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今回はibsmです

ちょっと短いかも

地雷さん回れ右


    


スタート





激しい雨が車の屋根を叩く音が、車内の静けさをかき消していた。


「志摩、大丈夫かよ……」


運転席の伊吹が、ちらりと助手席を見やる。志摩は目を閉じて、シートに体を預けていた。今日の現場はきつかった。保護された少年の姿が、志摩の過去をえぐったのは見て取れた。


「……寝てるわけじゃねえよ」


ぽつりと呟く志摩。目は開けないまま、どこか遠くを見るような声だった。


伊吹は少し躊躇ってから、エンジンを止めた。ワイパーも止まり、雨の音だけが二人を包む。


「言いたくなきゃ、言わなくていい。けどさ……なんか、俺にできること、ある?」


伊吹の声は不器用で、でも真剣だった。志摩はゆっくりと目を開けて、伊吹を見た。


「……あるよ」


「え?」


「黙って、ここにいて」


その言葉に、伊吹は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに表情を緩めると、体を少し傾けた。運転席と助手席の間に腕を伸ばし、志摩の手にそっと触れる。


「……これじゃ、足りねえだろ?」


伊吹の指が志摩の手を包み込む。濡れたジャケットの袖越しでも、体温はじんわりと伝わる。


志摩はそのまま伊吹に手を引かれるまま、身体を少し寄せる。狭い車内、シートの間にできた空間が、二人の呼吸を混ぜ合わせる。


「……おまえ、ずるいな」


「志摩がそうさせてんだよ」


ふいに落ちたキスは、甘さよりも熱を帯びていた。


外は雨、車内は静寂と、心音だけ。


それでも、今夜だけは――この距離のままで、いい。

気がつけば、車内は静まり返っていた。

雨は止み、フロントガラスの水滴が朝日に照らされて輝いている。


後部座席で、伊吹と志摩は薄いブランケットを肩までかぶり、寄り添うように眠っていた。

志摩が先に目を覚ました。


ぼんやりとした意識のなかで、自分の肩に伊吹の腕が乗っているのを感じる。

服は半分しか着ていなくて、肌にはまだ伊吹の熱が残っていた。


「……ったく、なんでおまえとこんなとこで寝てんだ、俺……」


志摩は小声で呟きながらも、その腕をどけようとはしなかった。

むしろ、少しだけ体を寄せる。


昨夜のことが夢じゃないと確信できるその重さが、今はなぜか心地よかった。


「起きてんだろ、志摩」


不意に声がして、志摩が肩をビクッと震わせる。

見上げると、伊吹はうっすら目を開けたまま、いつもの調子でこちらを見ていた。


「……起きてたなら、どかせよ腕」


「やだ。今、わりと幸せ」


「……バカ」


志摩は頬を赤らめて視線を逸らす。

でもその顔には、どこか柔らかな色が差していた。


沈黙の中で、伊吹がふいにぽつりと言う。


「なあ、昨日のこと……忘れるなよ?」


志摩はその言葉に目を見開き、すぐには返せなかった。

でも、少ししてからゆっくりと、伊吹のシャツの裾をつまむ。


「……おまえ、こういうの、ちゃんと考えてやってんの?」


「志摩が真剣に見えるから、俺も真剣になっただけだよ」


まっすぐな視線に、志摩は目を伏せる。

照れくささと、どこか痛みのようなものが、胸に浮かんだ。


「……俺、うまく返せるかわかんねぇぞ」


「いいよ。待つし。押すし。ついでに抱くし」


「それ、最低と最高が混ざってる」


「志摩の前では、そうなるんだよ」


苦笑して頭を抱える志摩に、伊吹はいたずらっぽくキスを落とした。

唇よりも、眉の端に。


それが今の彼なりの「朝の挨拶」だった。


やがてエンジンをかけ、車が走り出す。


朝の光の中、静かに始まる日常。

だけど、もう昨日までとは少しだけ違う。


この関係がどうなるのかなんて、今はまだわからない。


――けど、少なくとも。


「また、志摩が俺んとこ来ればいいだけだろ?」


そう言って笑う伊吹の横顔が、今は少しだけまぶしかった。



うわぁい

短編も面白いわ


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