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俺は 、 こんなに 記憶力が悪かっただろうか。
──────
俺の隣から居なくなった、あいつのことは覚えていようと。
いなくなる時に、写真を消せと言われた。
だから、俺の頭の中にしかあいつはいない。
忘れてはいけない。忘れたくない。
あいつはもうこの世にいないんだ。
俺だけは忘れちゃいけない。
──────
「 ぼび ー !!!」
「 なんやねん、 早朝やぞ。 」
「 な、ここ良くね ? でーと、行っちゃいましょうよ 」
「 知らん知らん。 今日は寝るって約束したやろ。 」
「 ケチ、明日行こうぜ。 」
「 ん、それならまぁえーよ 」
───
「 ぁ゛ ぐっ、 ふ、 … 」
「 なに 声抑えてんの 笑 恥ずい ?笑」
「 くそ゛ッ うるせぇわ゛ぁっ、 ふ、っん、っ、 」
「 ぁー、 ゛可愛いな。 お前、笑」
──────
あいつの一挙一動を忘れぬように。
本当の意味で、俺が1人に、あいつをひとりに。しないために。
あいつの 甘ったるい声も 、あいつのチャラけた声も、 大好きだ。
大好きだった。
──────
「 ボビー、俺 お前が好きだよ。 付き合って欲しいんだ。本気で 」
「 ぼび ー。愛してる 」
「 裕太 ゛、 好きだよ、っ、 出していい 、? 」
「 ぼびー は俺の相棒だよ。 」
「 ずっと一緒ね。 」
「 俺が死んだら、 俺との思い出は全部捨てて。 」
──────
ちゃんと言いつけを守った俺を、褒めてくれるあいつはいない。
なのに、 それなのに。 たった 数ヶ月で、 俺はあいつの声が分からない。
どんな声をしていたか分からない。
何となく、 高くはなかった。 ような気がした。
ニキの声って、どんなんやった??
──────
俺にほほ笑みかける あの顔が大好きだった。
俺がいくらいじっても、あいつのようにはかなくはなれなかった。
眉を下げて笑ったり、 ふざけたり。
俺に向けられる顔が好き。
甘く、蕩けて。 汗を滴らせただ雄の目をして俺を見つめる顔がすき。
真剣な顔は、イケメンさが際立って好きだった。
──────
「 ぼびー、 俺お前が好き。付き合って欲しい、本気で。」
「 ぼびー!! 」
「 ふ ゛、可愛いじゃん 。 」
「 照れてねーーーし 」
「 愛してる。 ずっと 」
──────
声は、もう思い出せない。言ってくれたことだけを思い出す。 ノイズのように、 なんか違う、しっくり来ないニキの声で頭の中で再生する。
ニキは、イケメンだった。イケメン、だった。それ以外分からない。俺に微笑みかけてくれた甘い笑顔が、俺の頭から消え去っていく。
たった数年。 俺とニキが過ごした時間 は、 それだけで 消えていく。
ニキの 顔って、 どんなんやっけ。
──────
ただ、あいつのことは覚えておかないと。
俺とあいつが、付き合っていたことを。
愛し合っていたことを、たとえ戯言だとうと俺が覚えていなければいけない。
絶対に、絶対 。
──────
「 ぼび ー、!! ―― 、よ!」
「 ね ゛、 ――。 ぼび ー ―― ?」
「 裕太゛ っ、 ――― 」
「 ―― 、 でさ。 ―――なんだよねー。 」
「 ぼび ー。 俺お前が ――― 。 付きあって ――― 。 ――。 」
──────
ダメだ。おれのいちばん大切なものが消えていく。
思い出せない。声も、顔も、あいつが俺にしてくれた告白も。
分からない。 本当に。 行為の時あいつはどんなだった ?あいつって、どんな性格 ?
優しかった。 それだけ ?面白かった。 何が ?
誰よりも分かっていた 「ニキ」のことを、俺は 何も分からなくなってきている。
忘れたくない。嫌だ。 忘れたくない。
──────
数年。 ほんとに、それだけなのに。俺はニキを思い出せない。
微かに残っているのは、 あいつの 甘く優しい匂い。 何も良くない。声だけでも、顔だけでも。記憶だけでも残っていたら。もっと俺とニキの繋がりは強固なものだった。
よりによって、俺の頭に残っているのは あいつの匂いと 、 死にゆくあいつの笑顔。
どうしようもない。
このまま、 このままが俺が ニキと過した日々を忘れてしまうくらいなら。
ニキと愛し合っていた俺が死ぬくらいなら。
俺という存在がしぬのとなんの代わりもないだろう。
お前は怒るっけ、悲しむっけ。それすら分からへん。どんなやっけ 。ほんとに、たかが数年。十数年。
頑張った方や俺。 ニキ。
この 、お前が居なくなってから。俺頑張って生きた。やから、お前のことを覚えさせて。一生忘れられへんように、一生ずっとにおって。
ごめんな。 言い付けを破った俺を、叱ってくれてええ。それでお前のこと思い出せる。
どうか、俺の中から消えないで。
──────
「 俺のこと、 思い出した? 俺こんなんだよ。 」
「 あ゛ァ、そうやったなぁ゛… 、こんな、こんな 顔しとった。 」
「 そう、そうだよ。お前がずっと愛してた俺だよ 」
「 優しい声やな、 十数年ぶりや。良かった 、お前が消えてなくて。 」
「 俺は不滅だって、言ったろ? 」
「 そうやな、 そうや。 お前はそんなやつやったわ 笑 」
「 もう俺は消えないよ。きっとね」
。