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【閲覧注意⚠︎】この小説はnmmnです。
nmmnが苦手な方やタグの意味が分からない方は一度ご確認の上、再度閲覧をするかのご検討をお願いします。
又、
この小説は作者の妄想・フィクションです。
ご本人様(キャラクター等)には一切の関係・関連はありません。ご迷惑がかからぬよう皆で自衛をしていきましょう!
閲覧は自己責任です。
※その他BL要素有り( 🔊×🧪)
今一度ご確認の上、ご理解ご了承頂ける方のみ本文へお進みください🙌
ご確認ありがとうございます!!!
それではどうぞ〜🫶✨
🧪『』その他「」無線「”○○○”」
その日、ロスサントス全域にピシャリとだいぶ強めな激震が走った。
ある者は普段の日常と大差なく、ある者はとんでもなく面倒な一日になるだろうと確信していた。
人によっては面倒極まりない本日の強制参加イベントを、住民たちは“歪み”と呼んだ。
「お〜…、見てください会長。俺のところにピンクとグリーンが引き寄せられてますよ」
「へは(笑)、ほんまやなぁ(笑)、え〜、本当に引き寄せられるんやそれ」
ジョシュアが何の気なしにクッキー戦隊服のトピオとJDに目掛けて片手を伸ばせば、自ずと自然な足取りで二人がジョシュアの近くへとやって来る。
まるでジョシュアが念力を使ったかのように見えたその様子に、音鳴は面白げに手を叩いた。
「それワシにも出来る?、やってやそれ(笑)、」
「え。いいっすけど…、」
そう言ってジョシュアが音鳴に手を伸ばしても、音鳴はピクリとも動かない。
「あれ?、ン〜…。あぁ、あれじゃないですか?、会長は俺と同じでN極なんですよ」
「へぇ〜。じゃあ引かれ合わんって事か」
「そうなりますね。なんかこのイベントも新要素考案の為の試験的なものらしいですし。ランダムで付与されてるって六法にも書かれてましたからね」
脳裏での真面目な内容を思い出したが、その一方ではよく分からないけれど恐らく分かったふりをして頷いている音鳴がチラリと視界に映る。
そんな姿を苦笑して見つめ続けるクッキーたち。
「なんや。よぉ〜わかっとるよ!、要は磁石なんやろ?、そういうイベントやんな」
「そうみたいですね〜」
トピオはジョシュアにぴたりとくっつきながら、次の犯罪は何をしようかと既に思考が別の話題に乗り移りかけている。
「あ!、というかていうか、コンビニ行かない?、グリーンも行きたいよね?」
「行きたいですね〜。…ん、でもこのまま行ったら絶対捕まりません?」
ジョシュアよりも背が高いJDは、水色フードの猫耳をパタリと片方押し潰して…そこにコテンと顎を乗せる。
「わ。お前らいま凄いわぁ、けっこうヤバいぞ見た目」
「だってそういう歪みなんですもん(笑)。仕方のないことですよ」
正直に言えば、白黒関係のない強制参加イベントなど知ったこっちゃない。
これは誰がどう見ても歪み。
皆はそう思いながら今日一日を過ごす他ない。
「困ったなァ…、まぁしゃーないか。結局の話、対極同士で無理やり引っ張らなくっつかん訳やし。それならまぁ大丈夫やろ」
「トラブルはつきものですからね、会長も気をつけた方がいいですよ。…あれ、」
「あ。早速やった?、ジョアやらかした?」
「…スゥー…、まぁまぁまぁ、大丈夫ですよ。全然余裕です」
ジョシュアは早速S極の二人を引き離す方法が分からない事に気が付き、小さく苦い笑みを浮かべてからゆるゆるとクッキーの仮面を被る。
「じゃあ行こっか。二人とも」
「連れてって〜(笑)」
「お願いしまーす(笑)」
くっつくだけの二人はクスクスと笑いながらジョシュアに連れられ、そのまま豪邸の外へと行ってしまった。
「おもろい事もあるもんやなぁ…、ふぁ…、まぁ俺には関係あらへんけどな」
誰かをわざわざ引き寄せて、一体全体何の得があるのやら。
