──水凪自由side──
俺は立ち上がり即座に相手の姿を探す。
すると、物凄いスピードでこちらに向かってきている彼の姿が見えた。
不幸中の幸いと言っていいのは、かなり吹っ飛ばされたことにより大分距離が取れたということだろうか。
とにかく、こちらからも仕掛けなければさっきな二の舞になるだけだ。
そう思い、再び異能力を発動させる。
《水禍澎湃 whirling tides》
【水沫の刃 Water flow blade】
細長い水が横向きに物凄いスピードで発射されていく。
まるで刃のようなそれを避けながらこちらに向かってくる星乃歌カズ目掛けて追撃をする。
すると、避けきれなかった水の刃が頬を掠める。
傷口からは血が滲むが、意にも返さずこちらへ向かってくる彼は、まさに狂気だった。
何をしてもこちらに向かってくる彼への対抗策を短い時間で必死に考える。
そこで思い至った一つの考え。それは、逃げるのではなく、逆に自分から向かい、力で勝負をすることだった。
どうせ逃げてもすぐに追いつかれるのだから、一か八かに賭けてみよう。
《軟風千波 breeze surfer》
雨に乗って、空中を駆けていく。
今出せる最大限の力を振り絞って、最高速度で相手にぶつかりに行くのだ。
星乃歌カズ目掛けて走る。
相手も俺を目掛けて走ってくる。
ちょうどぶつかる頃、お互いに相手へ渾身の一撃を与えようと構える。
結果、ほんの一瞬の差で、星乃歌カズの拳が俺へと当たり、そのまま蹴りを入れられ、空中にあった俺の体は再び地面へと叩きつけられた。
「ぐッッ…ぃ”ッ……はは…強ぇや…」
起き上がろうとしても、体中が痛みで埋め尽くされ言うことを聞かない。
「…降参。俺の負けだ」
そう呟くと、前方から足音が近づいてくる。
「いや〜、めっちゃ強かった!ありがとう!お疲れ様!」
星乃歌カズはそう言いながらこちらへ手を差し伸べてくる。
その手を借り、体を起こす。
「ッ…はぁ…いや、手も足も出なかったよ…本当に強い。ぜひ幹部になって欲しい」
「マジ?!よっしゃ!!お願いします!」
そう告げ、再び硬い握手を交わす。
「とりあえず……りゅーじの所に行って治療してもらうか…」
その後、他の模擬戦が終わる頃に全体にアナウンスをかける。
この模擬戦でほとんどの人が怪我をしているだろうから、医療部隊へ行って治療をしてもらうことにした。
きっと医療部隊側も、実際に治療をすることも大事だろうし、なにより俺が重症だから治療してもらわないとまずいのだが。
俺より圧倒的に強かった彼は、きっと間違いなく幹部になるだろう。
俺が手も足も出ないのだから、もしかしたら幹部の中で1番強いのは彼なのでは無いのだろうか。
そんなことを考えながら、医療部隊へと足を進める。
──ヨシヅキ参謀side──
俺は中距離部隊担当になった。
中距離部隊は何をするのかよく分からないが、基本的に異能力を使って前線をサポートをしたり、長距離部隊の方まで敵を行かせない役割をするらしい。
つまり、異能力が重要だから戦いに向いているかつ異能力の扱いに長けている人物を見極めて欲しいとのことだった。
まぁ俺が選ばれたのは強力な異能力を持っているという点なのだろう。
そして俺が中距離部隊に応募した人達を纏めることになるのだが、思ったより数が多い。
近距離部隊よりは少ないとはいえ、30人くらいは居そうだ。近距離部隊の次にここが多いらしい。
俺はそこまでコミュニケーション能力に自信が無いのでとても不安だ。
しかも中距離部隊候補には、例の幹部候補の1人、彩音れおんもいるらしく余計緊張している。
だが、りゅーじに大体の段取りを考えてもらったからきっと出来ると信じている。
大体全員が集まった頃合で、拡声器の電源を入れ、りゅーじに伝えられたことを話す。
