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9話
ローレンは、その夜ほとんど眠れなかった。
机の上に置かれた二つの選択肢。
安全な場所。
そして、葛葉のそば。
どちらも、間違いではない。
けれど――どちらも、同じ重さではなかった。
(俺がここにいる限り)
葛葉は、立場を削られる。
噂に晒され、判断を疑われる。
守るつもりでいるのに、
守られているのは自分だけかもしれない。
朝、ローレンは静かに決めた。
葛葉の部屋を訪ねる足取りは、
不思議と落ち着いていた。
「答え、出ました」
葛葉は顔を上げる。
その目には、覚悟と――わずかな不安。
ローレンは、書類の一つを差し出した。
別の屋敷への紹介状。
「俺、離れます」
空気が、止まった。
「……理由は?」
葛葉の声は、抑えられていた。
ローレンは目を逸らさずに答える。
「迷惑をかけたくないからです」
「俺がそばにいることで、
葛葉様が削られるのは、嫌です」
それは、逃げではなかった。
依存でもなかった。
選んだ結果だった。
葛葉は、すぐに否定しようとして――やめた。
引き止める言葉は、
この選択を無意味にしてしまう。
「……分かった」
その一言に、
ローレンの胸が少しだけ痛んだ。
「でも」
葛葉は続ける。
「それは、俺を信じていないという意味ではないな?」
ローレンは、ゆっくり首を振る。
「信じてます」
「だから、離れられます」
その言葉に、
葛葉は目を閉じた。
――強くなったな。
かつて、拒否することすらできなかった少年が、
今は「離れる」ことを選んでいる。
「行き先で、嫌なことがあったら」
葛葉は、静かに言う。
「戻ってこい、とは言わない」
ローレンは、少し笑った。
「言われなくても、
俺が選びます」
別れの日は、あっけなかった。
荷物は少ない。
挨拶も短い。
屋敷の門の前で、
二人は向き合う。
「……ありがとうございました」
ローレンの声は、震えていない。
「俺に、選ぶ力をくれた」
葛葉は、深くうなずいた。
「生きていろ」
それだけを、はっきりと。
ローレンは背を向け、歩き出す。
振り返らなかった。
振り返れば、
きっと足が止まってしまうから。
門が閉じたあと、
葛葉はその場に立ち尽くした。
守られたのは、自分だったのかもしれない。
――離れることで、
――相手を守る選択もある。
それを教えられたことが、
胸に静かに残った。
そしてローレンは、
新しい場所へ向かいながら思う。
――俺は、誰かのそばにいるために生きているんじゃない。
――でも、選び直すために、生きている。
この別れは、終わりじゃない。
再び並ぶための距離だった。
ご愛読ありがとうございます♪
続きます