「眠いわァ…、゙ん〜、もういっそのこと寝よかな」
一日限定の歪みなのであれば、今日を乗り切ればそれで事なきを得れる。
「まぁまぁまぁまぁ。俺先輩やからな(笑)、一応一応…、…ぉ?」
音鳴は一応でジョシュアたちが無事に出発出来たかどうかを見る為に玄関を跨げば、その途端にパキりと眠気が吹っ飛ぶ感覚を覚えた。
ぱちりと目を瞬かせ、もう一度正面をよく眺める。
「、?、…ん?、゙ん??、ぇ、ぐっさん?、」
『…、あぁ、はい。こんにちは…。』
ガチャリと開いた扉の外階段。
ガレージになっているその芝生の上で、何故だか空架ぐち逸がセール看板の棒に手を添えて立っていた。
「どないしたんそんな所で、」
『…いや、その…、、大変言いにくいのですが、私の身体がS極のようで…、構造を知るためとはいえ、迂闊でした』
怪我や病気、そして特別なお薬も…なんでもござれな個人医の興味がふつふつと湧いてしまったらしい。
街中で困惑の表情を浮かべる住民をぐるっと見てきた為か、空架ぐち逸はこの歪みを一種の病気と判断した様子だった。
『実体験が得られれば、何か改善する策や治療法を生み出せると思ったのですが…』
「えー、、となァ。何て言えばいいのか分からんけど…これは歪みでな?、しかも今日一日だけやからさ。治療法は流石に、一日じゃ見つけ出せんと言いますか」
『…そう、ですか。分かりました』
自由の効く左手で顎を抑えて、少しだけピクリと眉を寄せる。
「(これあかんな。ぐっさんの自己肯定感が下がるわ)」
世のため人の為、怪我人の為。
自分の犠牲など全く厭わない空架ぐち逸という男が、一生懸命人体の不思議に向き合おうと頑張っているというのに…音鳴は最短距離な正解をペラりと述べてしまった。
「ッとー…、あれやな。まぁこの街の住民はめちゃくちゃ強いから。一日くらい大丈夫よ!、な!」
芝生に足を踏み込んで、音鳴がぐち逸に近づく。
『はぁ…、そうですか』
呆れたかのような、諦めたかのような、そんな声色でぐち逸は呟いた。
『貴方もこの街の思想に毒されているようですね。いくら身体が強いからといって、本当に死を迎える可能性は0では無いはずです…それなのに』
歪み(流行病)の解明から、随分と重い話題を引き出してしまったらしい。
眼鏡の奥に潜むその黒い瞳には、何かをふつふつと耐え忍ぶかのような熱い色が見え隠れしている。
「え〜なに。ぐっさん怒っとるの?」
『……いえ。…ただ、もっと自分の身体を大切にして欲しいと、…思っただけです。不快に思われたのならすみません』
「いやいや、不快だなんてそんな事あらへんよ」
『はぁ、そうですか。なら良かったです』
空架ぐち逸は命を軽んじる人間が嫌いだ。
その軽蔑すらも覚えるであろう部類の人間としてラベリングをされかけている事実に、音鳴はきゅっと眉をひそめる。
「はぁ〜…それにしても嫌やなぁ、俺ぐっさんに嫌われとうないわ。でも重い話をわざわざ広げるのも嫌やしなァ…」
『全て声に出ていますが…』
音鳴が“゙ん〜”とか“゙あ〜”とか唸りながら空を見上げるので、ぐち逸はぱちぱちと瞬きを繰り返しながら無言で待つ。
「ん〜じゃあ分かった!、分かったわぐっさん!」
『はい』
「まずな?、俺は自分の身体を大事に出来る人間よ?」
『…はい』
「次に。この歪みは病気というよりかは、イベントの試作?で、俺らがモルモットにされとるだけなのよ」
『モルモット、ですか』
「そうそう。もし対極同士の人間がくっついたらどうなるんやろ?ってな。ワシらは試されてんねん」
音鳴の上手い口車に乗せられて、ギリギリ納得しかけているぐち逸の思考に更なる議題を塗り重ねる。
「ということはですよ。ぐっさん、俺らNとSやからさ。もういっそのこと実験体になったらええんちゃいますか?」
『…はい?』
「ワシとてそうなる予定はなかったけど(笑)、重い話も嫌やし、ぐっさんも被検体になれば治療法が分かるかもしれんし。俺めっちゃ天才やわ〜」
