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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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オコンネル辺境伯の居城オイレン、その城下町にカドリは槍使いのニコルとともに辿り着いた。

一応、客分ということで場所を手配してもらえたのだが、当然、軍馬の脚には遠く及ばない。ベリーたちよりも遅れての到着となった。

「いつ来てもすごい」

広大な石造りの城下町を見て、ニコルがこぼす。

無防備なニコルの反応についカドリは口元をほころばせてしまう。

なにか言ってからかってやろうかと思ったのだが。

「きゃあっ、カドリ様よっ!」

黄色い声が響き、自分を指差す女性の一団が視界に入る。

ただ立っているとあっという間に取り囲まれてしまう。

無言でカドリはニコルに目配せして駆け出した。

「まったく、オチオチ通りも歩いていられない」

歌や容姿のせいで雨乞いの儀式をするたび、街の女性たちを魅了してしまうのである。

姿絵などと高値で商売されていると聞く。人はたくましいものだ。

「大人気なんですね」

じとりとした眼差しをニコルが向けてくる。

ニコル自身も秀麗な若者であるから、羨ましいのかもしれない。

「敬われることはないのだがね」

カドリは言うに留めておいた。

所詮は雨乞いなのだ。先祖代々、歌い、舞い、雨を呼び続けてきた。魅了せねば雨雲だって呼べない。

「城へ急ぎましょう。なんか、騒ぎが大きくなる一方じゃないですかっ」

なぜだか咎めるような口調でニコルが促す。

さすがに駆けるのよりも音のほうが速いから、進行方向に新手の女性たちが現れてしまうのだ。

「別に私は悪くないよ」

カドリは言い訳しようとするも無視されてしまった。

だがニコルは無視するのである。

ウェイドンの村を守る戦いを終えてなお、当然のように同道はしてくれていた。有り難い、という思いはカドリも強い。

(都度、人々の助けを借りることはあっても)

自分には仲間、と言える人間はいなかった。

人の中にあって孤独な存在である。

歌の巧拙や容姿の美醜について、もてはやされることはあっても、自分の人間性や人間性を構築したものを評価されることもない。

不機嫌そうな顔で駆けるニコルが人間らしくて好感を抱きつつある。

(このまま戦い続ければ、ニコルは戦友となるかもしれない。それは、魔獣である同胞とは、また別のものだ)

思いつつ駆け足で城下町を抜けて、オイレン城の正門に至る。

立番をしていた守衛に誰何されて、名乗ると即座に奥へと通された。迫りくる女性たちに恐れをなしたようにも思える。

「よく来た」

執務室に通されると、私服姿のロイドが言う。

「本当は帰ってほしいんじゃないか?」

笑ってカドリは告げる。

自分のことを、この武人らしい武人のロイドが苦手としているのはずいぶん前から分かっていた。

ニコルが複雑な表情を浮かべる。

「そんなことはない」

露骨に苦虫を噛み潰したような顔でロイドが応じる。

「お前の力はよく分かっている。今回も来てくれて助かった」

口では手放しで労ってくれるのだった。

カドリは鉄扇で口元を隠して笑う。

「村人と兵士たちとが勇敢だった。ここにいるニコルの功績も大きかったな」

自分はただ歌い、踊っていただけだ。

「あれは、私の実力では」

ニコルが余計ごとを言おうとしたので、鉄扇で手を打ってやった。手柄なのだから大人しく受けておけばいいのである。

「他の人間ではああはならないよ」

手を押さえて押し黙るニコルに、カドリはそっけなく告げた。

「とにかく、助けてくれるのは有り難い。何せ、聖女がいなくなったのだからな」

ロイドが自分とニコルとの会話を断ち切るように告げる。

「あれは、私にも責任があるよ。引き止めにしくじったからね」

カドリは肩をすくめてみせた。

当然、まだ諦めていない。次の同胞を既に国境を越えた聖女に差し向けている。だが、ニコルの前では口外できなかった。

「あれは、あの王子のせいだろう。どう考えても」

すげなくロイドが言う。昔からヘリック王子とロイドとは反りが合わなかった。

「聖教会の面子を潰して、聖女を失う羽目になった。面目を潰された格好の聖教会は、我々、世俗の領主には力を貸そうとはしなくなっている」

更にロイドが苦い顔のまま告げる。

厳密な所属としては未だ聖教会のニコルの顔も強張っていた。

「君のところはまだ良い方だろう?兵士も多く、屈強だ。レグダの前線以外は私の力なしでも持ちこたえているじゃないか」

カドリは薄く笑ったまま指摘する。

ロイド指揮下のオコンネル辺境伯領の軍隊は精強で知られているのだ。

町の人々にも余裕があるように見えた。少なくとも婦人方が自分を追い回す程度には。

「それでもギリギリだ。魔物がわらわらと北から湧いてくるからな」

ロイドがこぼすのだった。

聖女の張る結界と捧げる祈りによる聖なる気が魔物の出現を抑えるのだ。

今、現在は敵の数も質も問題なのであった。

「まぁ、いざとなれば、大物をカドリに倒してもらう目処がついた。そう、悲観し過ぎることもないか」

豪快に笑ってロイドが言い放つ。

自分に大物を押し付けるつもりのようだ。

あまりアテにされすぎても困る。何か言っておこうと思って、カドリは口を開くも、言葉を発する前に、執務室の扉がバンッとけたたましく開かれた。

「お兄様っ!カドリ様がいらしているんでしょう?なんで言ってくださらないのっ!」

黄色いヒラヒラとした服が視界に飛び込んできた。

「おや、リィナ様」

カドリはあらわれた少女に頭を下げる。

リィナ・オコンネル、ロイドの実妹だ。日頃は隠棲した両親とともに、城の離で暮らしている。

カドリとも旧知の中だった。

「カドリ様、お久しぶりです」

 優雅なお辞儀を改めて



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