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「はい。これ。」
ふと私以外にこの時間帯の図書館に人がいるのだと思った。
本を借りて帰る途中にそのような高いが乱雑な声が聞こえた。
目を合わせるのが厭なので振り向かずに帰ろうとした。
「これ、あんたの本でしょ?」
私はその声を聞いて気付いた。
今さっきまで文系と体育系は両立するのではと思わせるほどに太い本の重みが消えていることに。
借りていた本の一冊がが私の鞄から何故か出ていたというのだ。
私は急いでその声の元に駆 け寄り、
「有難うございます。 」
と云った。
元より人と目を合わせるという行為が苦手なので胴を見ながら本を回収した。
その年相応の聲の主兼本を回収してくれた方は私より少し背の高くてスカートの丈が心なしか短かった。
そのようなことをつらつらと考えながら踵を返すとその人から
「その本。めちゃくちゃ面白そうな雰囲気があるね。今度読みたいから教えてくれない?」
と聲を掛けられた。
私は見た目道理、話しかけたり積極的に聲を声を掛けるのが大の苦手で凄く、嬉しかった。今までないものとして扱ってきた霧が急に見えて晴れたかのようだ。
そして「はい。」と答えようとした瞬間、ある違和感に気付く。
「…雰囲気?」
そう。そうだ。この人はあろうことか雰囲気《フンイキ》を雰囲気《フインキ》と云っているのだ。
かなり大げさかもしれないが、その言葉は私にとって全ての文学本の冒涜に等しい。
きっと惜敗を惜敗、嫌悪を嫌悪というのだろう。そのような私にしては酷い、とんでもない決めつけが頭の中でよぎってしょうが無い。
我ながら非道いことを考える野郎だ。と自虐して虚しくなっていた。
何か話し掛けられたからには言葉を紡がないとと考えてしまった。
「何で…今部活動中ですよね…?」
まともに動かせない口を鞭で叩いているのかと云うぐらい動かす。
「いやー。理由としてはね。あたしさ、この前のバレーでさ、惜しくも惜敗してね、今チームが嫌悪な雰囲気でさ。友達に相談しても他人事のようにあしらっちゃって…この件が一段落 ついてからにしよっかなって。部活行くの。」
何ともまぁ。そんな最早感嘆の声が出てきそうなほどに間違えている。
惜敗は惜敗
と読むしその前の惜しくもと意味合いが重なり気持ちが悪い。惨敗はこのように書くのだ。
嫌悪は嫌悪と読みケンアクを書くなら険悪だ。
雰囲気に関してはもう何というか、これ以上述べるとゲシュタルト崩壊しそうな雰囲気を漂わせている。
他人事は他人事であるし一段落は一段落だ。
伝えたいが、伝えるのが苦手。そのような、どうしようもないむず痒さに私は咄嗟にその人の袖を引いて顔を見て喋った。
顔を見た途端驚いた。なんと書き示せば良いか分からないほどに、綺麗な女性だった。
肝心の喋った内容が頭の中には残らなかった。
走って帰宅して、脳裏に刻まれたその人を文に興そうとした。始めて帰宅部で良かったと痛感した。その時の感動を忘れること無く紙に伝えられると思ったからだ。
しかし、どのような言葉を用いられれば判らずにこれは相応しくない、これは陳腐過ぎる、と書いては消してを繰り返してあっという間に深夜へとなってしまった。
私はなんとかこの沸き立つ感情を押し殺し、諦めて長時間書いた駄文を力いっぱい消して、繊維がぼろぼろになった紙の上に目立つマーカーで書いた。
「雰囲気が素敵で凄い女性。」と。