そう言って音鳴はぐち逸の方に軽々と手を伸ばす。
「ほなぐっさん。おいで」
指先からピリピリと念のようなものを送れば…その瞬間、ぐち逸の頑なにくっついていた右手がふわりと溶けた。
『ぁ、』
鉄の棒から離れたその右手。
いや、その身体の全てはするすると音鳴の身体に引き寄せられて、そのままピタリと磁石のようにくっついた。
音鳴の胸板や肩に両手を添えて、驚きで丸くなったその瞳が近距離で音鳴を捉える。
「ふは(笑)、はい出来た〜。これが歪み…じゃなくて、病の正体よ。ほな頑張ってな」
他人事のようにケラケラと笑って、音鳴はそのまま豪邸の中へと入り込む。
もちろんピッタリとくっついて離れぬぐち逸も一緒に、否応がなしに連れ去られて行った。
『音鳴さん、…、音鳴さん…、』
「ん。゙んー…なんですかぁ、ぐっさん」
音鳴の身体の上で、モゾモゾと小さく身をよじらせる空架ぐち逸。
まるで猫のような大人しさ、温かさ、そんな人肌の温もりに、音鳴は数十分ほど眠りについていた。
言わば昼寝である。
「っは(笑)、ちょ、くすぐったいて(笑)…も〜なんなん?、どしたんですかって」
『、あの……離して、くれませんか、』
「無理よ。やり方知らんもん。それに他の奴らもみーんなそうよ?、だから苦い顔しとったんよ」
“大半の人間そうやったやろ?”とぐち逸に問いかければ、ぐち逸は少しだけ眼光を見開いて口を噤む。
「やっぱりなァ。そうそう、だからぐっさんが解決策を見つけるんやろ?」
『、、…。』
「なんや。諦めるんか?」
『っ、…いいえ。では少し身体をお借りします』
「うん頑張ってなぁ〜」
個人医の空架ぐち逸にとって、諦めるという言葉はだいぶ抵抗のあるものだろう。
それを知ってか知らずか、音鳴はニコニコと笑みを浮かべながらもう一度目を瞑る。
「(いやぁ…丁度いいわ。ナイスぐっさん)」
のしかかるほどよい重さの身体、鍛え込まれた訳でもなく…肉付きの良い柔らかなさわり心地。
擦れる足先は緊張しているのか、落ち着きがなくて面白い。
『…、…。』
「ン、ちょ(笑)…、なんやくすぐったい、」
『…すみません。身体の自由が効かなくて…手のひらがどうにも離れず…』
その左手がもう一度、音鳴の胸筋をムズリと押し上げる。
「たはっ(笑)、こりゃ稀に見ぬラッキースケベやなぁ(笑)、まぁ男の胸やけど」
場を和ませるつもりで言ったその一言に、ぐち逸の体がカチリと硬直した。
「遠慮せずどーぞ?、ぐっさんなら許したるわ」
クツクツと喉を鳴らして、薄目でその表情を盗み見る。
『す、すけ…、』
「ジョークよジョーク。さっき貸してください言われたから、どうぞって許可しただけ。深い意味はあらへんよ?」
『そ、そうですか…』
ほっとしたその表情にまた鼻を鳴らして、音鳴は頭の後ろで腕を組む。
広々としたソファで2人きり…しかも、犯罪に向かった後輩たちはしばらくの間は帰ってこない。
「左手は胸、右手は肩ですか。なんや本当に恋人と寝とる一幕みたいやな」
“まぁまともに彼女なんておったことないけどなぁ(笑)”と、音鳴は何度だってクスクスと笑う。
『ッ…、音鳴さん。少し声のボリュームを落としてください』
「お。すまんすまん、゙んん…、…ほな、これでええか?」
範囲はウィスパーで尚且つ小声で話しかけ、音鳴は確認の為にぐち逸をコソコソと呼んだ。
「なぁぐっさん、これで静かやろ?。どう?、」
『、…、』
「あれ…聞こえとらん?」
問いかけたのにも関わらず、不意にそっぽを向かれたのでちょっと傷く真っ黒な心。
「おーいぐっさん…、聞こえとるやろ?、無視しんといてや。ぐっさん、…?、ぐっさん。…、ほなしゃーないのォ…すぅ…、ふ〜っ…、」
顔を逸らすぐち逸の片耳をするりと撫でて、ほんの少しの出来心に負けて吐息を耳の奥へと運び込む。
『っ゙ッ、』
「ふは(笑)…、なぁぐっさん、なんで無視するん?。どう考えたって聞こえとる筈やのに(笑)。普通にショックやわぁ(笑)…、」
