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「『飛角』!! よっしゃ!! 見て見て、莉子! イドクロアゲット!!」
元気に異世界の魔獣の角を召喚してモンスターに突き刺す六駆。
彼らは第18層まで順調に進行しており、再び現れるようになったモンスターを狩りながら次の階層を目指している。
だが、六駆以外のメンバーにやや疲労感が漂っていた。
「ふぇぇ……。六駆くん、よくそんなに動けるねぇ……」
「あづいー。あづいにゃー。探索員の装備って、割とピッチリしてるからさー。余計に暑く感じないー?」
「みみっ! クララ先輩、胸もとがはだけてるです! ラッキースケベ案件です!!」
「にゃははー。芽衣ちゃんはマジメだねー。安心していいよー」
クララはにっこりと笑う。
大人の余裕だろうか。
「このパーティーだけしかいない時はねー。スケベな視線は生まれないからさー」
「みみみっ。そういえばそうです! 六駆師匠はお金に欲情する人でした!!」
客観的事実だった。
彼女たちが疲れているのは、モンスターとの連戦が原因ではなかった。
確かに団体さんを2組ほど捌いたが、今更このパーティーがその程度で疲弊するとは思えないし、実際その通りなのである。
ならば、原因は何か。
クララが言っているように、ダンジョン内の気温が急に上がり始めたのだ。
特に第18層に入ってからはそれが顕著で、彼女たちに知るすべはないが、実は37℃を超えていた。
基本的にダンジョンの中と言うものは、暑いよりは寒い方が一般的である。
太陽から離れていくので、何となく理屈としても頷ける。
もちろん、例外はある。
世界には、壁が常時帯電していたり、内壁でマグマが流れていたり、氷のみで構築されていたりと、多種多様なダンジョンの事例が報告されている。
が、有栖ダンジョンは出現モンスターこそ強いものの、ダンジョン環境は一般的なものだと資料には記載されており、実際にそのような空間が保たれていた。
ならば、この暑さはどうしてなのか。
理由はまだ判然としないが、このまま歩くだけで体力をすり減らしていくのは愚策。
百戦錬磨のおじさんもそこに気付いていた。
「久しぶりに使うけど、ちゃんとできるかな? ふぅぅぅん! 『爽快膜』!! 遠隔展開!!」
六駆が創り出したのは、外気を遮断する煌気の膜。
その膜の中は快適な気温と湿度が保たれ、大気中の毒素は膜を通過する際に浄化される。
かつて六駆が転生先の毒霧に覆われた魔境を踏破する際、現地の案内人が次々に倒れてしまったために編み出した、快適属性のスキルである。
いや、快適属性ってなんだ。勝手に変な属性を作るな。
「ふわぁー! なにこれ、六駆くん! 急にすっごく涼しくなったぁ!!」
「これは間違いなく逆神流のスキルだにゃー。探索員のスキルで、空間を変異させるとか聞いたことないもんねー。月刊探索員にも載ってなかったよー」
「みみみぃっ! さすが師匠です! 芽衣の次に覚えたいスキルが決まったです!!」
「うふふふ! 喜んでもらえて良かったよ! 少しだけ蒸し暑いからね! 女の子は気温の変化に敏感だって、親父やじいちゃんも言ってたし」
父、大吾の意外な一面が明らかになる。
逆神家は全員がデリカシーやエチケットをうっかり洗面所で流してしまった集まりだと思っていたのに、そうではなかった。
それは六駆だけだった。
「おおっ! またなんか見たことないのが出て来た! 莉子! あいつイドクロア持ち?」
「んーん。あれはソルラゴスって言う、無機物のモンスターだよ。倒したら砂になっちゃうから、何も採取できないの」
「ああ、そうなの。じゃあいいや! 『解体竜巻』!!」
名前しか明らかにならないうちに、ゴーレムみたいなモンスターがバラバラになった。
まったくもって風情がない。
