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「で、貴方は弱いから試合に出れないの?」
「その言い方、悪意を感じるんですけど……。僕の出番はまだ後なだけです。これでも、二番隊副長なんですけど……」
シルヴィとフレッドが仲良さげに話している中、試合が始まった。リディアは視線を試合へと向ける。すると見覚えのある人物がいた。
「ねぇ、あれって……」
シルヴィもその人物に気付き、心底嫌そうにする。リディアはその姿に苦笑した。
リディアの元婚約者のラザールだ。そう言えば忘れていたが彼も白騎士団員だった。
「⁉︎」
頭も性格も悪いがどうやら目だけは良いらしい……と失礼な事を考える。遠目でもリディアに気が付いた様子で格好を付けたポーズを決めながら視線を送ってきた。相変わらず理解し難い。
するとそれを見てシルヴィが鼻で笑った。
「ダサっ」
「シルヴィさん、口が悪いですよ」
そして彼は予想していた通り見事に敗北し全身ボロボロになっていた。そして何故かこちらに向かって走って来た。
「やあ、リディア! どうだった、私の勇姿は」
以前夜会であんな事があったにも関わらず、良く普通に話しかけてこれるなとリディアは呆れる。
(と言うか私の勇姿って……)
「勇姿……?」
(えっと、勇姿……?勇姿って、何だっけ……こんな感じだったっけ)
ラザールを上から下まで見遣る。服はヨレヨレ髪はボサボサ、全身ボロボロだ。試合中は兎に角逃げ回り、無様の一言に尽きる。
(……勇姿……勇姿……)
頭の中で言葉の意味を思い出す。そして改めてラザールを見遣る。
(あ、鼻血出てる……)
「あー……えっと」
リディアが言い淀んでいると、隣でシルヴィが噴き出していた。これでもかと言う程笑いフレッドに宥められている。
「勇姿って、勇姿? 勇姿~⁉︎ ふふふ」
「シルヴィさん、ちょっと!」
「だって、あれは勇姿じゃなくて醜態? の間違いでしょう? 可っ笑しい~」
子供のように笑いながら、はっきりと言い放つシルヴィの言葉に思わずリディアも噴き出してしまった。
「う、煩いっ‼︎ うわあぁぁ~」
ラザールは顔を真っ赤にしてワナワナと震えながら奇声を上げ走り去って行った。
(情けなさ過ぎる……)
嵐が去った。
一体何しに来たのか……正直もう関わらないで欲しい……。リディアは大きなため息を吐く。その時、会場中から歓声が上がった。一気に令嬢等が色めき立つ。
「ぁ……」
ディオンだ。
何時もとは違い、騎士団の正装をしている。そんな兄の姿に目が釘付けになり思わず見惚れた。遠目なので細かな表情までは分からないのだけが残念でならない。それと同時に黄色い声に苛々として顔を顰めた。
試合が始まり、あっという間に勝敗は決した。無論勝ったのはディオンだ。
「ディオン様ぁ‼︎」
「きゃっ~‼︎」
「素敵~」
更に令嬢等の黄色い声は増すばかり。リディアは苛々が募り複雑な気持ちになる。だが気持ちは分かる。
(だって……格好いいもん)
「では、僕もそろそろ行ってきます」
その後暫くしてフレッドの順番が回ってきた。彼はサクッと行って、サックと帰って来た。そして項垂れていた。
「仕方ないわよ。瞬殺だったけど、頑張ったわ。うん、頑張った、頑張った」
適当に慰めるシルヴィを見て思う。フレッド相手だと性格が違う。でも悪い意味ではない。シルヴィは愉しそうで、きっと二人は相性が良いのだと思う。二人を見ていると思わず顔も綻んでしまう。
フレッドの対戦相手はリュシアンだった。シルヴィの言う通り正に一瞬だった。リュシアンの強さをヒシヒシと感じた。流石白騎士団長なのだと実感せざるを得ない。ディオンと闘ったらどうなのだろうか……そんな事が頭を過った。
リュシアンが去り際、こちらを見たのに気が付きリディアはあの時の彼を思い出し反射的に身体を震わせた。シルヴィも横にいる故、平然を装うが内心酷く動揺をした。