「え〜っと、お集まり頂きありがとうございます。ただいまより、中距離部隊希望の皆さんに、実力を測るための簡単な試験のようなものを受けてもらいます。内容は至ってシンプル、自分の異能力を披露していただいたり、異能力についてプレゼンをしてもらいます。中距離部隊は異能力での戦闘がほとんどになるので、どんなに身体能力が高くても異能力が強くなくちゃ意味が無い、逆に言えば、異能力さえ強かったらフィジカルがゴミでもなんとかなります。なので今から1人ずつ順番に異能力を披露してもらいます。準備ができた方はそこの列に並んで待っていてください。」
そう促し、全員が列に並び終えるのを待つ。
その過程で、なにやら見覚えのある顔を見つける。
ピンク髪にふわふわとした雰囲気、彩音れおんだ。
あんなやつが強そうに見えないが、人は見かけによらないとも言うし、気を引き締めて全員の前に立ち、1人ずつ呼んで異能力の審査をしていく。
ここでの審査の基準は、1番は戦闘向きの異能力か、2番にサポートができる異能力か、3番にやる気があるかどうかだ。
この3つのどれにも当てはまらないやつには今日帰ってもらおうと考えている。
そして1人目から異能力を実際に見せてもらう。
炎を操る異能力だったり、電気を操る異能力なんかは少し単純だな…なんて思うが、植物を操る異能力なんかはサポートにも攻撃にも使えそうだ。
武器を生成する異能力や、動物を従える異能力なんかもあるのか…なんて思いながら、それぞれに評価をつけていく。
すると、ついに彼の番が回ってくる。
「じゃあ、次どうぞ」
「はい、よろしくお願いします!」
彩音れおんが前へと出てくる。
「えっと…異能力を実際に使ってみても大丈夫ですか?」
「はい、誰も怪我をしない範囲であれば大丈夫ですよ」
「わかりました、では少し…」
と言うと、彼は目を閉じ、口を開く。
《私だけの演奏会 listen to my music》
《眠り姫 sleepiness》
【子守唄 lullaby song】
彼はとても綺麗な旋律を奏で、歌い出した。
とてもゆっくり、優しい声色で。
すると、この場にいたほぼ全員に、急激な抗いようのない睡魔が襲ってきたのだ。
頭がぼーっとして、目を開けるのもやっとになってくる。
何人かは倒れ、意識を失っている。
すると、俺も体がふらつき、ゆっくりと地面に倒れ込んでしまう。
寝てはだめだと思っても、歌が子供を寝かしつける母の子守歌のように心地よくて、安心してしまうのだ。
もういっそ、このまま意識を手放してしまおうかとも思えるほどに。
意識が薄れていったその時、歌声が止み、彼は柏手をひとつ鳴らす。
その、パンッという乾いた音によって、先程までの眠気が嘘のように無くなり、意識を失っていた人も次々と目を覚ましていく。
「ご清聴、ありがとうございました」
そう言って彼がお辞儀をすれば、みんなは唖然としながらも彼に拍手を送っていく。
「僕の異能力は、音を操る異能力と、相手を眠らせる異能力です。組み合わせるとこんなふうに、歌で周りの人を眠らせることだってできます。気に入って貰えましたでしょうか」
「いや〜…流石だね 」
俺も拍手をしながらそう答える。
やはり幹部候補に選ばれるだけのことはある。
というかほぼ確実に幹部になれるだろう。
その後も何人かの評価を付けた後、ふと後ろから声が掛かる。
「おっ、調子どう?順調そ?」
振り返ればそこには高生紳士がいた。
今は総統という立場なのに気軽に話しかけてくるものだから少しびっくりしたが、まぁ相手も自覚があまり無いのだろう。
「高生君かぁ…びっくりした…今は総統っていう立場なの忘れないでよ?」
「わかってるってwで、どう?特に幹部候補とか」
「あ〜、まぁもう決定で良いんじゃない?身体能力はわかんないけど、異能力だけで言ったらめっちゃ強いよ。ここにいる全員が一瞬で眠らされそうになっちゃったの」
