手く自分の意見を言えないから
会話に入ろうとするだけで、周囲の人達のの気分が悪くなる
家族だって、友達だった人にも言われた
「空気読めないの」
って。
…そんなの自分が一番分かってる
空気、読もうと努力した事だってある
人に積極的に話しかけたこともあった
無駄だったんだもん。諦めるよね。そりゃさ
唯ならぬ雰囲気を感じたのか、彼女が口を開く
「先輩…すみませんっす…変な事言っちゃったっすよね…」
申し訳なさそうにこちらの様子を伺ってくる。
「えっ、いや
全然、大丈夫…だよ。気にしてないから…!」
思わず心にも無いことを言ってしまう
「そ…すか…ね…?
なら…大丈夫…、なんすけど…⁇」
更に気を使わせてしまった気がする
「そ、それより…最近、商店街の方にある…クレープ屋さん…あるじゃない…っすか!」
徐に話題を変える彼女に、私は戸惑いつつも頷く
「…そこで、新しいクレープの、種類が…追加されてたんっすよ!
旬の果物、が…メインのクレープだったぁ…かな?」
「季節限定なんだね」
「そ、そっす!あの…、だ、だから…」
恐らく、一緒に食べに行こうと誘ってくれるのだろうか。
それだったら、嬉しいのだけど。
「…一緒に食べませんっすか…?
…あ、ぁの、オレが奢るっすから…!」
「いいの。私なんかが、奢ってもらっちゃって…」
先輩だとはいえ…後輩に奢って貰うのは少し情けない。
「あっ、の…そのー、あれです!バレンタインのお返しっすよ!だから…奢らせてくださいっす!」
奢らさせてくれとお願いされるのも珍妙なものだな、と思いつつ
「お返しなんていいのに…でも、まぁ…お言葉に甘えて…よろしくね」
彼女の安堵した様な表情に、胸の奥が妙にざわつく
今までに経験した事が無い様な…それでいて何処か魅力の感じる…?
「あっ」
顔に風を感じると思ったら、
いつの間にか彼女に手を引かれていた
自分でも分かる
私、今絶対顔赤い
「先輩!早く行かないと売り切れるかもっす…!」
その大袈裟な態度に破顔してしまう
「大袈裟な…それに、他にもクレープもあるんだから、私は…売り切れても、大丈夫…だよ」
「先輩がそう言うなら」と言い、速度を落として彼女の方から手を離す
離れてしまうのが少し切なかった、その手をしばし見つめる
「手離さないほうがよかったっすか?
な〜んて…冗談っすよ…嫌っすよね、すみませんっす!」
「嫌な訳ないから…大丈夫。寧ろ嬉しかったよ」
彼女が呆気に取られているのを見て、私は今この言葉を発したことを後悔した
「ご、こめん…気にしないで。」
「…せ、先輩、言っても、い、いいですか!」
彼女がそう私に問いかける
「いい…よ?」
彼女が何を言うのか知らずに許可してしまった私は馬鹿だと思う
「あ、の…あのあの…オレ…オレっす…ね…
先輩のことが…好き…好きなんっす…」
好き
好き…?
「それは…どういう…
「あっ、ちが、違うっす!その…あれっすよ…れれれ恋愛感情の方っす…!あのっ、ひか、引かないで…くださいっす…」
早口で捲し立てられ、今度は私が呆気に取られた
顔をいつの間にかに真っ赤にさせた彼女は、こちらの返事を待っている
そんな事言われたら…私だって、顔が熱くなってきたじゃないか
「それは…ええと…付き合ってと…いう意味…なの?」
蒸気でも出そうな程、彼女は顔を赤くさせている
こちらにまで熱が伝わってくる
「…でも…先輩が…その気じゃないなら…」
彼女の瞳が徐々に潤む
「えっ、いや、全然大丈夫だけど!
大丈夫だよ…私なんかでいいの。」
彼女の周りには沢山友達が居る
女子校だからこそ、そういう思考の人も居ないとは限らない
それでも、それでも…私なんかで…いいのかな
まさに豚に真珠だろう
私より他の人の方が遥かに魅力があるに違いない
なんで…私なんか…を…?
「…先輩、またネガティブな事考えてるっすよね…?
い、言います…っすけど!
他の…擦り寄ってくる人達なんかより…
オレは、先輩の方が好きなんっす…!
…それで…告白…は、いいっ…んっすよね?」
告白をすんなり了承してしまったけれど、それは私の本心
…知らず知らずのうちに私は彼女に恋心を抱いていたんだろう…
「うん。いいんだよ。全然」
顔全体の赤が頬に集中していく
それから安堵した様な満面の笑みでこう言う
「にしし…意外と言ってみるとすっきりするっすね…
言ってよかったっす…!
…早くクレープ、食べにいくっすよ!」
まだ冷め切っていない熱を顔にのせて、私は彼女と商店街に走り出した