テラーノベル
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「はぁ〜……やっぱ休日のクレープは五臓六腑に染み渡るぜ……」
貴重な非番の日。
俺(日比野カフカ)は、都内の大型ゲームセンターの前で、チョコバナナクレープを頬張りながら平和な午後を満喫していた。
毎日毎日、泥と血と怪獣の体液にまみれる日々。たまにはこういう糖分補給とオタク活動がないと、おじさんの身がもたない。
「さて、次はどの台で遊ぶか——」
俺がゲーセンの自動ドアをくぐろうとした、その時。
店内から、スピーカーの爆音を掻き消すほどの凄まじい怒声が響き渡った。
「ッッッざけんなテメェ!! 今の絶対当たり判定おかしかっただろ!! ガード間に合ってたっつーの!!」
「はっはっは、素人みたいな言い訳ですやん。アンタの指の動きが鈍いだけちゃいます? ほら、もうワンコイン….」かちゃ
「望むところだ!」
(……ん?)
俺はクレープを咥えたまま、ピタリと動きを止めた。
聞き間違えるはずもない。防衛隊のトップオブトップ、俺が最も恐れる(色んな意味で)二人の声だ。
恐る恐る店内を覗き込むと、対戦型格闘ゲーム機の前で、すさまじい殺気を放つ二人の男が座っていた。
一人は、ダボダボのパーカーのフードを目深に被り、コントローラーをぶっ壊さんばかりの勢いでガチャガチャと操作している第1部隊・鳴海弦隊長。
もう一人は、黒のタートルネックという小綺麗で動きやすそうな格好で、ニヤニヤと糸目を細めながらレバーを弾いている第3部隊・保科宗四郎副隊長。
周囲の客は、二人から漏れ出るガチの殺気にドン引きして、完全に遠巻きのギャラリーと化している。
鳴海「チッ……! コソコソ逃げ回りやがって! 正面から殴り合えやノミダニ!!」
保科「格ゲーは『間合いの管理』が全てですよ。猪突猛進に突っ込んでくるだけの単細胞には一生分からん美学ですわ」
画面の中では、大剣を持ったキャラ(鳴海操作)が豪快に空振りを連発し、双剣を持ったキャラ(保科操作)が削りダメージを与え続けている。
(……やってること、現実の戦闘と完全に同じじゃねぇか!!)
俺が心の中で全力でツッコミを入れた瞬間。
画面にデカデカと『K.O.』の文字が浮かび上がり、鳴海隊長のキャラが地面に崩れ落ちた。
「——あ゛ぁぁぁぁぁクソッッ!!」
ガンッ!!
鳴海隊長がゲーム機を蹴り飛ばしそうになり、すんでのところで思いとどまる(出禁になるから)。
保科「いや〜、ご馳走様です。これで僕の15勝14敗。次で決着つけましょか、鳴海隊長?」
鳴海「上等だ!! テメェのその薄ら笑い、ゲームごと完膚なきまでに叩き潰してやる!!」
二人が再び100円玉を投入しようとした、まさにその時。
——ウゥゥゥゥン!!
『緊急警報。緊急警報。付近に翼竜型の余獣(推定フォルティチュード4.5)が飛来。市民は直ちに地下シェルターへ——』
ゲーセンのBGMを切り裂いて、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
同時に、外の通りから「キャアアアッ!」という悲鳴と、車のクラッシュ音が聞こえてくる。
「「…………」」
二人の動きがピタリと止まった。
鳴海「……おい」
保科「……なんですか」
鳴海「今、最高のコンボ思いついたとこだったんだぞ。……誰の許可得て、ボクの休日のゲーム邪魔してんだ、あのクソトカゲ」
保科「……奇遇ですねぇ。僕も今、アンタを完全にハメ殺す最高のルート見つけたとこやったのに」
二人が、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
私服姿。武器も、スーツもない。
だが、その背中から立ち昇るオーラは、さっきまでの「治安の悪いゲーマー」のものではない。
「日本最強」の、ガチの殺意だ。
カフカ「た、隊長! 副隊長!! スーツも武器もねぇのに、まさか……!」
俺が止めに入ろうとしたが、遅かった。
二人はゲーセンの自動ドアを蹴破るような勢いで表通りへと飛び出していった。
表の交差点には、体長10メートルほどの翼竜型の怪獣が降り立ち、車を次々と薙ぎ払っているところだった。
怪獣「ギャァァァッ!!」
怪獣が二人に向かって咆哮を上げる。
だが。
鳴海「——うるせぇッ!!」
鳴海隊長が、近くに落ちていた折れ曲がった標識の太い鉄パイプを片手で軽々と引っこ抜いた。
そして、そのまま助走もつけずにコンクリートを砕きながら跳躍する。
鳴海「ボクの! 休日の!! 邪魔をすんじゃねぇぇぇ!!」
ドゴォォォォンッ!!
