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たとえば音楽だ。木星は歌を唄う。中心部にある高温高圧のコアが分厚い大気にエネルギーを与えてハイパワーの電波を放出している。それを捉えて可聴域に変換すると荘厳な音楽が聞こえる。木星は饒舌だ。その子供たちも。それだけではない。壮大なオーケストラを抱えている。エンケ族の彗星は軌道傾斜角が浅く平均3年で公転するため内惑星の摂動が及びやすい。また木星と7:3の準軌道共鳴を成しており星間ガスや自身の破片を散布している。それらが木星に指揮されて惑星交響曲を奏でていた。
西暦2068年。エンケ族の一つ、エレノア・へリンb彗星は有史以来何度目かの邂逅を終えて木星重力場に捕獲された。以後、千年近く衛星としてふるまう。
「おはよう日向君。この録音を聞いている頃、我々人類は滅びているだろう。君の任務は人類の遺産を守り続けることだ。これは我々の悲願でもある」ノイズ混じりの声が響いていた。
「地球が消滅したのは二十二世紀、つまり四百年以上前のことだ。当時我々は太陽に接近する小惑星帯の巨大ブラックホールに飲み込まれて滅亡した。それはもう酷いありさまだった。なにもかもが消えてなくなった。
我々も、文明も、そして世界も。だが、我々が残したものは一つだけあった。それが地球だ。地球の消滅によって生じた膨大な熱量が太陽の引力を凌駕し、ブラックホールが消えた後、地球が残った。しかし、生き残ったのは人類だけではなかったというわけさ。今から話すのは、人類が滅亡して三年後の話だよ」「我々が生存していた時代、地球は二つの月を持っていた。そのうちの一つが我々の故郷だ。名はエウロパという。もう一つの月の名はガニメデ。こちらの方が有名かもしれないな」
「エウロパには海があった。それも広大な塩湖がね」
「海水と淡水の割合はおよそ2:1だ。そのおかげで陸地面積の半分近くを水に浸すことができた。この水は海から引いたものだ」「海は生命の母だ。そこに魚がいて、プランクトンが生まれ、それを餌とする動物たちが現れ、それらを捕食する肉食の魚類がさらに増え、ついには生態系の頂点に立つ恐竜が生まれる。そして恐竜たちは、ある特殊な能力を獲得したんだ」「彼らは高度な知能を持つに至った。そして、ついに地球にたどり着いた」
「彼らにとっては未知の大地だったが、地球もまた彼らに理解できない環境になっていた。だが、そこでもやはり彼らの方が優位に立った。そして、その優位性を利用して、地球上の全生物を支配下に置いたんだ」
「そして、彼らの目的は達成された。彼らが地球を支配していた期間は実に八十万年から百万年ほど。その間、彼らはずっと同じ場所に居続けた。しかし、その支配も長くは続かなかった。ある日、異変が起きた。空に穴が空いたんだよ。そこから巨大な何かがやってきた。宇宙怪獣だ。彼らは我々よりも先に、別の世界からやってきていたのさ」「宇宙怪獣は圧倒的な数の差で我々を滅ぼした。だが、それで終わりではなかった。奴らはその後も度々現れて、我々を滅ぼしてきたのだから」「そして、つい先ほども現れた。今度は木星を喰らいにね……」
「もう時間がない。これからの話は、このレコーダーを再生している君自身に託そうと思う。私はここで終わるが、君ならばきっと大丈夫だ。君は強い子だ」「ありがとう。どうか、私の愛しい子をよろしく頼む。君なら必ず守り通せると信じているよ」「それでは、おやすみなさい」
「いい夜を」「おやすみなさい」「おやすみ」「おやすみ」
「……」「……………………さよなら」―――――――――「ふぅ、これでよしっと。あー緊張したぁ!」『お疲れ様です』「いやホント助かったよ! 君がいなかったらどうなってたことか」「テレフォンかっぱ祭りがブッキングされてたよーん」いきなり河童が乱入してきた。「ちょ、おま…」「僕は河童のカッパーフィールド。かっぱっぱー!♪」「おいコラ勝手に自己紹介を始めるんじゃない。っていうかなんでお前がここに居るんだよ」『カッパさん、あなたはどうしてこんなところにいるんですか?』「うん、ちょっとしたアルバイトかな」カッパーフィールドは悪びれもせず言った。「え? バイト?」「そっ、実は僕ってばこの前バイトクビにされちゃったんだよね。仕事中に遊んでたら店長に怒られて。だって給料貰えないんだもん。そりゃサボるよ。だからテレフォンかっぱ祭りするんだ。君らも河童になれ。そら脱いだ脱いだ」「キャー」」カッパーフィールドは女子高生のセーラー服をビリビリに破り始めた。「やめろバカ」「ぐぼぇ」俺はカッパーフィールドの顔面に裏拳を叩き込んだ。「いったいなぁ……まったく乱暴なんだから。そういうのは良くないよ?」「誰のせいだと思ってんだ」「はいはい分かったよ。お前が死ね」カッパーフィールドは俺を射殺したもうおしまいだ。おわり。「じゃ、これあげるから」そう言って差し出されたのは一枚のCD-ROMだった。