「えすご!じゃあ決定の方向で一応考えとくね、それはそうと少し見学しててもいい?」
「あ〜、まぁ良いけど、近くにいると危ないかもよ」
「子供じゃねぇんだから…わかってるって」
「はいはい、じゃ、次の人どうぞ〜」
なんて話していたら、案の定周りはざわつき始め、
「え、あれが噂の総統?すげー」
「やっぱり強いのかな?」
「てか見られるってことだろ?!ここでアピールしねぇと!」
なんて声が聞こえてくる。
総統がこんな気軽に出て来ていいものなのか…?とも思いながら次へと進む。
──高生紳士side──
中距離部隊が異能力の試験だから1番面白そうという理由で来てみたが、予想通り面白いものがたくさん見られた。
他の人の異能力を見る機会なんか滅多に無いんだから多少くらい良いと思うんだけどな〜なんて参謀に思いながらも眺めている。
やはり俺は目立っているようで、俺はめっちゃ強いんじゃないか〜とか、俺を倒せばこの国のトップになれるんじゃないか〜なんて声も聞こえてくる。
まぁ、実際リーダーシップがあるってだけで強くもないし異能力だって得意な方ではないのだから、期待外れな総統だと思われないようにしないとな…なんて思いながら次の異能力は何かと目を向ける。
すると、いかにも若者といったような風貌の男性が前に出てくる。
確か彼の異能力は風系だったような…と思いながら見てみれば、なぜか少しニヤついているように見えた。
この状況で緊張しないのは凄いな…なんて呑気に考えていれば、彼は手を前に出し構え、後ろの大勢に向かって声を上げる。
「おいお前ら見とけよ!俺の大活躍をよぉ!!」
そう言うと、なぜか俺の方へ体を向けて魔力を溜め、放出する。
俺は突然のことすぎて反応が出来ず、襲いかかってくる台風のような風圧によって吹っ飛ばされてしまう。
「ぐッ…い”ぁッッ…!」
そのまま城の壁に体を打ち付けられ、全身に激痛と強い圧力を感じる。
「高生くん!?」
参謀が一瞬の驚きを見せた隙に、彼はさらに詠唱を続ける。
「俺がこんなへなちょこよりも、この国の総統に相応しいってこと、見せてやるよ!!」
そう言うと、俺に圧力を与え続けていた風の1部が、刃の様になり襲いかかってくるのだ。
流石にまずいとは思ったが俺の運動能力じゃ避けれるはずがないのだ。
その瞬間、どうにか少しでも状況を変えるために無意識に異能力が発動された。
《運命改変 Judgment》
【成功確率 65】
【結果 11 スペシャル】
俺は衝撃に身構えようとした時、防御耐性をとると奇跡的に全ての刃を避けることができ、やがて風が止んでいく。
《時空の理 gravity control》
【重量負荷 Load addition】
その瞬間、突然男の体制が崩れ、四つん這いのような姿勢になる。
「ぐッッ…体が…重い…ッッ…なんだこれッッ…」
「はぁ…総統に向かって攻撃をしたんだ、それ相応の報いは受けてもらうからな」
と、呆れた声で参謀が言う。
きっとこの男の現状も参謀の異能力なのだろう。
──ヨシヅキ参謀side──
「はッ?!こんなやつより俺の方が総統に相応しいに決まってんだろうが!!」
さっきから重力をこの男にだけ何倍にもしてるのにまだ騒ぎ立てやがって…面倒くさすぎるでしょこいつ。
「うるっさ…とりあえず君強制失格だから。ルール違反ね。今ここで大人しく帰るか、まだ粘って痛い目みるかどっちがいい?」
「何言ってんだよッ…!お前ら全員ぶっ殺してやろうか!?この俺が本気になればなぁ…!」
なんで無事に帰らせてやるって言ってんのにわざわざ騒ぐのかマジで理解ができない。
「はぁ……だから、うるせぇっつってんの」
《常世の傀儡師 world is mine》
どんな効果が起きるか細かくは俺も分からないが、とりあえずあの男に出来る限りの苦痛を味合わせたいと願っておく。
あいつが帰らないのが悪いんだからしょうがなくね?