『、…。貴方…、何のつもりですか、ンッ…、』
「いやぁ、こっち向いてくれんからさァ。耳でも痒いんかと思てな。ならワシが触ったりますがな」
『ッ、っ、別にそういう訳では…、』
「遠慮しんといてや(笑)、ほら、頭皮マッサージ的なやつと同じやろ。痒いところありませんかぁ?」
だんだんとこの状況が面白くなってきた音鳴は、ぐち逸の片耳を摘んでコリコリと指の腹で撫で回す。
「ぉ〜。肌もさらっさら、ピアスの跡も無し。ホンマに綺麗な耳しとるわ(笑)」
『゙っ、ッく…、っ、音鳴さん。本当に怒りますよ?』
「え〜なんで?、人にマッサージされんのって気持ちいいやろ?」
『良くないです』
「即答やないかい。ほな顔をこっちに向ければええやん。そしたら無闇には触らんよ」
『、それは…、……今は、ダメです』
「なんでよ(笑)、その感じじゃあホンマに首つるで?」
意外と真面目に心配をして、音鳴は突っ張った首筋にひたりと手を添える。
『っ、…、』
「ほらもう張ってますやん。痛いで〜?、大人になってからの寝違えは」
上から下にその肌を無意識に撫でて、子猫が首根っこを掴まれる時と同じ要領でキュッと軽くその首筋を摘む。
『ンッ…、っ…。』
「……ん?。…ぐっさんさぁ、なァんか様子おかしない?」
『…。いえ、特には』
「ほぉん。まぁ否定したいならそれでもええけど」
サラリと薄緑の前髪を耳にかければ、ぐち逸の赤みを帯びたその額がチラリと見える。
「、…ん〜、…゙ん〜、、、いやぁ、いやいやい゙や。俺は嫌われとうないねん。負けんよ!、その表情には負けんからなァ!」
『何を言っているのかさっぱりなのですが…』
訝しげな声色に苦笑いを漏らして、音鳴はぐち逸をもっと虐めたいという加虐心をグッッと堪える。
これが俗に言うキュートアグレッションなのか。
自分の言動1つでこんなにも顔を逸らして、赤らめて、体に熱をもって…なんとまぁ可愛らしい男なのだろうか。
『……、はぁ…、、』
汗ばんでいる手のひらは未だに音鳴の身体から離れる事はなく、不可抗力でぐち逸が指先に力を込めれば…ムぎゅっという筋肉質な胸の感触がその手にずわりと広がる。
「ふは(笑)っ、おもろい、どうしよコレ…、この状況えぐいわ。ぅわ〜遊びたい、めっッちゃ遊びたい、」
『?、遊ぶ…とは?』
「なんでもないわ゙ぁ…、ほっといて〜…、」
こんなに惨いお預けがこの世にあっていいのか。
極限状態の意識を近所の優しいお兄さんモードに切り替えようとした瞬間、ぐち逸の左手が磁石の力から開放される。
『ぇ?、』
「な?、ッンぐっ、びっくりたぁ、、なになに?、」
『いや…、私も分かりませんが…、なんでしょう……これ、』
不思議に思うのも当たり前だ。
だって今まで散々取れないと嘆いていたぐち逸のぺったりおて手が、途端に外れて音鳴の口元を抑えたのだ。
「どゆこと?、ン、ちょい邪魔なんやけど…、」
『、すみません、』
音鳴の唇に指の腹を添えて、ばらけて添えられた指の隙間からは音鳴の言葉が漏れ出る。
「すみません言うても、これ取れへんのちゃう?」
『……、…はい。取れないです』
「せやろなぁ(笑)、マジでなんやこれ(笑)。てかぐっさんの指めっちゃ冷た!、ひえひえやわァ」
本当に血が巡っているのか疑ってしまう程の冷たい指先、指の腹。
あまりの冷たさに“はぁ〜…”っと柔く吐息を吹きかければ、ぐち逸の表情がぴしりと固まる。
「はぁ〜…、ン、ど?、あったかくなった?」
『ッ…、……。』
「ングっ、ンン゙んっ?!、んんんン゙ン!、」
“なんや?!、善意やろ!”と呟くことも出来ずに、音鳴の口元にはぺったりとぐち逸の指が意図的に張り付く。
「゙んん〜!、」
『、。少し黙って下さい。いま考えていますから』
なぜこのような状況になってしまったのか、別の箇所へと引力の起動が変わるのはどういう仕組みなのか。
