テラーノベル
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太宰の莫迦が腹が減ったとか何だとか五月蝿かったから、その日は仕事の合間に二人で飯を食いに行った。イタリアンの店だったから、俺はピザを頼んだ。彼奴は確か、名前は覚えていないが赤いソースのパスタを食べていたような。
――何度目だろう、この店に来るのは。数える気にもなれないくらいに、何度も何度も。
「ねぇ中也ァ、愛は食卓にあるんだって。」
『愛は食卓にある』なんて、目の前の男に最も似合わないような文言。前にもどこかで聞いた気がしたが、いつだったかは思い出せなかった。
「何だァ、?」
鼻で嗤った記憶がある。
向かいに座っていた彼奴は何時もの様子で肩を竦めて、
「さァね。まァ、そういう事にしておいた方が、少しは生きやすいだろう?それに何よりロマンチックじゃないか」
なんて、どうでも良さそうに云った。彼奴の言葉は何時も嘘くさかった。まるで誰かの言葉をそのまま代弁しているかのように、彼奴の言葉には熱意だとか、情熱だとか、そういうものがまるでない。温度がないと云えばいいのか、言葉の厚みがないと云えばいいのか。形容しがたい気持ちの悪さにどうしようもなく腹が立って、チッと舌打ちを一つ。
また、カチャカチャと食器の音。沈黙が流れた。
淡々と口にピザを詰め込んでいると、突然太宰が奇声を上げた。
「アーッ !!」
「なンだァ、 ?」
「零した….」
見てみれば、太宰の服にべったりと赤いソースが付いていた。まるで血みたいに。
『べちゃっ』という不快な音が、耳の奥で嫌に粘りつく。
太宰の服に広がった赤いソース。まるで血のように酷く鮮烈で、どうしようもなく胸がざわついた。ぞっとするような冷気が背筋を撫でた瞬間、俺は強く目を閉じた。そんな嫌な予感も、胸の不快感も、全部かき消すように勢いよく腕を伸ばす。
「….ったく、世話の焼ける首領サマだなァ、?」
乱暴な口調とは裏腹に、手を伸ばして太宰の首元に回したハンカチで、丁寧にその汚れを拭き取ってやる。直前まで感じていた気味の悪さを打ち消すように、目の前にいる男の温度を、確かにそこにある体温を感じたかった。――何故だか、確かめずには居られなかった。
「おや、中也。そんなに近寄って、私に惚れ直してしまったかい?困ったなぁ、 」
「手前ェなんぞに惚れてたまるかよ。冗談云ってる暇があンなら大人しくしてろ」
呆れたように鼻を鳴らすと、太宰は満足そうに目を細め、そのまま俺の手に自分の手を重ねてきた。包帯越しの、掌の柔らかくて温かい感触。
「ふふ、でも嬉しいなぁ。君はいつだって私を放っておかない」
重なる体温と、耳元で囁かれる甘い声。テーブルの上の料理も、店の喧騒も、いつのまにかどうでもよくなっていた。視界に映るのは、穏やかに微笑む太宰の顔だけだ。
「…太宰」
「なんだい?中也」
「…帰ンぞ。部屋で、手前の好きな酒でも開けてやる」
そう告げると、太宰は心底嬉しそうに目を輝かせ、「いいね、そうしよう」と子どものように頷いた。
コメント
1件
みぅだよ🤍🥀 読了したよ。中也の視点がすごく生々しくて、胸の奥がぎゅっとなった。「愛は食卓にある」って太宰の言葉、ほんとに彼に似合わないのに、なぜかすごく沁みるんだよね…。ソースのシミが血みたいに見える場面、ぞっとした。それなのに中也がハンカチで拭いてあげる優しさ、最後の「部屋で酒開けてやる」の締め方、めちゃくちゃ好き。重くて優しい、この温度差がたまらない。続きが気になるよ…🌙
#中原中也
匿名希望
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アオイ
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