「い”ッッぐぁ”ッッ!?ま”ッッくッ…ぁ…ッッ…!」
彼は瞳孔を開かせて体をどうにか苦痛から逃れようと捩るが重力を増やしたままのせいで逃げ道が無く、痛みに悶え苦しんでいるように見えた。
見た目に変化は無いからただ単に痛みが内部から来ているのだろうが、異能力を使った俺ですらも何が起こっているのかは分からない。
「あ”ぁ”ぁ”!ごめんな”さッッ…い”ぁ”ッ許し”ッッ…!!」
「はぁ…しょうがねぇな」
俺は意外と魔力の消費もえぐかったので異能力を解除する。
「ほら、さっさと帰れ」
そう言い転がっている彼を蹴れば、彼は急いで城から出て行った。
「高生くん大丈夫?!怪我は無い?!」
「あ、あぁ…まぁ、最初の吹き飛ばされたときに少し体を打ったぐらい…?他は特に…」
「良かったぁぁ…途中風の刃みたいなのも使ってたから深い傷とかが出来てたらどうしようかと…てかよく避けれたねあれ」
「あぁ…まぁ…自分でもよく分かんないんだけど勝手に異能力が発動して成功したっぽくて…」
「面白い異能力だよね〜…一応りゅーじの所行って手当してもらいな?もうすぐ試験も終わるし」
「分かった、そうする…てか参謀容赦無くね?」
「いや…なんかイラッときて…あと一応総統傷つけられたし?」
「一応て…まぁまだ総統とか1番上とかの感覚ないから忠誠心とかも無いんだろうけど…」
「ま、とりあえず治療してもらいな」
「はーい」
そのまま俺は中距離部隊の試験を終える。
さっきのやつと、あと数名の使い物にならなさそうな異能力のやつは帰らせてあとの人は一旦合格としておいた。
俺は高生くんの様子もみながらも自分の異能力についてもう少し研究しなきゃな〜なんて考えている。
──神辰J威弦side──
「おっ、これで全員やな?」
俺は遠距離部隊を任された訳だが、思ったより人数は少なかった。
ざっと10人くらいだろうか。
まぁ俺はどちらかといえば近距離の方が得意なのだが、他に遠距離を任せられる人がいなかったため俺が選ばれたというわけだ。
まぁスナイパーの試し撃ちをして上手かったやつを選べばいいのだろう。
「じゃあ、ここにあるスナイパーを使って順番に試し撃ちしてもらうな?とりあえず手本として俺が撃つからよう見ときや」
そう言ってスナイパーを取り、奥にある的を狙う。
スナイパーライフルなんか使ったことは無いが、きっと俺なら出来る。
【無敵の戦士 unequaled】
頭の中で俺がスナイパーを撃つ姿を想像する。
狙うは、的のど真ん中。
銃を構え、狙いを定めて
撃つ。
バンッという衝撃音と共に、弾が発射され、的に当たる。
的を見てみれば、結果、的のど真ん中に穴が空いていた。
「こんなもんやな、じゃあ順番にやってみ」
気がつけば拍手が起こっていたがそんなことは気にせずに試験を続けていく。
それから順番に試し撃ちをしてもらった。
結構全員レベルが高く、ほとんどの人が的の真ん中の方に当たっていた。
「はい、じゃあ試験終わりやな」
「申し訳ないんやけど、的に当たらなかった方は今回は帰ってもろて、他の人達はこれから数日間一緒に城で訓練をするかたちになります」
今回の応募者は12人だったため、的に当たらなかった2人を除いて10人で遠距離部隊の仮決定になった。
今回は銃の腕だけだったがそれぞれの異能力を使えばまた変わるかもしれないので、その訓練もまた後日しようと思う。