グッと眉間に皺を寄せて、ぐち逸はひたすらに考える。
「(うわぐっさんが黙れ言うたわ!、珍し〜、、)」
それほどまでにこの密接な状態にテンパっているのだろう。
『何か条件があるはずです。私たちが磁石の一部だと仮定して、無機物の存在が勝手に触れる位置を変えるはずがない…。だとしたら、私か貴方の気持ち…いや、単純に人の感情を主軸にして行動できる範囲を限定し、尚且つ引き寄せている?、』
「(難しいこと言っとるのはわかるけど、意味はさっぱりやな(笑)…、あ〜もう、どうせ取れへんなら少しくらいちょっかいかけてもええやろ)」
気難しい顔をするぐっさんも好きだが、音鳴という男はシリアスや真面目な話が得意ではないのである。
だから、これはほんの少しのアクセント。
先程のような赤みを帯びた素顔を見せてはくれないかと…、そんな好奇心を僅かに抱いて口をもごもごとさせる。
「ん、ン゙っ…、ンぐ…、…ぁー…、ぁぐ…、」
『゙ッ!、っ…、は…?』
ぐち逸が視線を音鳴の口元へと向ければ、そこには至って真面目な表情でぐち逸の指を甘噛みする男の姿。
驚いてピクリと指を曲げ、そのままぐち逸の中指が一本…、音鳴の口内へと入り込む。
「゙ン、…、ぁ…んぐ、」
驚いたように一瞬だけ目を見開いて、それから薄く瞼を細める音鳴。
「ん、ッ…、……゙ちゅ♡、」
『っく、……。』
押し入ってきた指に吸い付いて”かぷり”と甘噛みをすれば、おずおずと震えた手つきで指が引き抜かれる。
そこにはじんわりと赤みを帯びた歯型が残っており、まるで指輪のようにぐち逸の指を独占していた。
「っは(笑)、いきなり突っ込んで来るからびっくりしたわァ、新手の拷問か何かですかぁ?、」
『ッそ、そんな訳ないでしょう!、アナタ一体何をしているか分かっているんですか?、』
「よ〜分かっとるよ(笑)、これはあれや…、ンー…実験?」
ポクポクポクと時が止まって、ぐち逸は盛大なため息を漏らしながらもミシミシと音鳴の左肩を握りしめる。
「ぃててててッ、痛いわギブギブ!、ちょっとしたジョークですやん!、暇でしゃあないのよ今!、」
『暇だからって人の指を噛む人間が何処にいるんですか。本当にやめてください、心臓に悪い…』
「?、心臓に悪い?、…あ〜(笑)、確かにぐっさんめっちゃドキドキしとるもんなァ」
トンッと背中を軽く叩けば予想以上に身体を跳ねらせて、ぐち逸はまた訝しげな様子で音鳴を睨む。
「睨まんでくださいよ。もうせぇへんから、な?」
『………はぁ…、、。全く…。貴方という人は…』
それ以上の事も言いたげなぐち逸の口元は途端にきゅっと噤まれて、スー…という細い息が鼻から抜けた。
戸惑いで揺れるその瞳には、一体どんな感情が隠されているのだろうか。
「……なぁぐっさん、」
『…、。はい。なんでしょうか、』
音鳴はその瞳の答えを知っていた。
誰かに何かしらの好意を寄せる時、その瞳は柔らかく…そして、慈愛にも似た目付きを自然と生み出してしまうのである。
肌装甲のケイン・オーまでもが仲間をふと見た時にそうなるだから、正真正銘生身の人間であるぐち逸は絶対に好意を寄せてくれていると確信が持てた。
「…ぐっさんはさぁ、……(笑)、うさぎ好き?」
『?、うさぎですか?、…えぇ、まぁ、別に普通ですよ』
「そっかぁ(笑)。゙ン〜ほな、うさぎとワシならどっちが好き?」
『、はい?』
肩に乗っかっているピンク色の可愛らしいうさぎと、にヘラと笑っている派手髪な男を交互に眺める。
「俺?、それともうさぎ?」
『、…なぜ、そのようなことを、』
「純粋に気になっただけよ(笑)。まぁでもうさぎ以下の好感度だったら流石にショックやけどね」
”さぁどっち?、はよ決めて?”と催促を受けて、ぐち逸は突発的に音鳴から目を逸らす。
視線の先にはあまりにも遠すぎる白い壁。
「あ〜(笑)、あからさまにそっぽ向いたなァ、ぐっさん」
『…、いえ。突然周囲が気になっただけです』
