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日曜日の朝。
真理亜はスマホを握りしめたまま、ずっとベッドの中で天井を見つめていた。
(あの夜、透真くんに全部話してよかった。怖かったけど……)
彼が「守る」と言ってくれた言葉が、まだ胸の中にじんわりと残っている。
でも同時に、昨日の平良真子の顔が、何度も思い出されては胸を締めつけた。
(あの人も、好きだったんだよね……透真くんのこと)
好きだから、傷ついた。
好きだから、許せなかった。
恋って、こんなにも誰かを狂わせるのか――。
そんなことを考えていたとき、スマホが震えた。
《今日会えない? 11時、駅前。》
送り主は、櫻井透真。
「……行くしか、ないよね」
真理亜は飛び起き、支度を始めた。
鏡の前でいつもより少しだけ時間をかけて髪を整えながら、心の中で呟いた。
(“ごっこ”じゃなくて、本気の自分で向き合う――それが、今の私にできること)
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駅前のカフェ。
透真は、真理亜が来る前から席に座って待っていた。
それだけで、なぜか胸が少しあたたかくなる。
「待たせてごめん」
「……いや、俺も今来たとこ」
彼の表情は、いつもよりも真剣だった。
けれど怒っている様子はなくて、どこか優しさと決意が混ざった顔。
「話って……?」
「真理亜。俺、ひとつ謝らなきゃいけない」
「え?」
「お前が最初に“片想いごっこ”をしてたとき、俺は“遊び”だって思ってた。……でも、それじゃダメだった」
透真は深く息を吸い、言った。
「俺さ、いつからか本気になってた。お前のことを“好きにならない”なんて無理だった」
真理亜の瞳が揺れる。
耳の奥が熱くなっていく。
「……私も。ずっと、言えなかったけど、本当はずっと好きだった」
「だから、もう“ごっこ”はやめよう。――俺と、本当の恋をしないか?」
静かな店内に、二人の小さな世界だけが存在していた。
テーブルの下で、真理亜の手がそっと伸ばされ、透真の手を握る。
「うん……よろしくお願いします」
ふたりは、ようやく“演技”の仮面を脱ぎ捨てた。
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ところが。
その夜、学校のSNSアカウントにある動画が匿名で投稿された。
そこには、真理亜が山取聡と校舎裏で話している様子が、音声付きで映されていた。
《“俺が、全部壊してやるよ”――山取 聡》
そして、それを見た生徒たちの間で、新たな噂が流れ始めた。
「え、あの女、二股してたの?」
「透真くん、騙されたんじゃない?」
「山取くんの方が本命だったりして……」
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月曜日の朝。
登校した真理亜に向けられたのは、無数の視線とささやきだった。
ざわ…ざわ…
(うそ……また……?)
そして、透真の姿が校門に現れた瞬間――
周囲の空気がさらに騒がしくなる。
けれど彼は、真理亜の手をしっかりと取った。
まっすぐに、誰の目も気にせず、彼女を守るように。
「おはよう。行こうぜ、一緒に」
その言葉だけで、真理亜の涙腺は緩んだ。
(この人となら、どんな風に傷ついても、また笑える気がする)
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【片想いごっこノート】
・6月24日(月)
本気になった日
今日からは“片想い”じゃなくて“両想い”
でも、これからもっと大変なことが待っているのかもしれない
それでも、私はこの手を離さない
「嘘でも“ごっこ”でもない、ただの“好き”が、こんなにも強くなれるなんて」