目が覚めると、白い天井が視界に広がっていた。重たいまぶたを開けると、人工的な照明の光が目に刺さり、瞬時に顔をしかめた。頭がぼんやりと重く、まるで水の中で浮いているような気分だ。何が起こったのか覚えていないが、どうやら病院のようだ。周囲の静けさと消毒液の匂いがそれを示していた。
右手を動かそうとした時、何かが違った。手の感触が、自分の記憶にあるものと明らかに違う。小さくて、柔らかい。視線を下に向けると、シーツの上からのぞく細い指が目に入った。その指先を見つめるうちに、背筋に冷たいものが走った。これは、俺の手じゃない。
慌てて体を起こすと、胸に柔らかい重みを感じた。その感触に一瞬固まり、恐る恐るシーツをめくった。そこには、自分の記憶には存在しない膨らみがあった。息が詰まるような感覚と共に、俺はその事実を飲み込もうとしたが、頭は混乱してまともに考えられない。胸元に手を当ててみると、ふわりとした感触が指先に伝わってきた。それは確かに、女性のものだった。
動揺しながらベッドから降り、足元を見下ろすと、細くて華奢な足首が見えた。自分の足とは到底思えないその細さに目を奪われつつ、俺はふらつきながら洗面所に向かった。どうしても自分の顔を確認しなければならないという衝動に駆られていた。
洗面所の鏡の前に立つと、そこに映ったのは見知らぬ女性の顔だった。長い髪が肩にかかり、少し大きめの瞳がこちらを見返している。俺はその顔を見つめ、震える手で頬に触れた。柔らかい肌の感触に胸がざわつく。これは夢なのか、それとも現実なのか。そう考えても、冷たい鏡の感触が現実であることを告げていた。
「これが、俺…?」
声を出してみると、それもまた高く澄んだ女性の声だった。その声に自分自身が反応し、思わず口を塞ぐ。胸の奥からこみ上げる動揺と羞恥が、全身を駆け巡る。思わず鏡から目をそらし、壁にもたれかかった。体全体から感じる違和感は消えず、細い肩や胸の重み、そして何より女性特有の体から発せられる微かな汗の匂いが俺を取り囲んでいた。
再びベッドに戻り、布団を被りながら俺は目を閉じた。この身体の感覚はどうしても馴染むことがなく、胸の鼓動は速いままだ。細い指先を見つめる度に、自分が自分でないような気がしてならない。そして、この女性の体の中で感じる自分の存在が、何とも言えない不安と恥ずかしさを呼び起こす。
俺はただ、戻りたいと心から願った。この違和感と戸惑いから逃れ、自分の体に戻りたいと。しかし、目の前の現実は厳然として存在し、俺を包み込んでいた。