ナジュミネは一呼吸置いて、口を開く。
「始まる前と終わった後に嬉しそうに話してくる今日のモフモフ話が、こう何と言うべきかな。もちろん、旦那様の嬉しそうな顔を見られるのはとてもいいことだとは思うのだが、なんか、こう、すべてぶち壊していく感じがするな……」
ナジュミネは話を続ける。少しずつ無表情だった顔に感情が戻ってくる。ただし、喜びや笑顔からは遠い。
「始める前のドキドキな雰囲気もそうだが、特に、終わった後のこういろいろあって、何か満たされているなって雰囲気の時に、妾が添い寝をしているにも関わらず、嬉々として関係のない話をされると、なんだか妾が蔑ろにされているようで少し寂しいではないか。もっと、こう、イチャイチャしてもいいはず! そう、もっとイチャイチャしてもいいはずだ!」
普段は言うこともないナジュミネの小さな怒りがリゥパという話し相手を得たことで、頭を出すかのように込み上げてきたようだ。
「なんか、急に語彙力が戻ったわね。それは気持ちがすごく分かるけど……ある意味、どこまでいってもムッちゃんって感じがするわね。らしいと言えば、らしいけど。まあ、私はそういうのも聞いてあげられるから、ムッちゃんは私との方がそういう話を満足してくれるかもね」
リゥパは少しばかりの活路を見出す。彼女は、ナジュミネはまだまだ若く自分都合の面も見えてくる、ユウは女神なので確認はできていないけども少しワガママではないだろうか、と想像し、やはりお姉さん的なポジションが足りていないと考え始める。
そのリゥパの推測に大きな間違いはないが、彼女自身も割と自分都合の面があることに気付いていない。加えて、ユウにはお姉さん的お母さん的な面もある。
「む。そのようなことはないだろう。妾も仔細まで旦那様の話を聞いているぞ」
「甘いわね。私の方がモフモフの知識があるのよ? 楽しいに決まっているじゃない?」
「むむ。それこそ甘いな。母がよく言っていた。男の自慢は黙って頷くだけでよいとな。知り過ぎていて、話を挟むような真似でもすれば、旦那様も意気消沈してしまうかもしれないぞ」
ナジュミネはナジュ母の言葉を思い出しつつ、教えてもらったことを口に出す。しかし、彼女はふと思った。ナジュ父が自慢話をしているところなど見たことない、と。そもそも、長いセリフを聞いたことがない。ナジュ母には自慢話もしているのだろうか、と。
「それにもし、そんな仏頂面で聞いているならムッちゃんも少し悪いと思っているかもしれないわね」
「むむむ。妾は旦那様の前で仏頂面などせん」
リゥパの軽口にナジュミネはハッとして、負けじと言い返す。
「それはどうかしらね。今も思い出しただけで険しい顔にまでなっているわよ? 私のときが楽しみだわ」
「そうだな。こればかりは蓋を開けてみねば分からぬからな。決して負けぬ」
リゥパとナジュミネが互いを見つめて、火花を散らす。その先では、後ろをたまに振り返りながら、ルーヴァと歩くムツキが溜め息を吐く。
「2人は仲が良いのか、悪いのか、今一つ掴めないな。喧嘩するほど仲が良いというやつかな? 一緒に住むから仲良くしてもらえるといいんだが」
「さあ、どうでしょうかねえ。あーしには分かりませんけど、1つだけなら言えることがありますよ」
残念ながら、ルーヴァにはすべてが筒抜けだった。彼女はなんとも微笑ましい話を聞けて、至極楽しかったのだが、ムツキのモフモフ話にナジュミネが少し辟易しているというところは何とも言えない気持ちになった。
「ん? なんだ?」
「いーえ、あーしがユウ様に報告した後に、たっぷりと怒られたらいいんじゃないですか?」
たまには意地悪と言わんばかりに、ルーヴァはその翼を羽ばたかせながらムツキにそう告げた。ムツキの表情が少し暗くなる。
「えぇ……お叱り案件かよ。ナジュ、何を話しているんだろうか……」
ムツキは少し長めに振り返ってみる。それに気付いた2人がにこにこと笑顔を振りまいてくる。
「やーね、ムツキ様。女の子の話に聞き耳なんて立てたら、それこそ、ユウ様に怒られますよ?」
「……そうだな。気を付けよう。ありがとうな。しかし、叱られるのか……何なんだろうな。というか、ナジュに謝らないとな。でも、自覚ないのに謝るのも悪いよな」
「まー、ムツキ様のそういうところは、皆から好かれているから大丈夫ですよ」
ムツキはたとえ自分に都合の悪いことでも決して口止めをしようとしない。その誠実さは誰しもが彼を好きになる理由の1つでもあった。
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