ただの鉄パイプを、大型の銃剣のように力任せに振り下ろす。
凄まじい膂力で叩きつけられた鉄パイプは、怪獣の硬い頭蓋骨を物理的にひしゃげさせた。
怪獣「ギャッ……!?」
保科「……大振りや言うてるでしょ。隙だらけや」
怪獣が鳴海隊長に気を取られた一瞬の隙。
保科副隊長は、さっきゲーセンのクレーンゲームで取ったばかりの可愛いウサギのぬいぐるみを左脇に大事に抱えたまま、残った右手一本で、スッと低い姿勢を取った。
手には、瓦礫の山から拾い上げたのは、鋭利な車フレームの破片。
保科「保科流討伐術——」
ヒュンッ!!
空気が鳴るよりも早く、保科副隊長の姿がブレた。
保科「『ただの鉄クズでの八つ裂き』」
ザシュザシュザシュザシュッ!!
怪獣の足の腱、翼の付け根、そして首の動脈。
たった一本の、しかもただの鉄クズで、怪獣の急所という急所が、芸術的なまでに切り刻まれた。
怪獣「ギ、ヂ……」
ドスゥゥゥゥン……!!
怪獣は、一歩も動くことなく、交差点のど真ん中で崩れ落ちた。
討伐時間、わずか5秒。
武器なし、スーツなし、私服での出来事だった。
「「…………」」
静まり返る交差点。
怪獣の返り血を一滴も浴びることなく、二人はため息をつきながら鉄パイプと鉄クズをポイッと捨てた。
保科「……あーあ。せっかくの休日が台無しですわ。ウサギちゃんが汚れんでよかったけど」
鳴海「チッ、準備運動にもなりゃしねぇ。……おいおかっぱ、さっきの続きだ。今すぐ席に戻れ」
保科「ええ? もう僕の勝ちでええんちゃいます? 今の討伐も、僕の方が的確に急所突いてましたし」
鳴海「あぁ!? ボクが頭部を潰さなきゃテメェなんか一発でミンチになってただろうが!!」
倒れた怪獣の死骸の前で、再び始まる小学生レベルの口喧嘩。
「……」
俺は、溶けかけのチョコバナナクレープを手に持ったまま、ただただ遠い目をしていた。
(……この人たち、ほんっとうに理不尽な強さしてんな……)
カフカ「あ、あのー……お二人とも。防衛隊の処理班が来るまで、現場保存しなきゃダメっすよ……?」
俺が恐る恐る声をかけると、二人は同時に振り返り、最高に治安の悪い顔で俺を指差した。
鳴海「おいおっさん! ちょうどいい、テメェここ見張っとけ!!」
保科「カフカ、悪いが頼んだで。僕らは決着(ゲーム)の続きがある」
「えぇぇぇっ!? 俺、非番なんですけど!?」
俺の悲痛な叫びを無視して、最強の二人は再びゲーセンの暗がりの中へと消えていった。
その後、俺が一人で怪獣の死骸と野次馬の対応に追われ、駆けつけたミナ隊長に(なぜか俺も一緒に)こってり絞られたのは、言うまでもない。
(おわり)
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