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ここに来てから、息子が怖い。いや、あれはもはや私の息子とは呼べないかもしれない。見慣れた赤い体に、ニコニコとした笑顔。今まではそれが愛おしくて、可愛らしくて仕方がなかったというのに。今は不気味さ…それを超えて恐怖すらも覚える。
「c00lkidd…」
思わずそう呟く。
c00lkidd。私の、大事な息子。この命に代えてでも守り抜きたかった。そのつもりだった。
それなのに。
「…ごめんよ…」
私はあの子の父親なのに、独りにしてしまった。その間、どれだけ寂しかっただろう。隣に誰か居てくれただろうか。こんな薄暗い空間にいきなり連れ込まれて、どれだけ怖かっただろう。あの体に変えられたとき、どれだけ痛かったのだろうか。もう一人にしないと、どんなときでも一緒にいると約束したのに、なのに、私は…
「パパ!」
不意に聞こえた無邪気なその声と、背中に走る鋭い痛みで我に返った。
「さっきボクのこと呼んだよね!どうしたの?」
振り返ると、記憶の中にあるものと同じ笑顔が私を見つめていた。あの痛みは、c00lkiddに背中を勢いよく叩かれたことが原因のようだ。
「く…c00lkidd、いや、何でもないよ…」
取り繕った笑顔のぎこちなさを自覚しながら彼を見上げた。昔はあんなに小さかったのに、今はもう私の身長を優に超えている。
むっとした顔で彼はこう言う。
「なんでもなくないでしょ!だって、パパ、泣いてるもん…」
そう言われて初めて気がついた。どうやら知らぬ間に涙を流していたようだ。
「いや、これは……目にゴミが」
定番の言い訳しか出てこない自分の語彙を恨みつつ、震える声でそう答える。
「ウソつかないでよ!…ああ、そうだ」
何か思いついたのだろうか、ポンと手を叩く。
嫌な予感がする。
「な…なんだい?」
「きっとハグすれば元気になってくれるよね?」
息が詰まった。
確かに私は息子とハグをするのが好きだ。小さな彼の体は温かく、その温度すらも愛しかった。彼とハグをすると、どんなに落ち込んでいてもすぐに元気になれた。
しかし、今の彼は力の加減ができない。そんな腕で抱きしめられたらどうなってしまうか…想像しただけで恐ろしい。
「………。」
「ほら、パパ!ぎゅ〜!」
私が何も言えずに固まっていると、それを肯定と捉えたのか、c00lkiddが抱きついてきた。力強く抱きしめられる。
バキバキと、背中から嫌な音がする。
「えへへ、あったかい…」
彼の力はどんどん強くなっていく。
「前は毎日ハグしてたよね、なつかしいなぁ…」
何か言っている。しかし、聞きとれない。
「ずっとこうしてたいな…」
内臓がつぶれてしまいそうなほど、つよく…
「…パパ?…」
ボクの腕の中で動かなくなったパパに声を掛ける。どうしたんだろう?さっき、ばきばき、ひゅーひゅー、変な音が聞こえてきて、それからパパがぐったりして。何が起きたか全くわからない。
「パパ、寝ちゃったの?」
そっと体を離してパパのほうを見ると、目をつぶっていて、全身から力が抜けていた。もしかしたら、安心して眠くなっちゃったのかな。なんで泣いてたのか分からないけど、少しでも楽になったなら良かった!
だらんとしたパパの体を、そっと地面に横たわらせる。
「ほんとうはベッドに寝かせてあげたいけど、どこにベッドがあるのか分からないんだ。ごめんね…」
そして、こう声をかけた。
パパが昔、ボクに言ってくれていたように。
「パパ、大好きだよ…」
おやすみなさい、ボクの大好きなパパ。どうか、しあわせな夢を見られますように。