“他の男には渡さない”とか、一之瀬にそんな風に言われるなんて、意味分からない。
彼氏でもないのに独占欲剥き出しとか、訳分からない。
それでも、その言葉を嬉しく思ってしまった自分もいたりして、戸惑うばかり。
「んんッ」
「その顔も、すげぇ可愛いな」
「やっ、……」
一之瀬の言動に、私の身体と心が支配されていく。
時に強引で、時に優しい。
いつもは偉そうで憎まれ口ばかりなのに、私が困っている時は何だかんだで助けてくれる。
今はこうして私だけを見て、私だけを愛してくれる。
どれが本当の一之瀬なのか分からなくて戸惑って、もう頭の中はぐちゃぐちゃだけど、
きっと彼は、どんな時でも私を大切にしてくれるんだろうなって思うし、私はきっと、そういう相手に愛して貰いたいような気がした。
「……ッはぁ、……本條――好きだ」
「……っん、……ッ」
『好き』と言われ、私の心はトクンと音を立て、身体は更に熱く火照り、子宮は疼いてキュッと彼のモノを締め付けてしまう。
「……馬鹿お前……ッ、そんな締め付けんなって……」
「っんぁ、……そんなこと、いわれ……ても……ッ」
「クソッ! 何なんだよお前、そういうの反則だっての!」
「ッあ! や、そんなに激しく、しないでッ」
「悪ぃけど、……もう止められねぇんだよッ」
そして、更に一之瀬の性欲を煽ってしまったらしく、余裕を無くした彼は「悪い」といいながらゆっくりだった腰の動きを徐々に速めてくる。
「ッあ、……はぁ、ッんぁ、やっ、……」
何度となく突かれ、気付けば私からも求めていき――
「――ッく……」
「あぁッ――」
互いに感情が昂り、絶頂に達した私たちはそのまま共に果てベッドへと倒れ込んだ。
「……はぁ……、はぁ……」
「……悪い……少し、強引にしちまって……」
「……ううん、……大丈夫……ッ」
息を整え、我に返った一之瀬は申し訳なさそうに謝ってくるから「大丈夫」と返したものの、恥ずかし過ぎて彼の顔を見れない私がそっぽを向いていると後ろから抱きしめてきて、そして、
「……セックスは勢いでしちまったけど……俺の気持ちに、嘘は無いから……俺との事、真剣に考えてよ……。答えは、後でで良いから」
「……ッ」
耳元でそんな事を言われた私はどうすればいいのか分からず、「分かった」の意味を込めて小さく首を縦に振ることしか出来なかった。
一之瀬と一夜を共にしてしまった後、二人して眠ってしまった私たち。
昼前くらいに目を覚ました時は、お互い何だか凄く気まずかった事を鮮明に覚えている。
あれから互いにシャワーを浴びた後、私を家まで送るついでと言って外で遅めの昼食を取ってから自宅まで送って貰って別れたのだけど、家で一人になってからもどうしていいか分からず時間だけが過ぎていった。
そして、休み明けの今日。
気まずい気持ちのままで出社した私は職員玄関のところで一之瀬と鉢合わせした。
「あ、お……おはよ……」
「ああ、おはよ」
いつも通り眠そうな一之瀬は軽く欠伸をしながら挨拶を返してくる。
(……あれ? 何か、いつもと変わらない?)
あんな事があったというのに何ら変わりない一之瀬の態度に若干拍子抜けした私は彼と共に中へと入る。
更衣室は三階にあるので二人でエレベーターに乗り込み、ドアを閉めた一之瀬は『三階』のボタンは押さずにそのまま『閉』のボタンを押した状態で一言、「あれから、考えてくれた?」と問い掛けてきた。
「……えっと、まだ……」
考えていなかった訳じゃないけど、私の中では数日で決められる事でもないから『まだ』と答えると、その答えが不服だったのか少し拗ねた表情を浮かべる一之瀬。
「……ごめん、やっぱりすぐには決められないから、まだ少しの間は保留にさせて欲しいの……駄目、かな?」
勢いで付き合って万が一駄目になって、お互い気まずくなるのは何よりも嫌だった私はもう少し考えたいからと返事を暫く保留にしたい旨を口にすると、「分かった。けど俺、今までみたいな『仲良しな同期』って立ち位置のままは嫌だから、積極的にアピールするつもり。それはいいよな?」なんて言いながらどこか意味深な笑みを浮かべていた。
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