こりまでに何度も苦言を呈しているが、せめて一撃くらい攻撃を受けてから倒せ。
「それにしても、六駆くんは暑くないのかにゃー? すっごい動いてるけどさー」
「そうですね。ちょっとだけ不快感はありますよ。でもまあ、問題はないです」
六駆の新装備、漆黒の堕天使は溶けてしまったので、現在の彼は慣れ親しんだ配給装備を身に纏っている。
それに環境適応の効果は付与されておらず、莉子マントにはある程度の耐熱効果が備わっているものの、彼にとっては別にあってもなくても変わらない。
六駆は常に自分の体を煌気で覆っているので、環境の変化に極めて強い。
これは元からそうだった訳ではなく、初めての転生先の環境が過酷すぎたため、何を置いても自分の身を安定維持させる術を身に付ける必要性に迫られ、生きるために覚えた名もないスキルである。
最低限生きていくうえでないと困るものと言うのは、一度覚えてしまえばなかなか忘れないもので、六駆も多分に漏れず、いつの頃からかそうするのが彼にとっての普通になっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
大事な嫁入り前の3人娘を快適な煌気の膜で覆いながら、六駆の孤軍奮闘は続く。
失礼。
嘘である。
孤軍であるのは事実だが、別に奮闘はしていない。
彼はモンスターが出てくると、まず莉子に「これ、お高いヤツ!?」と質問する。
答えがイエスだった場合は丁寧に作戦を練って戦うが、ノーの場合は適当なスキルで瞬殺してしまうので、流れ作業のような感覚で彼は戦闘をこなしていた。
「ちょっと、莉子さんや! 全然イドクロア持ちのモンスターが出てこなくなってるよ! どうなってるの!? 僕、モチベーションが下がって来たんだけど!!」
「ふぇぇ!? わ、わたしに言われても困るよぉ! だって、六駆くんに嘘言ったら悪いじゃん! ちゃんとした情報を提供してるんだからね!!」
確かに、六駆の言う通りだった。
イドクロアを持っているモンスターの登場頻度が、階層を進むたびに減っていく。
代わりに出てくるのは、無機物系やゼリー系などの気温に左右されない相手ばかり。
それは何故なのか。
実は、既にダンジョン内の気温は45℃を優に超えていた。
上層にモンスターが大挙して押し寄せていたのは、この高温に耐えられなかったためなのだ。
その事実にチーム莉子は気付けていない。
乙女たちは六駆の作り出した快適空間の中にいるし、六駆はなんかおかしいし。
監察官室の南雲たちもサーベイランスで彼らを追ってはいるが、煌気感知に気を配っていても、熱感知には無警戒だった。
有栖ダンジョンのデータが完全に揃っていることが、今回の異変の察知を遅らせている。
過ぎたるはなお及ばざるが如しではないが、あまりにも正確な情報は現場の判断を鈍らせてしまうようであった。
「おや。次の階層だね。あー。なんか、不快な風が吹いてるよ。3人は『爽快膜』から出ない方が良いよ! 汗かいちゃうと大変でしょ! 着替えないといけないから!!」
六駆おじさん、ちょっとだけジェントルマンになる。
だが、その不快な風の温度は50℃を超える。
一般人の感覚を取り戻せとは、今更すぎるので我々も言わない。
せめて、超人的感覚くらいには戻って来てくれ。
超人を超えていくな。
それなら逆神六駆、お前は何人なのだ。
コメント
1件
第164話読了!もうね、六駆おじさんの「快適属性」に笑ったわ。勝手に属性作るなw でも気温上がりまくってるダンジョンで、女子陣だけ涼しくして戦うスタイル、ちょっとジェントルマンすぎてギャップにやられた。無駄に強くてイドクロアにしか興味ない感、安定の六駆クオリティで安心して読める。でも50℃の風を「不快な風」で済ませる感覚、お前は何人家族なんだってツッコミ入れたくなったわ。この暑さの伏線、次どうなるんだろうね。続き楽しみにしてます🔥