テラーノベル
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負けない何かが欲しい。崩れず、壊れずの何かが。”私 “だけの愛が欲しい。まっすぐで、嘘のない一つ。そうすればきっと僕らは人と比べないで居れる。人にはその人の長所がある。それはきっと、どんな長所を持つ人にも負けず劣らない、その人のもの。人はみんな人生の中の主人公。でも他の人にとってはただのNPC。あれこれ理由が欲しい。”私 “だけ独りのような寂しい夜には何に抱きつけばいい?みんなみんな羨ましい。ただ虚しい。人から嫌われたくもないけど、自分を好きでいたい。一番に大切なのは自分であって、ほかは二の次。でもやっぱり独りになるのは怖くて寂しくて、矛盾した気持ちがただただぐるぐるまわっていく。
「僕の背中に乗って泳いでて」
遣る瀬無い日々の海はとても深いから。離れないでそばにいて。握った手を離さないようにしっかり絡めて。
「誰かの私でありたかった」
勘違いしちゃうから、ひとりにしないでよね。それほど大切だから、どんなに小さなことでも不安になる。本当はそんなことないってわかってる。わかってるつもりなのだ。
信じれる何かが欲しい。これはきっと心のゆとり。不安になるということは、心にゆとりがないということ。ずっと焦っているということ。解けない絆が欲しい。永久出会ってほしい。家族よりも強い、人と人とのあり方でありたい。そうすればきっと僕らは、呆れないで居られる。その日の当たり前で普通。そう、理解し合いたい。
大事にしていてもいい?強がりが崩れる夜は、体丸めて布団で小さくなってる。それでいい。自分を守るための殻に籠って必要になったら出てくるでいい。他人は羨ましい。ただ虚しい。自分で選んだ道でもたまに振り返ってしまう。照れどその不安に打ち勝てる人に、ボクはなれる?
「私の腕の中で休んでて」
悲しくて堪らない人はとても弱いから。
「誰かの私でありたかった」
彷徨ってしまうから、ひとりにしないでよね。
***
ある冬の日。それは偶然に見つけてしまった。自分と向き合って、何かを真剣に考え込むクラスメイトを。考えがまとまらないのか、浮かないかををしている。冷たい風が吹く中庭にどれぐらいいるの取ろうか。肺が凍るような風が吹くこの日に。
「おや、リドルさんこんなところでどうしました?」
この状況ですら面白がっているような口ぶりでいつものとーん。でもなんとなく、その方がいいと勘が告げていた。膝の上の固く結ばれた手を見つめていた灰色の瞳がゆっくりとこちらを見つめる。今まで眠っていたかのようなぼやっとした表情が珍しい。何か返事をしようとして開いた口が何も言葉を紡がず閉じられた。そして、もう一度目線を膝の上へ戻した。
「相当お疲れのようですね。何か悩み事でも?」
クラスメイトが座るベンチにゆっくりと諏訪しながら声をかけても、反応がない。ほとんどの生徒が眠ってしまうであろう魔法史の授業ですら真面目に、真剣に取り組む彼が、今は誰の声も聞いていないように思う。
(無視されているのか、単純に声が届いていないだけか。)
どれも普段の彼からは考えられなかった。暗くなり始めた放課後は昼間よりも冷え込む。このままでは風邪を引いてしまうと思い、声をかけようと彼の方向へ顔を向けると、彼は手に紙とペンを握っていた。不思議に思い、試しに「寒くありませんか?」と聞いて見た。少し間をおいて紙の上をペンがゆっくりと滑る。やがて書き終えた紙をよこした。
『寒いよ』
短い答えだった。
「では、どこか建物の中へ入りませんか?その様子ですと…僕に、ほかにも伝えたいことがあるように見えますが?」
またゆっくりと紙の上をペンが滑る。時々、ペンが止まり少し考えてからもう一度ペンを滑らせる。ペンを握る手が、少し震えていることがわかった。日が完全に沈みきった頃、ようやく返答を書き終えたリドルが紙を差し出した。『そうしたいところだけど、今日はもう日が沈んでしまったから、また明日でもいいかい?』寮に帰らなければいけない時間まで、まだ時間はあるが今は冬だ。外はもう暗い。
「そうですね。明日、昼休みなど時間が十分にあるときの方がよろしいですか?それとも早めにした方が?」
今度はなかなかペンが動かなかった。返答に迷っていることは確かだ。紙をぎゅっと握りしめ、何かが重くのしかかってきたかのように深く俯いた。
(これは…聞き方を間違えましたかね。)
さて、どうしようかとしばし考えた後、今の状況から…とかれの代わりに答えを出す。
「早めのほうがよさそうですね。明日、いつもよりも早く教室に来れますか?」
少し考えてから、ペンが「うん」と返事をした。
***
昨日の約束を守るため、いつもより一時間ほど早く教室に来た。すると、いつもの席にはもう彼が座っていた。「待ちましたか?」と軽く尋ねると小さく首を振った。さて、と本題に入った。と言っても、彼が伝えたいことを書き終えるまではおとなしく待っているだけなのだが。初めはスラスラと書き始めていたが、だんだんとペンの進みは重くなっていった。見ていないほうがいいか、と思い少し視線を外すとペンはリズムを取り戻しっていった。これを数回繰り返して書き始めてから二十分後、「書き終わった」という言葉の代わりに左肩を軽く、ゆっくり叩かれた。受け取った紙に書かれていることを要約するとこうだ。