「いーや、そっぽ向いとるよ。こりゃ完璧な逃げですわ。逃げ」
ちょっとだけ意地悪く呟いてみれば、ぐち逸はぴくりと眉を寄せて音鳴を見下ろす。
口元に張り付いていた手の平はいつの間にかスルスルと移動をして、音鳴の頬に軽く触れていた。
「なぁ、はっきりしてくれんと気になって眠れんわ」
じわりとぐち逸の肌に汗が滲んで、コクリと喉を上下する姿がはっきりと見える。
『、…、……っ、、』
音鳴が自らぐち逸の手の平に半顔を擦り寄せれば、もうそれだけでぐち逸の目元がシパシパと瞬いて…手元の震えが止まらなかった。
「………震えるほど、俺のことが好きなん?」
『゙ッ、っ…、……、からかわないで、ください』
「別にからかっとらんよ。そうだったら嬉しいなァて思っただけ」
『…なぜ、そんなこと、』
「ンえ〜(笑)だって、ワシぐっさんのこと結構好きやし。…、嫌われとうなくて空気読むくらいには。アンタのこと大好きよ?」
強制的に離れられないこの状況で、割かし真面目な言葉を呟く音鳴ミックス。
「ど?、アンタの目から見て、ワシの言葉はお遊びに聞こえる?」
『………、いや、……その、…上手く、状況を、読み込めなくて…貴方は、…いえ。それでも、貴方の感情はきっと、すぐに変化を求めると思います』
ギャンブル好きで、人たらしで、楽しみを得るために黒の道へと染まった男だ。
そんな人物が私みたいな得体の知れぬ人間を、ましてや融通の効かない堅物な男を、好くはずが無い。
「……はぁ〜…。ぐっさんの考えが手に取るように分かるわ。ホンマにアンタはもぅ〜…なんでそんな苦しそうな顔するん?、やめてやそれ」
『、すみません…。』
「謝られるのもまた違うし…、゙ん〜じゃあほら、ワシの言葉を真似して言うてみ?」
『、?、』
「ワタシは、」
『……私は、』
「うさぎより、」
『…うさぎ、より…、』
「みっさんの方が、すきです(笑)」
自信たっぷりに言葉を連ねるその様子に、ぐち逸は意味もなくコポリと空気を飲み込む。
「はい復唱どうぞ〜」
にこやかに目を細めてゆるむその瞳は、どことなく噛み付いた獲物を絶対に逃さぬ蛇のようにも見えた。
「言うたらご褒美あげるわ。…欲しいやろ?、ぐっさん」
ググググ…と謎の引力に強く手繰り寄せられて、ぐち逸の顔が音鳴の方へと近づいて行く。
『わ、わたし、は、』
「うさぎよりも?」
『、…ぁ、…貴方の、ことが、…ッ、っ…、』
“、好きです…、”と空気に溶けてしまいそうな程に小さく呟けば、音鳴はそれを聞き逃すこともなく、へは(笑)っといつもの調子で笑いを漏らしてモゾりと身体を動かす。
そしてぐち逸のおでこに張り付いた髪をクシャりと手ぐしで持ち上げて、そのまま…額に軽くキスを落とした。
「ン、…。はぁ〜…(笑)、アンタはホンマにええ子やなぁ。真っ白なぐっさんには、このぐらいが丁度ええんとちゃいますか?」
ぱちりと瞬きすらもせず、真っ赤に染まるその頬や首筋はきっと羞恥の現れだ。
その姿があまりにも魅力的で、音鳴はツツツ…とぐち逸の薄い唇を親指の腹で柔くなぞる。
「…、それとも、こっちにキスしても。許してくれるんか?」
『……、そうやって、貴方はまた、…誰かを、』
無意識に人の感情を乱して、たぶらかして、引きずり込んで、ひっそりと淡く脳裏に居座り続ける。
それでも、一度はっきりと言葉にしてしまった純情には抗えなくて…ぐち逸はなんの前触れもなく音鳴の唇に自身の唇を重たく押し付けた。
「ンっ…!、…ッ、ン…。」
今日限定の特大歪みのせいだと言わんばかりに、ぐち逸はきゅっと目を瞑って何度も何度もしっとりとそれを繰り返す。
「……、…。」
音鳴はその光景を噛み締めるかのように、ぐち逸になされるがままに…、奇跡のような幸福を味わい続けた。
それから数日が経って、数週間が経って、まぁもちろんのこと、あの一日限定の特大歪みはこの街から消えてしまった。