思ったより早く終わってしまったな〜なんて思いつつも次の指示やみんなが終わるのを待つために総統室に向かう。
──小日向りゅーじside──
「え〜っと…とりあえず医務室に案内するので着いてきてください」
医療部隊は募集したが5人しか来なかった。
まぁ医療ができる人は普通に病院とか薬局とかに勤めてるよな…なんて思いつつ、逆に5人も来てくれたんだと捉えることにする。
とりあえず医務室に連れていって治療の道具や基本のやり方などを教えればいいか…と思う。
他の部隊は試験をして優秀な人だけ集めるらしいが、ここは5人しかいないから全員合格でもいいだろう。
そうやって諸々を教えていると、突然医務室の扉が勢いよく開かれる。
「りゅーじ!治療してくれ!」
入ってきたのは水凪自由だった。
彼の体はめちゃくちゃボロボロで今にも気絶しそうな程だった。
「え、自由どうしたのそれ!?早く治療しないと…!」
「えっと、近距離部隊の訓練で模擬戦やったから怪我してるやつめっちゃいるんだけど……」
扉の方を見てみれば何人もの人影が見えた。
いやこの人数全員治療しろと…?んな無茶な……
とりあえず1人じゃ手に負えないのでりゅーこを呼ぶ。
《一心同体 another me》
「え〜っと…とりあえずりゅーこは他の5人に指示しながら治療始めてもらっていい?」
「あ、軽傷だったら異能力使わなくてもいいからね」
「わかった〜、任せてよ!」
そう言って彼女は人混みの方へ行く。
「…で、なんでこうなったの?」
「いや〜…カズくんにボコボコにされちゃったんだよな〜」
「カズって…幹部候補の星乃歌カズ?!」
「そうそう!めっちゃ強そうだから戦いたくなっちゃって…」
「何やってんだマジで……でも、自由がボコボコにされるくらい強いってことか……」
「そう!だから幹部にしていいと思うんだよな〜」
「まぁ、それはそうだね」
と話しながらも治療をしていく。
流石に怪我が酷すぎるから異能力を使わざるを得ない。
《万物の癒し absolutely heals》
「ん、サンキュー!」
「まったく…少しは後先のこと考えて行動してよ」
「ごめんってw」
「えっと…りゅーじ俺もお願いしても…?」
そう声を掛けられて振り向けば、そこには高生紳士が立っていた。
「えっ…高生どうしたの?!」
「あはは…実はその……中距離部隊の試験見に行ったら巻き込まれちゃって…?」
「はぁ〜……」
と、深いため息をつく。
「高生さぁ…総統なんだから、もっと自覚持って慎重に動いてくれない?」
「はい…スミマセン…」
「で、どこ怪我したの?」
「えと…背中を壁に打ち付けた感じ…」
「分かった、ちょっと見るよ」
服を捲ってみれば、そこには痛々しい程の大きな痣があった。
「うわ…痣になってる…相当痛かったでしょこれ…」
「ま、まぁ…」
「何したらこんなんになるんだか……」
「とりあえず治すけど…」
と言って高生にも異能力を使う。
「ありがと!ところで、治療部隊の方はどう?」
「あぁ…まぁ、人数が5人しかいないのもあるけど、全員医療関係者だし、全員採用でいいんじゃないかな…一通り教えたけど大体は頭に入ってそうだったし」
「おっけー…あ、ついでに聞くけど自由は近距離部隊の方どうだった?」
