テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「一緒に死のうか」
「なにで?」
「選ばせたげる。」
「きれェに死ねるやつ。」
ーーーーーーーー
カチ、カチ、とドアを壊そうとする警察の工具の音が、遠くで不快な不協和音を立てていた。
だが、この白い部屋のなかにいる僕たちには、もう何の関係もない。
彼の指先は驚くほど冷え切っていたけれど、重ねた手のひらからは、確かに僕を全肯定してくれる熱が伝わってきた。
僕は彼の胸に耳を当て、小さくなっていく鼓動の音を聴いていた。『これで、ずっと一緒だね』。
至極真面目な顔で、彼は微笑んだ。
僕の耳の奥を支配していた激しい耳鳴りは、いつの間にか消え去っていた。
客観的に見れば、僕たちは狂った犯罪者と哀れな被害者なのだろう。
だが、この血の通わない静寂のなかで、僕たちは誰よりも深く、確かに救われていた。
外の廊下からは、僕たちの日常を壊しに来た警察たちの、せかせかとした足音が近づいていた。
だが、鍵の閉まったこの仄暗い一室には、世界から取り残されたような静謐が満ちている。
「お待たせ」
彼は小さなガラス瓶を差し出した。
透明な液体は、月光を浴びておしゃれなカクテルのように妖しくきらめいている。
恐怖による震えはなかった。
僕たちはただ、金縛りに遭ったように佇んで、その「救い」を見つめていた。
彼は自分の唇を湿らせたあと、残りの毒を僕の口元へと運ぶ。
喉を滑り落ちた冷たい液体は、一瞬にして僕の胸の奥で不気味な鳴動を始めた。
じわじわと指先から熱が逃げていく。
視界は白昼夢のようにモノクロへと反転し、激しい耳鳴りが耳の奥を支配する。
それでも、重ねた彼の指先だけは驚くほど熱かった。
崩壊していく肉体のなかで、僕たちは互いの鼓動を確かめ合うように深く抱きしめ合った。
そして、深い深いキスをした。
彼の舌が、僕の脳みそを蝕んでいく。
客観的に見れば、これは哀れな若者の破滅だろう。
だが、僕たちの耳にはもう、世界の不協和音は一切届かなかった。
こと-koto
163
#短編集
masyu
138
やーいずやぽーにぃ
111
虹花 ありさ @て い ふ
15
ーーーーーーーー
「毒を煽って死亡、か。」
淡々と言っていくその言葉の中にも、人情はあるのだろうか。
「また面倒臭いことになりましたね?」
「本当な。」
プログ・ノーシスという生命体は、我々で見る犯罪的な一面も持つと共に警備隊的なものも担っている。
だが、この世界の警備隊とは謂わば生命管理担当課。
この世界の犯罪という名の“死”を取り締まり、それ以外のものには目を瞑る。
そして、その中には犯罪とまではいかないもの、命を自ら絶つ行為、つまり自殺・心中も取り締まっている。
毎日毎秒、この世界の誰かが自殺している。
だからかこの会社はかなりのブラック企業であり、寝る暇もない程だ。
実際に殆どの従業員は目の下が真っ青であり、休みなどはもっての外、昼食時間も3分ほどである。
その時間に従業員は、流動体の食事を喉に無理矢理通らせ、また業務に戻る。
流動体の食事はまるで嘔吐物のようで、食すやつの考えなど一切取り入れていない。
それが社内で配布されるのだから、流石にこの世界の住人もそれには吃驚だろう。
そんな生活を毎日毎日送っていたら勿論のこと倒れること他無く、そんなことが日常茶飯事である。
だが、この世界には法律というものは存在しておらず倒れても其の儘家に帰すだけだ。
だが、そんな中でもプログは肌の艶めきを失っておらずいつも変わらず業務に取り組んでいる。
「プログさん、どうして毎日そんなお綺麗なのですか?」
「ふむ、初めてされた質問ですね。」
「すいませんッご不快でしたか?」
「いえ、全然そんなことはありませんよ。
綺麗…まぁ、私たちには食事や睡眠は必要ありませんから。」
「やっぱりそれですよねぇ。いいなぁ!」
「まぁまぁ、種族はどうにもなりませんよ。」
「そうですよねぇ…あ!そういえば、こんな薬知っていますか?」
「なんでしょう」
そう言って部下が取り出したのは、一枚の写真だった。
見覚えのある薬だったが、一応聞いてみた。
「…これは?」
「これはですね、最近中小の闇組織で流行っている『種族を変えられる薬』ですよ!」
「…それは非常に興味深い。」
「そういえば、最近それ関連の仕事が入ってきていた気がするんですよ。…ぁ、そう、これです」
そういって部下は資料を何処からか取り出した。
「それは、貴方のでしょうか?」
「はい、そうなんですよ。」
「私に任せてはくれませんか?」
「え?まぁいいですけど」
「感謝します」
「いや、こちらこそ。」
部下はとても嬉しそうに微笑み、無駄に出した資料をしまった。
そう資料を受け渡された。
ぺらぺらとめくっていると、ひとつ不可解なことがあった。
“押収した例の薬は、担当員が所持しても良い”
ふむ、最近の捨得品管理担当課はどうなっているのか。
…後で凸るか。
玻璃の中の結晶水 前編
コメント
3件
うわ、これすごい…。冒頭の「一緒に死のうか」からの静謐なやり取り、めっちゃ美しくて怖かった。毒を飲んだ後の「指先だけが熱かった」描写とか、対比が効きすぎてて刺さったわ。後半のプログ・ノーシスって組織も気になる。種族変える薬とか、なにそれ超SFじゃん。続き読みたい🔥