「゙いッ、っッ…、っは(笑)、いや痛すぎやろ…、」
パシュンと腹にねじ込まれた鉛玉に苦笑して、音鳴は現実を見ていた。
物資略奪の真っ最中、無線では“一箱いけました〜” と緊張感よりも楽しさを醸し出した声色が耳に通る。
「個人医〜、たすけて〜、」
数分前に押した救難信号に反応をしてくれた個人医たちが、パタパタと忙しなくヘリを着陸させる。
視野を広げればあちらこちらにダウンの黒市民がぶっ倒れていて、救助されるには少々時間を要するらしいと気がついた。
「いててて…、」
うずくまっていた自身の身体を無理やり仰向けにして、音鳴は空を見上げる。
灰色の雲が薄く広がっているその光景は、自分の今の心情と瓜二つだった。
「…はぁー…、らしくない事を考えとる、…嫌やなぁ、」
ナイーブな自分に嫌気がさして、音鳴はこのまま寝てしまおうかと考える。
血がドクドクと抜けていく感覚に気持ち悪さを感じながら、だんだんと意識が薄れ行くのを自覚した。
『音鳴さん。大丈夫ですか』
「゙っ、ッびっくりしたァ!、医者…、てかぐっさんやないですか、」
颯爽とバイクで現れたぐち逸に担架されて、怪我人を抱えたぐち逸はスルスルと現場から離れて安全そうな建物の裏に立ち寄る。
『銃創、出血、打撲、』
「あててて…、」
『すぐ治しますから。落ち着いてください』
冷静なくらいに落ち着いている音鳴の思考には、テキパキと働く個人医…空架ぐち逸の姿がはっきりと映し出されていた。
『っと、よし。あとは除細動器を…、』
「ッ、っ…、たぁ〜。はぁ〜(笑)、助かりましたわァ。どうもありがとね、ぐっさん」
除細動器を施し終えた瞬間、音鳴の身体は健康体なそれへと戻っていく。
松葉杖を強制的に持たされて、それでも音鳴は平然を完璧に装っていた。
『請求はどうしますか?』
「持っとるもっとる。今日は勝ったから払えるんよ。請求切ってええよ」
『そうですか、分かりました』
電子で送られてきた請求書をすぐさま承諾して、音鳴はへらりと笑う。
「ほなぐっさん。忙しいだろうし、はよ現場向かってください」
『迎えは来ますか?』
「ん、そやなぁ。まだ生きとる奴がいるっぽいから、ソイツに頼むわ」
『分かりました。ではお気をつけて』
医療バッグを懐にしまい込んで、ぐち逸はゆたゆたとバイクに手を添える。
「ッ、っ…、ッあのぐっさん、」
『?、はい』
ロングコートをクイッと片手で引っ張れば、ぐち逸は不思議そうに後ろを振り返って音鳴を見つめた。
「ぐっさん、あのな、あの…、ええと…、ッ、゙あ〜もう、なんでもあらへん!、違ったわ!、」
『違う?、何がですか』
「なんでも無いんよ、なんでもない、時間取らせてすまへんなぁぐっさん」
感情のジェットコースターが上がったり下がったり、音鳴は衣服を握りしめていた手元をパッと離して、代わりにバイバイと手の平を見せる。
『…、音鳴さん。最近ずっと、それですね』
「へ?」
『嫌われたくないからですか?』
ドストレートに突き刺さったその言葉に、音鳴は“スー…ッ…、”と気まずそうに長い息を吐く。
「…なんで分かったん?」
『以前にそう、仰られていましたからね』
「そっ、かぁ。まぁ確かに、言うたような気もしなくもない…」
結局キスを重ねたあとは、ぐち逸がすぐさま胸元に顔を押し付けて…それ以上の会話をすることも、ましてやいつもの様にお茶を濁すことも出来なかった。
嬉しさと気まずさと愛しさと後悔と、色々なものが入り交じって…、結局音鳴は、いつも通りの生活をこなそうと努めていた。
それが空架ぐち逸のためになると思ったからだ。
「…ぐっさん、はさ…別に、興味無いやろ?」
誰かを愛するとか、抱きしめるとか、傍にいるとか、わざわざ好意を伝えるとか。
「ワシはな?、別にそれでもええと思っとるんよ。ただ…、俺アホやからさ。たまに出てきてまうねんな。…、アンタに触れたら、感情に歯止めが効かんくなってしまったんよ」
全てはあの特大歪みのせいだ。