「あ、俺?俺さ、星乃歌カズと模擬戦したんだよ!そしたらボロ負けしちまったんだよな〜!だから、あいつは幹部で良いと思う!あとは大体強かったけど、何人か着いてこれてないやつがいたからそいつは不採用かな…って感じだな!」
「え、自由がボロ負けしたの?!えぐぅ…めっちゃ強いじゃん…」
「そうなんだよな〜、でもめっちゃ楽しかったぜ!!」
「あ、怖ぁ…戦闘狂の方…?でも自由がそこまで言うなら採用かな〜」
そんな話をしていれば、りゅーこが戻ってくる。
「りゅーじ、とりあえず治療終わったよ〜」
「お、ありがとう、お疲れ様」
「りゅーじもお疲れ。あの5人、結構手際良いから大丈夫そうだよ」
「そっか、ありがとう。戻ってもいいけど…どうする?」
「ん、そうしよっかな〜…」
すると、スッと俺の中にりゅーこが戻ってきて、目の前には誰もいなくなる。
「ほら、とりあえず2人とも総統室行くよ。誰か待ってるかもしれないし」
「確かに、あ、じゃあカズ君も連れてくか? 」
「そうだね!じゃあ4人で行こうか」
と言って星乃歌カズの方へ向かう。
「カズくん!怪我はどう?」
「あ、自由くん!もう大丈夫!」
「君が星乃歌カズくんだね!俺はここの総統の高生紳士。早速なんだけど、君を幹部にしたいからぜひ着いてきてほしいんだけど…どう?」
「え、マジすか!?ぜひ!!」
「本当?!わかった!じゃあこれからよろしく!」
そう言って高生は手を差し出す。
「よろしくお願いします!!」
カズはその手を取り、固い握手を交わす。
思ったよりあっさり決まったな…なんて思いつつ、他の幹部に知らせるためにも4人で総統室へ向かう。
──四宮伊織side──
「え〜っと…2、4、6、8、10…うん、全員やな」
「皆さんこっちですよ〜」
僕は司令部隊を任されることになったため、情報室に候補者を誘導している。
PCが使えるかどうかと判断能力があるかどうかを確認するためにテストをやってほしいとりゅーじに頼まれたので僕が作ったテストを人数分配る。
人数は12人。まぁ少し多いぐらいだが何人か落とせば問題無いだろう。
テストといっても、戦争をある程度知ってたり、少し機械が弄れれば大体は解ける程度の問題なため、点数が低ければ容赦なく落とそうと思っている。
こんなんもできないやつに司令なんて任せたくないしな。
その間は僕が暇なので城中に設置しておいた監視カメラを確認してそれぞれの試験の様子でも見ようかな…と思いPCを立ち上げる。
遠距離部隊はそれぞれが的にスナイパーを撃って当てるんか…まぁやったことあるやつと無いやつが分かるやろな…てかジョニーさんってスナイパー撃ったことないはず…と考えていると、ジョニーさんがスナイパーを構えて撃つ。
結果はど真ん中だった。
いや流石すぎるやろ…バケモンかよ。なんでも出来すぎて怖いわ……
近距離部隊は各自で模擬戦をしてるっぽい。
多分これで弱いやつと強いやつを可視化しているんだろう。
少し見ていると、自由と幹部候補の星乃歌カズが模擬戦を始めた。
「はっや…こっちもこっちでバケモンおるが……?」
2人の速度が速すぎてよくわからないが、とても高度な戦闘なのだろう。
自由は流石としか言いようが無いが、それに着いてきている星乃歌カズ…いや、彼が押しているようにも見える。
これは幹部候補になるのも納得がいくバケモノっぷりだった。
中距離部隊の映像に変える。
ここでは 各自の異能力をみて判断するらしいが…なんでここに高生くんがおるん??
