テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ライブの余韻がまだ楽屋の空気に漂っていた。
メンバーたちはそれぞれ衣装を脱いだり、笑い合ったりしているが、次第にひとりふたりと帰っていく。
最後まで残っていたのは池崎理人と髙塚大夢だけだった。
「大夢、今日めっちゃよかったよ。ラストのソロ、痺れた」
理人は手に持ったタオルで額の汗をぬぐいながら、優しく声をかける。
大夢は照れくさそうにはにかむ。
「ありがとう…でもやっぱり緊張したよ。理人の低音が聴こえると、安心して歌えるけど」
理人はふっと笑って、横に座る大夢の背中にそっと手を置く。
「俺もさ、大夢の声が隣にあるから頑張れるんだよ。ライブ前、楽屋で大夢に『大丈夫』って言われたの思い出して、心が落ち着いた」
二人きりの静けさ。
外から微かに聞こえるファンたちの残り声が、現実の温度を教えてくれる。
「理人と歌えて、本当に良かった…」
大夢は小さな声でつぶやく。
その目に、ほんのり涙が浮かんでいた。
「泣かないの。汗で濡れてるだけだろ」
理人は優しく、指先で大夢の頬の涙をぬぐった。
「ずるいよ、理人…俺だけ、こんな気持ちにさせて」
「ずるくない。俺も同じだって」
理人は不器用に笑いながら、大夢の手を握る。
ほう、と二人だけの沈黙。
やがて理人が少し身を乗り出して――大夢の髪をそっとなでた。
「今日は、頑張った自分を褒めてあげて。大夢のこと、全部大事に思ってるから」
「…理人」
大夢は理人の胸に顔をうずめる。静かな楽屋に、二人の呼吸だけが響いた。
「ねえ、これからも、ステージで…隣にいてくれる?」
「もちろん。どんな時も、ずっと隣にいるよ」
コンサート後の楽屋――
ステージの熱がまだ残るその場所で、理人と大夢は互いの存在を胸に、そっと未来への約束を交わした。