「ごめんぐっさん、ホンマにごめん。ごめんやけど、ッ…、好きなんですわ。ぐっさんのこと」
伝えたところで困らせてしまうだけというのも分かってはいるが、もうどうにもならない。
「言いたかったんはそれだけよ。また定期的に言ってまうかも知れんけど、流してもらってかまへんから」
黒マスクの下では気まずさが、そして小さな虚しさが募るばかりである。
『………、…、音鳴さん』
「ハイ…、」
『私も一つ、言っておきたい事があります』
「ハイ…」
『……。私も、貴方には嫌われたくありません』
「…ん?、」
『貴方が私に寄せる感情と、私が貴方に向けている感情とでは、…少しだけ、違うものが混じっているのかも知れません』
純粋な恋と、なにかに縋る…安心感を求めてしまう恋とでは、随分と愛に差が出来てしまうのではと思う。
『私は自身が思っているよりも不安定な人間で、歪な存在で。それに対して貴方は、いつでも自分に責任を持てる、素直になれる…とても良い人です』
だからこそ傍にいてはいけない、求めてはいけない、汚してはいけない。
そんな気持ちが分厚い壁を塗り固めていく。
『だから私は…、』
「っは(笑)、なんやそれ、」
耐えきれずにぷはりと息を吐いた音鳴の口から、さっきのやり返しとでも言うかのようにドストレートな言葉が紡ぎ出される。
「アンタ、それでもワシのこと好きなんやろ?」
『゙ッ、』
「愛の形とか関係あらへんよ。くどくど考えてワシのこと突き放して、そっちの方がよっぽど堪えるわ。やめてや、好きにならん理由を考えるの」
『ッでも、最終的に苦しむのはきっと貴方の方ですよ?、私はきっと、与えられた分の気持ち以上を対等に返すことが出来ない。やり方を知らないんです』
「そんなもん教えたりますがな。てか勝手に頂戴しますし…」
消失した松葉杖に手をグーパーとして、音鳴は首をコキリと鳴らす。
「アンタが思っている以上に、ワシは厄介な男よ?」
一度狙った獲物は絶対に逃がさない、他人に渡さない。
ずっと優しく見守ってきた純白のうさぎが、自ら足をつまずかせて、懐に転がり込んで来てくれたのだ。
「ワシに嫌われとうないんやろ?、ンで、傍にいると安心するんやろ?、そんでもってワシの事が結構好き。ッくは(笑)、ええやん。人間味があって大変よろしいわ」
ぐち逸のためにと遠慮していたが、こんなにも静かに自分の気持ちを飼い慣らそうと苦しんでいるのであれば、救いの手を差し出さぬ訳にもいかない。
「なぁ、ちょっと強引になるかもやけど。アンタのこと堕としていい?」
『っ、ぇ、あの、音鳴さ、』
スルりと頬に手を伸ばされて、ぐち逸は一瞬で背筋を伸ばす。
「大丈夫だいじょうぶ(笑)、ちゃんと手順を踏んで、一個ずつ。ワシから逃げれんようにしたるから」
グッと引き寄せた腰は磁石でも歪みでもなんでもなく、音鳴の意思とぐち逸のぐちゃぐちゃに乱れる心情から生まれた人肌の温もり、肌を寄せ合う産物だ。
『ッ…、おとなりさん、』
カタカタと震えるぐち逸の言葉にうっすらと目を細めて、黒いマスクを頭上へと捲り上げる。
「…、この前みたいにさ。ぐっさんと同じことするから。嫌やったら言って?」
『っ、゙っ…、ッ…、ぁ…、ッン、っ、ン、ン…、』
鼻から抜ける声が柔らかく溶けて、音鳴は心の中で悪い笑みをクツクツと浮かべる。
無理やり反発して逃げようとしていた感情を、強引に引き寄せて縛り付けて、本当に最低な人間だ。
「(まぁええか。…ワシ、悪い人間やし)」
クシャりと後ろ髪を撫でれば、ぐち逸の瞳がうっとりと微睡んで、無意識なのか音鳴の服をきゅっと握りしめる。
そんな行為にトスりと心を打たれてまた更に離れ難くなった恋心は…自信を持てないぐち逸の感情をもぐるりと絡めとって、もう絶対に離さなかった。
永久磁石。[完]
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