とりあえず見ておけば、次のやつが高生に向かって異能力を使った。
「は?!…いやいや……ッ」
冷や汗がつたう。
風圧で壁に打ちつけられ動けないときに風の刃が襲う。
こんな攻撃をされてただで済むはずがない……と思ったが、やがて風は止み、中からはぐったりとしているが切り傷などの外傷は無い高生紳士が出てきた。
「焦ったぁぁ…ッ」
思わず深いため息が出てしまうが、本当に生きていて良かった。
あの風の刃をどうやって避けたのかは分からないが、それぐらいで死んでは総統は勤まらないのだろう。
総統としては危なっかしすぎるしそこまで強くもないが…とも思いながら映像を眺めれば、参謀がさっきの男を取り押さえているのが分かる。
彼もとても怒っていた。映像越しの表情でもわかるくらいに分かりやすい。
まぁ、ここの幹部だったら全員そうなるだろう。
高生くんがそのまま医務室へ向かいそうなのでカメラを切り替える。
医務室のカメラ…と思ったがなぜか人が異常に多い。
理由を探ってみれば直ぐに見つかった。
近距離部隊で模擬戦をしたら怪我人が多発したのだろう。
それは 後先考えない自由が悪いが……ただ、1番ボロボロなのは自由本人だった。
一体星乃歌カズとどんな戦いをしたのか…きっと見ていても分からなかっただろう。
ただ、とても笑顔なので楽しかったことだけは分かる。
その後に高生紳士も入ってきた。
2人ともりゅーじに治療をしてもらっているが…りゅーじは明らかに呆れてる。
りゅーじも苦労しとるな…なんて思っていると、テスト終了のタイマーが鳴る。
「はーい、そこまでですよ〜」
そう言って全員分の紙を回収する。
「ん、よく出来とるな……」
なんて呟くと近くにいたやつに聞こえていたらしい。
(何様だよマジで…こんなやつが幹部とかありえね〜)
まただ。
異能力のせいで近くにいるやつの心の声が漏れ聞こえてくることがある。
それは僕自身の意思関係無く、聞こえたくなくても聞こえてくる。
……本音というものは、人を傷つける。
言葉のナイフという言葉があるくらいに、言い方や受け取り方によっては言葉は人をも殺す凶器になる。
そんな言葉を、聞きたくないのに聞こえてしまうのは、どれだけ精神に疲労が溜まるか…
僕は昔から精神が弱く、人の目ばっか気にして生きてきた。
マイナスな言葉を聞かないために。
心にヒビが入った感覚。
一粒の涙が流れ落ちた。
「ッ…こっちの苦労も知らんくせに」
そうボソッと呟き、涙を堪える。
「…はい、じゃああとで合否伝えますので、少し待機でお願いします」
そう言って出ようとする。
(あんなのが上司とか最悪…)
(あんなやつどうせ仕事できないだろ。俺が代わりに幹部になれっかもな〜w)
扉越しにそんな心の声が聞こえた。
僕はすぐにトイレに駆け込み、個室に入り鍵を閉める。
「ッ…グスッ……ポロポロッ…」
涙が溢れて止まらない。
泣き止めなんて言葉は聞いてくれやしない。
「ッ…僕…生きるの向いてへんな……ッ」
「またここも…すぐに居場所が無くなってまうんかなぁッッ…ポロポロッ」
これからなんか不安しかない。
幹部のみんなは優しいが、たくさんの部下の上に立つなんて、1番向いてないのだ。
…ただ、僕がここに惹かれたのは…
自分を変えたいと思ったからなのかもしれない
涙を拭い、深呼吸をして、みんなが待っている総統室へ向かう。
心の中で、魔法の言葉を唱えて。
(大丈夫…僕なら出来る)
コメント
3件
自分あたなる好きだから、書いてくれるの嬉しいです!!! しかも、内容も書き方も全部見ていて飽きないので一生見ていられそうです! 神作最高!!!!!!
続き待ってました!! 一つ一つのストーリーの内容が濃くて、満足度えぐいです!w あたなるのそれぞれの個性が異能力とかに表れまくってて、この作品大好きなんです! 素敵なストーリーをありがとうございます!✨