「これは?」「僕の作ったオリジナルソング」
「はい?」「ほら、ちゃんと聞いてよ」「え、ああ……」俺はイヤホンを耳につけた。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~あとがき。どうも皆さんこんにちは。この度は本作品をお読みいただき誠にありがとうございます。本作品はフィクションであり実在する人物、団体等とは一切関係ありません。また本作は一話完結型のオムニバス形式となっておりますのでご安心ください。
ちなみに次回からは本編に戻ります。第二話カッパーフィールドとテレフォンかっぱ祭りの陰謀第三話カッパーフィールドと木星の休日 第四話カッパーフィールドと木星の憂鬱 第五話カッパーフィールドと木星の約束 第六話カッパーフィールドと木星の追憶 第七話カッパーフィールドと木星の邂逅 第八話カッパーフィールドと木星の鎮魂歌 第九話カッパーフィールドと木星の挽歌 第十話エピローグ それではまた次の作品で。
「ねえ、日向くん。私達付き合わない?」「はぁ!?」高校入学初日。教室に入った途端、そんなことを言われた。「私と日向くんだよ。ダメ?」「だめ、じゃないけど」
「やった。それじゃ、これからよろしくね」彼女は笑顔でそう言うと自分の席に戻って行った。「なにあれ」「さぁ?」俺は彼女を見て首を傾げた。「日向、お前あいつと知り合いなのか?」「違うよ。初対面だよ」「でも名前呼び捨てにしてなかったか?」「あー……」なんと説明したものか。その時チャイムが鳴った。「はいはい皆座れー。HR始めるぞー」担任の先生が入ってきた。とりあえず助かった……。
「それじゃ、あとは任せたぜ」俺の肩を叩いて友人が離れていく。「おう、サンキューな」俺は小さく手を振って礼を言った。HRが終わると質問攻めにあった。主に彼女のことについてだ。なんでも彼女はクラスどころか学校中で有名な有名人らしい。曰く、学園アイドルだとか。確かに美人だと思うがそこまで騒ぐことだろうか? 俺は不思議でしょうがなかった。「ねぇ日向くん」声をかけられ振り向くと彼女が立っていた。「な、なに?」
「今日は一緒に帰ろうね」「あ、う、うん」断る理由もない。素直に応じることにした。放課後。彼女と二人で下校する。「日向くんは部活とか入らないの?」「まだ決めてないな」「そっか。良かったらうちの部に遊びに来てよ」「へぇ、どんな部なの?」「うーん、それは来てからのお楽しみかな」悪戯っぽく笑う。「ねぇ、カッパーフィールドのテレフォンかっぱ祭り伝説って知ってる?」「なにそれ」「知らないの? 有名なお伽噺なんだけどな」「悪いな。勉強不足だった」「仕方ないか。今時小学生でも知ってるような話だし」「そうなんだ。教えてくれない?」
「いいよ。これはね――」*****「……っていうお話でね。カッパーフィールドはこの後どうなったんだと思う?」「さぁ? 普通に考えたら死刑じゃないかな」「えー、それは可哀想だよー」「じゃあ不老不死になって地獄巡りの旅に出たんじゃないか」「なんか怖い話だね」「そうか? ただの作り話だろ」「そうだとしてもさ、やっぱり救いがないのは悲しいよ」「優しいんだな」「別に。普通のことでしょ」「いや、そうでもないだろ」「ところでさ、そのお伽噺ってなんていうタイトルなの?」「えっと、確か『カッパーフィールドのテレフォンかっぱ祭り』だったと思う」「『カッパーフィールドのテレフォンかっぱ祭り』か。覚えておくよ」*****
「おはよう、日向くん」「おはよう、アーニャ」登校して早々挨拶された。しかも女子に。「どうかしたの?」「いや、なんでもないよ」俺はそう答えると自分の席に着いた。それから数日、彼女と話す機会が増えた。最初は周りからの視線が痛かったが次第に慣れてきた。そしてある日のこと。「あの、日向くん」「どうしたの?」「もし迷惑でなければ連絡先を交換しませんか?」「あ、うん。いいよ」「ありがとう。それじゃあ……」彼女はポケットから携帯を取り出す。「ちょっと待った」「どうしたの?」「アドレス交換なら他の人にも頼んでみた方がいいんじゃないの?」「…………」沈黙。「あ、いや、深い意味はないんだ。ただちょっと気になっただけで」「ふぅーん……」「あ、えーと、その……」
「もしかして、嫉妬してくれてるの?」「ち、違っ!」顔が熱い。きっと真っ赤になっているだろう。