場面緘黙症と医者から診断された。
だ。要約し過ぎかもしれないがこういうことなのだ。場面緘黙症とは一定の場所では普通にコミュニケーションを取ることができるが、ある一定の場所ではコミュニケーションが取れなくなるというものだ。例えるなら、家では家族と話せるが学校では話すことができない、というもの。筆談でコミュニケーションを取ることができる人もいるが、コミュニケーションを取ること自体拒否を示す人もいる。彼は最近知った。それまではなんともなかった。なんともなかったのならどれほどよかっただろう。それを知る人は、ここにはいない。彼を見ていると、筆談はできそうにも思うが震えている文字をみるに勇気を出していることがわかる。でも、それでも伝えようとしてくれることが何より嬉しかった。ただのクラスメイトでも、余り物ペアでもなく友達として隣にいると思えた。
「今日はこのまま授業を受けますか?」
両手を膝の上で固く握っているリドルに、ゆっくりと問いかけた。リドルは少し考えるそぶりを見せたが、答えは決まっていたようで『受ける』とペンを走らせた。今日はそれだけで十分だと思う。それ以上なんて、望まなくていい。
***
限りある世の中のせいで狂ってる。果てしなく続く時間にくすぶってる。みんなと同じだからって僕の、私のワダカマリが楽になるわけじゃない。どうしてこんなに人生は難しい?こんなにも難しいものだっただろうか。
あれから数ヶ月が経った。でも、まだ誰とも言葉を発せていない。それがとても重かった。みんな優しいのに、その優しさが何よりも怖かった。次第に文字も書けなくなっていき、人を前にすると何を考えているのか全くわからなくなる。日に日に自室にこもることが増えていき、最終的にベットから起き上がることをやめた。朝昼晩とトレイたちが食事を運んでくれるが、最近はあまり手をつけていない。寮長の仕事も、会議もトレイに任せっぱなしでそれが申し訳なかった。だからと言って、今の自分には何ができるだろう。いいやできることなんてない。あまりいい思考でないことが多く学園長から何回か釘を刺されていた。今の自分は嫌だが元に戻りたくも無い。矛盾した気持ちが思考の中心に根を張っている。
***
ここ最近の寮長会議はマレウス・ドラコニアが忘れることなく参加しているし、イデア・シュラウドもタブレット越しではなく生身で参加していたり、協力しようという思いが感じられていた。でも一つだけ、ハーツラビュルの寮長が座る席だけは、今日も寮長ではなく副寮長が座っていた。寮長であるリドルが今どんな状態なのか、他寮長たちも知っている。みな、口では心配の「し」の字もないというが、だいぶ気にしてる様子である。そんな寮長たちの様子に、トレイは苦笑するしかなかった。ちなみに、学園長は会議のたびに縛り上げられている。次の日、いつもと同じように朝食をリドルの部屋に運びに来たが、そこにリドルの姿はなかった。
***
教室に行く気力はない。でも、自室にいたくなかった。人の来ない中にはの隅のベンチに腰を下ろす。疲れた。たいして歩いてもいないのに、山を登ったかと思うほど疲れている。あぁどうしよう。
「おや、お久しぶりですね」
ふとクラスメイトの声がすぐ近くで聞こえた。見上げればジェイドがいた。ジェイドはゆっくり、静かに隣へ腰を下ろす。
「元気ではないでしょうけど、顔を見れて嬉しいですよ」
ニッコリと笑った。ゆっくりと言葉を紡いで、ゆっくりと笑う。安心の与え方と心の落ち着けさせ方を知っているかのように自然だった。まだ、教室に行くことができたときに身につけた技術だろう。あの頃はとても過ごしやすかった。自分のペースを崩さずにいられるから。ここ最近はコミュニケーションを取ることすら拒んでいた。字を書く気力はない。声はとっくに使い物にならなくなっている。
「…く…し…っ」
途切れ途切れの音が漏れた。言葉とは言えない浅い子音。けれど声。ジェイドは少し、驚いたように目を見開いた。そしてもう一度いつもの笑顔になる。
「リドルさんのペースでいいんですよ。リドルさんが思うように、で。」
本当の音を聴いて。やるせない日々の膿は出切らないけど。
「……ねぇ」
「はい」
今度はしっかりとした声で、言葉で。でなければ伝わらないことはたくさんある。
(私の私でいてもいいの?)
ここにいるんだよ。誰よりも向き合ってくれる人が。
あの子にはなれないし、なる必要もないから。
それから、段々と授業に参加できる日が増えていった。相変わらず声は使い物にならないが、気持ちは前に進んでいる。それでも、疲れたときは無理をせずに休む。
「みんな、心配し過ぎだと、思うんだ」
「みなさんの気持ちも十分にわかりますけどね」
今はキミにだけでも声を届けられるなら、それでいいよね?少しづつ、少しづつ前に進むだけで。しっかり歩いていけたらそれだけでいい。たったそれだけで。
「愚痴はいつでもお聞きしますよ」
「や」
「おやおや」
darling…
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